◆大ガラクタ屋が始めた一大プロジェクト
大英博物館の生みの親、ハンス・スローン卿(Sir Hans Sloane 1660~1753)。 日本語で「大英図書館」と呼ばれるようになった経緯としては、その起源が大英博物館の図書部門であったことが考えられる。もともと、「大英」博物館も、正しくは単に「British Museum」だが、ここもやはり「大英」と呼びたくなる規模だ。
1753年に他界した医師、ハンス・スローン卿(Sir Hans Sloane)が、4万冊余りの図書を含む約8万点に及ぶコレクションを2万ポンド(現在の約170万ポンドに相当)で国に譲ったことから全ては始まった。スローン卿は「大ガラクタ屋の親父」と陰口をたたかれるほど、手当たり次第に様々なものをしゅう集した人物。そのコレクションは実際には5万ポンド、あるいは8万ポンドの価値があったともいわれるが、スローン卿は、自らの死後、自分のコレクションが一般の人々に公開されることを切望した。
ところが、英国はオーストリア継承戦争などを含む第二次百年戦争を戦っている最中で、そのような資金があろうはずもなかった。紆余曲折を経た後、財源を宝くじの発行により確保することで落ち着き、1759年にようやく大英博物館はその扉を人々に開くに至ったという一連のストーリーは、本誌2010年4月1日号でもご紹介したとおりだ。
当時の国王、ジョージ2世も議会も、スローン卿の遺言に対して冷たい態度をとったが、大英博物館が、英国のみならず、地球規模で宝と認めるべきコレクションを擁する場所となったことは紛れもない事実。しかも、入場料は無料で(ただし、寄付金は常に受付中)、人気の見学スポットのひとつとして英国の観光産業にも多大なる貢献を果たしている。スローン卿の「ガラクタ」しゅう集癖に大いに感謝すべきだろう。
さて、大英図書館に話をもどそう。
意外なことだが、大英図書館の歴史は浅い。長らく、大英博物館の図書部門とされてきたからで、『独立』への動きが本格化したのは、ここ40年ほどのこと。『大英図書館法(the British Library Act)』が議会で可決されたのは、1972年になってからである。
大英博物館全体がそうであるように、図書部門も、常にスペースとの戦いを強いられてきた。1759年以降、数々の分室的図書館が作られ、大英博物館と同じ敷地内では到底おさめきれない図書コレクションを分散させることで、なんとか対応してきたというのが実情だ。1855年に誕生した、特許庁付き図書館、1916年創設の学生用中央図書館、1961年設立の国立科学技術図書館などが、スペース不足を補ったのである。
こうして分散したコレクションを、1ヵ所に集め直す大仕事を、公式に進めることを宣言したのが『大英図書館法』といえる。同法が成立してから、1998年に大英図書館がオープンするまでの四半世紀余りで、それまでとは真逆の作業が行われたのである。いやはや、ご苦労様なことだ。
大英図書館内部
※一般の人々が入れる、上部5階のみを表示(地下は書庫)。 ※トイレの記号は割愛したが、どの階にも男女トイレ/身体障害者用トイレがあり、トイレの数は充実。 ※ロウアー・グランドフロア(LG)およびファーストフロアに、赤ちゃんのオムツ換え用スペースあり。 ※ATM現金マシーン、クロークルーム、ロッカールームはロウアー・グランドフロア(LG)にあり。 Rはリーディング・ルーム(Reading Room=閲覧室)。
① PACCR Gallery / PACCRギャラリー 特別エキシビションなどが行われるスペース。入り口はアッパー・グランドフロア+グランドフロア(UG+G)にある。 ② Shop / ショップ 気の利いたお土産がみつかる可能性あり。要チェックのスペース。 ③ Sir John Ritblat Gallery /ジョン・リトブラット卿ギャラリー (12ページ参照) ④ Philatelic Exhibition / 切手ギャラリー 壁に埋め込まれるようにおびただしい数の切手がパネルごとに収めてある。日本の切手はセクション6のパネル29~34にある。 ⑤ Folio Society Gallery / フォリオ・ソサエティ・ギャラリー 特別展示が行われるスペース。入場無料。 ⑥ Box Office /ボックス・オフィス ⑦ Reader Registration / リーダー・パス登録オフィス ⑧ Cafe / カフェ
⑨ Restaurant /セルフ・サービスのレストラン テラス席もあり。 ⑩ Centre for Conservation /保全管理センター ⑪ Business & IP Centre /ビジネス&IPセンター ビジネスと図書館とは一見、縁がなさそうな気もするが、各種イベントやミニ講演会、無料のビジネス相談などが行われ、好評という。
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《左》正面玄関を入ってすぐ右側にある、本を開いたような形のベンチ。鎖につながれている。『Sitting on History』(ビル・ウッドロウBill Woodrow、1995年作)と名づけられたブロンズ製の作品で、我々人類は情報から逃れることができないという事実を表現したものという。《右》一般人は入ることができない、大英図書館の書庫。人類の英知が詰まっている。