ホテルにまつわるこうした歴史を振り返りつつ、我々は邸宅内に足を踏み入れた。その途端、外観から抱いた不安はまったくの杞憂に過ぎなかったことがわかる。古色を帯びてさらに落ち着いた色調となったオーク材のフロアと、パチパチと薪の燃える音が聞こえてくる大きな暖炉。ホテル内のいたる所にタペストリー(装飾用の壁掛け織物)や絵画が飾られ、格式ある優雅なマナーハウスの趣きが漂う。また、ロココ様式の優美なボールルーム(舞踏室)の天井には雅やかな漆喰彫刻が施され、豪奢なシャンデリアと桜色に染められた室内壁は、女性好みの上品な雰囲気を醸し出している。結婚式や特別なパーティーの会場として人気が高いというのもうなずける。
このホテル内には2つのレストランが入っているが、庭園に面したカジュアル・スタイルのレストラン「オランジェリー」では、アフタヌーン・ティーを楽しむのがおすすめだ。庭園側の南壁は全面ガラス張りになっており、太陽が現れれば燦々と日が差し込む。「オランジェリー」とは、オレンジやレモンを栽培する温室のこと。かつて私邸であった時代、ここが温室として使われていたかは定かでないが、少なくともそれをイメージして設計されたであろうことは疑いない。窓外には手の行き届いた庭が広がり、その先にテムズ河も見渡すことができる。ちなみに、この庭園には動物や幾何学的な形などに常緑樹を刈り込む「トピアリー」様式が用いられている。花の蕾さえついていない季節でも、その造形美と遊び心で楽しませてくれるガーデンだ。


ホテルのバルコニーからユニークなデザインの庭園を見渡すと、
その先にテムズ河の輝きも目にすることができる。

幽霊も愛してやまない邸宅

 オランジェリーから外のテラスに出て、庭園を散策しながら丘の端まで歩いていくと、息をのむような絶景が眼下に広がっていた。遠くうねる緑の丘陵、果てなく続いているテムズ河の穏やかな流れ、そのほとりに建ち並ぶ赤茶色の屋根の家々――その雄大な景観を独り占めしているような錯覚に陥る。
しばし歩みを止めて、英国のカントリーサイドらしい風景に見入った。やがて春になれば、鮮やかな新緑が芽吹き、様々な種類の花が咲き競うに違いない。夏の晴れた日には、川面に青い空と白い雲が映り込み、その上をミニチュアのような遊覧船やボートがのんびりと行き交うのだろう。そして秋が訪れたら、見渡すかぎり一面黄金色に染まるはずだ。季節ごとに異なる表情を見るためにも、また戻ってきたいと思わせる眺望である。緩やかに蛇行するテムズ河の広大な流れを、日が暮れるまで眺め下ろすことができるのも特筆に価する。ホテルのスタッフの話では、テムズ河岸からこのホテルを見上げると、生クリームの上に苺が贅沢に振舞われたウェディングケーキのように見えるという。取材班はその光景を目にすることは叶わなかったが、同地を訪れる際には河沿いの早朝散歩を提案したい。
ところで、英国の古城やマナーハウスにおける特徴の一つに、「幽霊の出現」がしばしば挙がるが、デーンズフィールド・ハウス・ホテルもその例にもれず、幽霊が出没する。目撃証言が多いのは、夕暮れどきの庭園。ランタンを手に掲げた「グレイレディ」が『散歩』するらしい。
今回ホテル内を案内してくれたスタッフのピーター氏も、その目撃者の一人だ。彼の話によると、幽霊の正体はこの邸宅と庭園をこよなく愛したかつての女主人で、死を迎えた後もこの地にとどまることを望み、敷地内に墓をたてさせた。しかし、後の所有者はこれを気味悪く感じ、その墓を近隣の村の墓地へと移してしまう。そのため、この館が恋しくて仕方のない女主人は幽霊となって、時折ここを訪れるのだという。日本ではこうした怪奇談は敬遠されがちだが、英国では幽霊の出没する建物やスポットは人気が高い。英国の幽霊は日本のように怖い存在ではなく、ピーター氏いわく「グレイレディもフレンドリー」とのこと。ホテルのスタッフが語るこうした幽霊話も、滞在に一興を添えてくれるだろう。


エグゼクティブ・ジュニア・スイートの「Borlase」。
1泊朝食付259ポンド(スパ入場料込)。

眺めのいい高台で楽しむ美食

 庭園の散策を終えた取材班は、ミシュラン一つ星を2年間保持するレストラン「アダム・シモンズAdam Simmonds」、通称「オークルーム」に案内された。石灰で表面を加工されたオーク材の壁は、淡く黄味がかったアイボリー調で、上品で洗練された雰囲気を演出している。レストランスタッフの目がしっかりと行き届いており、きめ細かい心遣いを感じた。また、隣のテーブルとの距離もゆったりと取られているため、ゲストを寛いだ気持ちにさせてくれる。
今回我々が食したのは、シェフの腕とこだわりを存分に堪能できるテイスティング・メニュー。ヘッド・シェフを務めるのは、レストランの名前にもなっているアダム・シモンズ氏だ。2007年からこのホテルでヘッド・シェフの職を任されており、そのフレンチをベースにしたモダン・ヨーロピアン料理には、デーンズフィールド・ハウスに漂うものと共通する品のよさが表れていた。その詳細は次頁をご覧いただきたい。
また、数々の受賞歴を誇るスパも、ぜひ体験してほしいサービスの一つ。同ホテルのジムではピラティスのレッスンを受けることもでき、これは英国内のホテルでも非常に珍しいことだという。ロンドンのメイフェアにも「Spa Illuminata」というスパ施設を持っており、高い評価を得ているというのも納得がいく。レストランで心と胃が十分に満たされた後は、スパでのんびりとヘルス&ビューティケア…贅沢なひとときとなることは間違いないだろう。
現在もBBC1で放送中の視聴者ご意見番組「Points of View」に、英国人TVプレゼンター、テリー・ウォーガン氏(Sir Terry Wogan)が出演していた際には、同番組の撮影場所として使われていたこのホテル。テムズ河を眼下に望むことができる壮大な自然に包まれ、美食に舌鼓を打ちながら、心休まる優雅な時間を過ごしたい方は、マーロー観光とあわせて、このデーンズフィールド・ハウス・ホテル&スパに足を運んでみてはいかがだろうか。

The award-winning Spa  癒しの空間で美しさを磨く

数々の受賞歴を誇る同ホテルのスパ施設。室内プール、ジャクジー、サウナ、ジムのほか、オイルマッサージやネイルケアなどを行うトリートメントルームも完備。宿泊すればスパの入場は自由。

ジムでは女性インストラクターによる個人指導も受けることができる。

20メートルある室内プールの壁面は、ロイヤルオペラハウスの舞台装飾担当者が手がけている。