
■ 全盛期には全世界の陸地4分の1をも版図に収め、史上最大の領土面積を誇った「大英帝国」。植民地政策によって英国本土には多くの移民が流れ込み、彼らは今も各地で独自のコミュニティを築いている。今号では、英国で暮らすインド系移民の「信仰の地」のひとつを紹介する。
●征くシリーズ●取材・執筆/本誌編集部
北ロンドンのニーズデンに建つ、白亜の異国風宮殿「スワミナラヤン・マンディール(BAPS Shri Swaminarayan Mandir)」。通称「ニーズデン・テンプル(Neasden Temple)」と呼ばれるこの建物は、伝統的なヒンドゥー建築様式を用いて建てられた寺院で、英国のみならずヨーロッパで最大のヒンドゥー教徒のための宗教施設だ。1995年に完成し、来年30周年を迎える歴史としては浅い寺院であるものの、かつてはインド国外で最大のヒンドゥー教寺院としてギネスブックにも登録されていた(現在は米国にある寺院がその座に就いている)。
インドでは人口の約80%が信仰しているとされるヒンドゥー教には、柱となる3大神(ブラフマー神、ヴィシュヌ神、シヴァ神)がいるが、ここで祀られているのは聖人スワミナラヤン。寺院名の「Shri」は「聖」、「Swaminarayan」はそのまま「スワミナラヤン」、「Mandir」は「寺院」という意味である。1781年にインドで産声を上げたスワミナラヤンは、7歳までに多数の聖典を習得し、11歳で布教の旅に出たという神童で、社会制度の改善に尽くし、女性や恵まれない人々のために福祉制度を整えるなどの改革を行った。
エリザベス女王の夫フィリップ殿下やチャールズ国王(当時は皇太子)とダイアナ妃、ボリス・ジョンソン元首相やリシ・スナク現首相といった英王室メンバーや要人のほか、ローマ教皇ヨハネ・パウロ2世も訪問するなど、信徒以外の一般にも門戸を開いている同寺院。とはいえ、神聖な礼拝所であるため、セキュリティは厳しい。ハンドバック程度の小さなバッグ以外は持ち込み禁止。カメラやタバコの持ち込みも厳禁(携帯電話はOKだが、写真撮影はNG)、入口では持ち物がX線検査機にかけられた後、金属探知機のゲートを通り抜けなければならない。また服装にも制限があり、肩や上腕部、胸部を含む上半身の肌を晒してはならず、下半身は膝下まで隠れていることが必須だ。
建物内には、白亜の宮殿に隣接する大講堂「ハヴェリ(Haveli)」から入っていく。土足厳禁なので靴を脱がなければならず、その収納場所は男女別。この「男女別」は儀式にも適用され、取材班が到着した時にはちょうど祈祷が執り行われるところだったのだが、礼拝場所が男女で分けられていた。右を見ても左を見ても、熱心な信者ばかり。両手を合わせ、祝福やご神徳を感謝して歌い、全身を投げ出す「五体投地(ごたいとうち)」で祈りを捧げ、敬虔な雰囲気が漂う。
同寺院は3種類の石で構成されており、内部はインド産とイタリア産の大理石、外壁はブルガリア産の石灰石で建造されている。大理石で埋め尽くされた真っ白な空間に立ち並ぶ柱には、ヒンドゥー教の神々や動植物の精巧な彫刻、緻密な文様が施され、見上げた高いドーム天井には繊細な花模様が幾重にも広がり、そこから光が降り注ぐ。その装飾性の高さと静謐さに、思わず息をのむ。これらの石はすべてインドで職人たちが手作業で掘った後、パーツごとに分けて英国まで運ばれ、それを組み立てたのだという。
中央の大祭壇に祀られている3体の聖スワミナラヤン像は、とにかく煌びやか。服飾は毎日変えられており、日によって雰囲気がまったく異なる。ヒンドゥー教徒にとって「ご神体を目にする」=「祝福をいただく」ことであり、重要視されているだけあって、寺院の公式サイトでも「本日の聖スワミナラヤン像」が公開されているので、興味がある人はチェックしてほしい。
英国にいることを忘れてしまうニーズデン・テンプル。ぜひ異文化体験をしてみては?





寺院参拝のついでに…
ベジタリアン・インド料理レストラン
「Shayona(シャヨーナ)」


ロンドンに7店舗、ミルトン・キーズに1店舗を構える、インド系スーパーマーケット「Shayona」。ニーズデン・テンプルの向かいに店を構えるニーズデン店には、ベジタリアン・インド料理レストランが併設されている。
同店は、人間以外の生き物に対する暴力・殺生を禁じる主義に基づき、「サトヴィック料理(Saatvic Cuisine)」を提供。古来から伝わるインド医学「アーユルヴェーダ」の教えに従い、「摂取すると攻撃的になる」とされるタマネギやガーリック類も一切使っていない。

本来は参拝に来た信者向けのレストランだが、一般客も利用可能。美味しいと評判になり、ミシュランガイドに紹介されたこともある。アラカルトの種類は豊富で、平日にはお得なランチ・ビュッフェ(£14.99)も。チャレンジできなかったカレーは、スーパーでレトルトパック(写真)を購入して帰るのもいいかも。


Shayona at BAPS Swaminarayan Mandir
12 Pramukh Swami Rd, London NW10 8HD
www.shayonarestaurants.com
月~金曜 10:00~19:30
土曜 12:00~21:00
日曜 12:00~18:00 レストラン
火~木曜 12:00~19:30
金~日曜 12:00~22:00
※月曜・祝日は休み
Travel Information ※2024年3月18日現在

BAPS Shri Swaminarayan Mandir(Neasden Temple)
Pramukh Swami Rd, London NW10 8HW
https://londonmandir.baps.org
入場無料
※服装制限あり/土足厳禁/写真撮影禁止
【オープン時間】
9:00~12:15/16:00~18:00
【アクセス】
地下鉄ニーズデン駅から徒歩20分。または、バス206か224の「Swaminarayan Temple」で下車すぐ。
週刊ジャーニー No.1334(2024年3月21日)掲載