サファリ&アドベンチャー・パーク ロングリートを征く

●征くシリーズ●取材・執筆・写真/本誌編集部

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日本がお手本?

ようやく重い腰を上げてのっしのっしと歩き出したトラの姿をキャッチ。

2000年~09年にかけてBBC2で放送されていたドキュメンタリー番組『アニマルパーク』は、サファリパークでの動物の生態、飼育員の日々などを紹介して人気を博し、記憶に新しい方も多いかもしれない。同番組と、同番組の前身で1998年と99年に放送された『ライオン・カントリー』の舞台となったのが、今回取材版が訪れたウィルトシャーにあるサファリパーク「ロングリート・サファリパーク」だ。敷地面積約9000エーカー(約36平方キロメートル)におよそ500匹の動物たちを有する同パークは、アフリカ以外では世界初のドライブスルー式サファリパークとして1966年にオープン、英国最大の規模を誇る。

この「世界初」を実現させたのは、ジミー・チッパーフィールドJimmy Chipperfield(1912―90)という、17世紀から続く老舗サーカス団「チッパーフィールド・サーカス」の団長であった。動物の曲芸などを披露しながらヨーロッパや極東を巡回していたチッパーフィールドは、広大な土地に動物を放し飼いにし、車に乗ったまま動物を観察するというテーマパークの開設を考案。ウィルトシャーに広い敷地と大邸宅「ロングリート・ハウス」を所有するバース侯爵に、敷地の一部を解放してくれるよう掛け合った。

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高額な相続税に悩まされ、戦後すぐに邸宅の一般公開を余儀なくされていたバース侯爵は、チッパーフィールドの提案を快諾、100エーカーの土地に50頭のライオンが放された「ロングリート・ライオン」が誕生した。これが大好評となり、チッパーフィールドはリバプール近くのノーズリーKnowsley、ベッドフォードシャーのウォーバーンWoburn、バークシャーのウィンザー、スコットランドのブレア・ドラモンドBlair Drummondに次々とサファリパークを開設。アメリカ、ヨーロッパにも事業を拡大し、文字通り億万長者となった。このチッパーフィールドの成功が火付け役となって、ロングリート開設以来10年余りの間に世界中で50近くのサファリパークが造園されたという。

オグロヌー(Blue Wildebeest)やシロオリックス(Scimitar - Horned Oryx)など動物園では見かけない珍しい野性動物がいっぱい。

ちなみに、英国内に開設された前述のサファリパークのうち、1992年に閉園し、96年にレゴランドに取って代わったウィンザーの「ウィンザー・サファリ・パーク」以外はすべて英国の人気娯楽施設として今も存続している。

世界中に新たな娯楽をもたらしたチッパーフィールドの斬新なアイディアは、実は東京の多摩動物園にある「ライオン園」をヒントにしたといわれる。
ライオン園は、小規模であるが「ライオンバス」の中から猛獣を観覧するというサファリ形式をとっており、ロングリート・ライオン誕生の2年前、1964年5月17日に開園した。世界中を巡回していたチッパーフィールドが日本でライオンバスに乗ったのか、単にライオン園のニュースを聞きつけたのかどうかは定かではないが、都市動物園としては世界初のこの展示方式にビジネスチャンスを見出し、サファリパーク実現に至ったとされる。厳密には世界初のサファリパークの本家本元は多摩のライオン園だったと言っても過言ではない。

荘厳なステートリー・ホーム

日向ぼっこをしながら気持ち良さそうに寝ていたメスライオン。
サファリ・バスの2階から見たサイの群れ。

湖畔沿いを走るジャングル・エクスプレスは鉄道ファンにも好評。

ツアーはじめにトイレタイムもかねて下車するキリン園では餌やりも実施される予定。キリンたちを背にツアー参加者たちが記念撮影。
取材班がサファリ・バスから見かけたサル。車のワイパーなどをひっかいたり、窓を叩いたりしている。車内の子供は大喜び。

取材班は3月半ばの、夏到来かと思われるような汗ばむ気候の中、ロングリートへと向かった。サファリパークの取材には絶好の晴天ぶりだ。ロンドンから車を走らせること約2時間。ベイジングストークを過ぎ、ソールズベリー近郊でストーンヘンジを横目に眺めてから、およそ30分程度で「ロングリート・サファリ&アドベンチャー・パーク」に到着する。
ゲートをくぐり駐車場までにたどり着くまで、徐行しておよそ5分。目の前に緑がまぶしい広大な芝の地が続く。18世紀半ばにケイパビリティ・ブラウンが手がけたという風景式庭園と車道が美しい。

ロングリートはおおまかに3つのアトラクションからなる。まずは前述の「サファリパーク」、主に小動物を集める動物園およびプレイグラウンド、迷路園などからなる「アドベンチャー・パーク」、そしてバース侯爵の邸宅として一部が公開されている「ロングリート・ハウス」だ。

自身の肖像画とともに微笑む第7代バース侯爵。
© www.longleat.co.uk

エリザベス朝建築の最高峰ともいえる「ロングリート・ハウス」は、かつて修道院であった建物が1567年に火災により焼け落ちたのに伴い、ジョン・シンJohn Thynne卿が買い上げて建て直ししたもの。建築に12年を要したとされ、均整のとれた荘厳な佇まいは建設当時のままだ。
シン卿は初代サマセット公爵のエドワード・シーモアに執事として仕え、シン家はのちに準男爵、ウェイマス子爵を輩出し、18世紀末からバース侯爵を代々名乗る、500年以上の歴史を誇る家系である。

現在のバース侯爵アレグザンダー・ジョージ・シンAlexander George Thynnは第7代目であるが、自称政治家兼アーティスト兼作家で、そのエキセントリックな風貌や趣向が時折メディアを賑わせている。サファリパーク開設のために敷地を解放したのは彼の父親である。

チャールズ1世が公開処刑された際に着ていた血痕のついたシャツが展示されているグレート・ホール。

公開されているのは1階と2階部分。唯一、エリザベス時代の建設当時のまま残されているグレート・ホールや、4万冊もの書物を収容するレッド・ライブラリー、ヴェニスのサン・マルコ大聖堂を模した天井画が圧巻なステート・ドローイング・ルームなど、約15室あまりを見学することができ、イタリア・バロック様式の影響が色濃い、豪華な家具や調度品が展示されている。

アザラシたちがひと休みする姿も。

「アドベンチャー・パーク」には子連れファミリーが喜ぶ企画が満載。人の声を真似たり、玉入れをしたりするオウムの実演ショー、蜘蛛や蛇、インコやマングースなどに直に触れることのできる「ジャングル・キングダム」、鹿やインコへの餌やり、鷹やフクロウなどが華麗な飛行を披露する「ハンター・オブ・ザ・スカイ」など、動物とふれあい、観察することのできるイベントが多数用意されているほか、アスレチックや滑り台、砂場などで遊べる「アドベンチャー・キャッスル」、ミニ機関車で湖畔周辺を走る「ジャングル・エクスプレス」、観覧ボートに乗ってアシカに餌をやったり、ヨーロッパ一長寿のマウンテンゴリラ、ニコを対岸に眺めたりすることのできる「ジャングル・クルーズ」、大人もなかなか抜け出ることが難しい迷路園など、盛りだくさんの内容だ。

ジャングル・クルーズ中にはアシカがボートによってきて、餌(出航前に購入可。1ポンド)をねだる。この池にはカバのカップルもいて、水浴びを楽しむ姿を見ることができる。

いざ、サファリ体験へ

暑かったせいか、老齢のせいか、一瞬生きているのを疑ってしまうほど、身動きひとつしなかった、ヨーロッパ一長寿のシルバーバック・マウンテンゴリア「ニコ」。

そして、ロングリートの目玉となる「サファリパーク」へ。自家用車で参加する場合、車の屋根がサンルーフなどソフトトップになっている車は進入不可なので、要注意。自家用車ではなくサファリ・バスを利用する場合、希望ツアー参加時間をチケット売り場で伝え、乗車券(3歳以上は均一で4ポンド)を購入する必要がある。オンラインでの事前販売はしておらず、当日券のみの早いもの勝ちとなるので、サファリ見学希望の場合はくれぐれも到着時点で乗車券を購入することをお薦めする。
取材班は期待に胸膨らませ、アドベンチャー・パークの末端に位置するサファリ・バス・ストップへと向かったが、乗車券を持たずにバス停に直行してしまったため、そこからかなり離れたチケット売り場まで駆け足で戻る羽目に。なんとか希望の時間どおりのチケットを入手してバス停の列についた。

オウムのショーは参加型ショーで子供たちに大人気。

サファリ・バス・ストップに列をなす乗客。遅れないようツアースタートの15分前?にはチケット持参の上、バス停に集まること。赤ちゃん連れの参加者はプラムやバギーなどをバス停に置いていくことが許されている。

到着したゼブラ柄のバスはかなり年季が入っており、見かけも乗り心地もお世辞にも素晴らしいとは言えない。この日は日差しが強く、外に立っているだけでも汗ばむ気温で、クーラーのないバスの中はサウナ状態。サファリ気分はばっちりだ。

熟練ドライバーのよどみないガイドのもと、サファリツアーがスタート。バス停からサファリパーク入り口まで5分ほど徐行し、やっと最初に見えた動物がキリンだ。ツアーは始まったばかりだが、乗客はここで下車し、写真を撮ったり、トイレに立ち寄ったりするための休憩時間約10分が設けられている。キリンの群れをこれほど間近で見たのは初めてだが、広大な自然の中で見ると意外と小さく感じられるから不思議だ。キリン園では近々、サファリ見学者による餌やりも実施されるというから、ぜひお試しいただきたい。

バスに戻り、シマウマやフラミンゴ、ラマなどを横目に見ながら、「モンキー・ドライブスルー」を通過。好奇心旺盛なサルたちは車が大好きと見え、他の車のボンネットやルーフに乗りながらワイパーをいじったり、車窓を叩いたりしている。愛車をもてあそばれる覚悟ができていれば、自家用車で参加し、サルたちを至近距離で見るのも楽しいだろう。

ちなみに、サファリパーク内の動物たちには一頭一頭、一匹一匹に名前がつけられおり、何年前にどこからやって来て、最近子供を産んだ―、などのエピソードをツアー中ガイドが披露してくれるのも微笑ましい。

子供たちが直に餌をやったり、動物たちに触れたりすることのできるイベントが満載。

サイやラクダ、バッファローなどが草を食む姿を眺めたら、いよいよサファリの醍醐味ともいえる、ライオンやトラ、チーターなどネコ科の猛獣のいるビッグ・キャット・ランドへ。こちらはツアー前半に広がっていた大草原とは違い、木々の茂みが深い。この日は暖かいとあって、日陰で眠そうにしているのがほとんではあったが、少しでも起きているもの、動いているものがいればフレームに収めようと取材班はもちろん、乗客の多くがカメラを構えた。ツアー最後を締めくくるのはオオカミ。こちらも夜行性とあって、昼寝をしているものが多く、車に飛び掛ってきて車内で叫ぶ、というような危険な事態はツアーを通して一切起こることはなかった。とはいえ、ビッグ・キャット・ランドでは車のドアや窓は絶対に開けないよう義務付けられている。おとなしそうに見えても猛獣には変わりないのだ。

こうして所要1時間半にわたるサファリツアーは無事終了。動物園では、どうしても人間は「見る側」、動物は「見られる側」と、人為的な展示スペースとなってしまう傾向があるが、サファリでは人間が動物の生態環境に「お邪魔させてもらう」形で、自然な姿を観察できる。その分、娯楽性に乏しいと感じる人も少なくないかもしれないが、やはり動物園にはないスケールの大きさと動物園では目にすることが叶わない「野生」の動物たちをみることができるのが醍醐味だ。帰国の際には多摩のライオン園にも足を伸ばして、そのルーツをぜひ確かめてみるのもいいだろう。

バース侯爵の広大な土地なくして実現しえなかったロングリート サファリ&アドベンチャー・パークは、由緒ある侯爵邸も公開されていることで、単に動物観察、自然観察のできるアトラクションにとどまらず、英国の歴史や伝統文化にも触れることのできる多目的テーマパークとなっている。家族連れにはもちろんのこと、カップル、グループでの日帰り旅行に最適だ。この夏のホリデー休暇、週末にぜひ足を伸ばしていただきたい。

Travel Information ※2012年4月15日現在

マップPDFをダウンロード

Longleat [Safari & Adventure Park]
Warminster, Wiltshire  BA12 7NW
Tel: 01985 844400
www.longleat.co.uk

アクセス
車:ロンドンからはM3を走りジャンクション8で降り、A303を西へ。ストーンヘンジのそばを通り過ぎたらBath方面へA36に入り、WarminsterからA362をFrome方面へ向かう途中に標識がある。所要時間2時間。
電車:ロンドン・パディントン駅からWestbury駅まで約1時間半。駅から現地まで20キロの道のりはタクシーで。

入場料
1日券
・大人1人(15~59歳まで) £27.50
・子供(3~14歳) £19.50
・シニア(60歳以上) £22
*オンライン上で購入すると下記表示価格より15%オフ
2日券
・大人1人(15~59歳まで) £37.50
・子供(3~14歳) £29.50
・シニア(60歳以上) £32
*オンライン上で購入すると下記表示価格より10%オフ、この他、通年パスもあり。
ハウス&ガーデン入場券(サファリ&アドベンチャー・パーク入場不可)
・大人1人(15~59歳まで)£13.50
・子供(3~14歳)  £8.50
・シニア(60歳以上)  £11.50

オープン時間(4~9月)
・月-金 10am-5pm/土・日 10am-6pm 
・5月5~7日、6月2~5日、8月25~27日のバンクホリデー :9:30am-7:30pm
・7月21日~9月2日のサマーホリデー期間:10am-7:30pm
*10月以降についてはウェブサイトにて要確認。

週刊ジャーニー 2012年4月19日掲載