2012年3月15日No.719

取材・執筆・写真/本誌編集部

人類の知的好奇心に応える
大英図書館を征く

 インターネットの発達にともない、「知的財産」という言葉が広く聞かれるようになった。しかし、近年はいかにそれを無断で使用されることを防ぐかに重きが置かれがちだ。これに反し、先人たちの遺した「知的財産」について、これらをどれだけ多くの人と共有するかを考え、なおかつ、実際にそれに励んでいる場所がある。セント・パンクラスで威容を誇る、大英図書館だ。

《メイン写真》大英図書館の中央に設えられた、キングズ・ライブラリー(King's Library)。本好きだったジョージ3世(1738~1820)が、世界各地で集めさせた書籍などの一大コレクションで、約8万5,000冊から成る。同王の息子であるジョージ4世は放蕩者として知られ、父王のコレクションには全く関心を示さず、あっさりと国家に寄付。そのおかげで、大英図書館はこの優れたコレクションを労なくして有するに至ったというわけだ。写真の手前に見える胸像はジョージ3世のもの。

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◆5億ポンドの巨大な本箱


The reading of all good books is like conversation with the finest men of past centuries.
「良書を読むことは、過去の優れた人物たちと会話をかわすようなものだ」
―ルネ・デカルト(17世紀に活躍した、フランスの自然哲学者・数学者)

大英図書館全景。メインの部分は、大型船舶を思わせる形になっている。その右側に見えるのが、セント・パンクラス駅の華麗な姿。 ヨーロッパ大陸と英国を鉄路で結ぶ、ユーロスターが発着するセント・パンクラス駅。ロンドンに複数ある鉄道ターミナルの中でも、壮麗さでひときわ目立つ存在である。大小のスーツケースを携えて急ぐ人々と、様々な言語が行きかい、旅という非日常的なイベント特有の高揚感が一帯を覆う。
 この喧騒を抜けて3分ほど西へ歩くと、どっしりと腰をおろした巨大な赤レンガ造りの建物に行きあたる。
 大英図書館だ。 美麗とはいいがたいが、堅牢であることは間違いなさそうなこの建造物は、1982年にチャールズ皇太子列席のもと、竣工式が行われ97年に完成。その年の11月から早速、一般公開に向けての準備が始まり、翌年6月にエリザベス女王の手により正式にオープンした。

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 海軍関連の設計に長く従事したという、故コリン・セント・ジョン・ウィルソン卿の設計で、東側部分が巨大客船のような形をしている。内部にも、船内を連想させる丸窓や、らせん階段などが各所にちりばめられているのが特徴だ。さらに、入り口エリアに設けられた大胆な吹き抜けが広々としたイメージを与え、広大な面積に恵まれているおかげで実現できる、ぜいたくな造りとなっている。
 工事だけで15年を要したことからも、どれほどの大規模事業だったかがうかがえる。土地買収に600万ポンドかかったが、これは総費用のほんの一部でしかない。総工費5億ポンドという巨額が国民の税金から拠出された。20世紀に完成した国立の建造物の中では最大級とされるだけに、その規模に関する数字はどれもスケールが大きい。
 まず、強い地震が起きないとの前提があるからこそ可能といえそうなのだが、耐久性は少なくとも200年。本の貯蔵スペースは、常に摂氏16~19度、湿度45~55%に保たれ、地上は9階建て、地下5階建て。しかし、この地下部分は特別仕様で5階建てといっても、通常の建物の8階分に相当する高さがあるため、合計17階建てと考えても良いという。
 11あるリーディング・ルーム(閲覧室)には1200人分の席が用意され、本棚の長さはのべ322キロ。1350万冊の書籍が既に収納されているが、毎年50万点の刊行物が新たに加わり、これだけでも長さ3・7キロ分の本棚が埋まっていく計算になるとされている。面積は東京ドーム2・4個分にあたる、約11万5000平方メートル、ここでスタッフ1000人が業務にあたる。
 大英図書館の英語名は「British Library」で、「大」という意味を持つ単語は含まれないが、「大英」と呼ぶにふさわしい全容を有すると言っていいだろう。