◆◆◆ 新ライバル駅はNYのグランド・セントラル!? ◆◆◆


1969年には「Sir」となり、1972年に桂冠詩人という、英国の詩人に与えられる最高の称号を得たジョン・ベッチャマン。テレビ番組にも多数出演し、名所旧跡をめぐる紀行シリーズなどで人気を博したほか、詩人としてだけでなく幅広く活躍。当時の英国を代表する「名士」となったが、オックスフォード大学を卒業できなかったことを生涯悔やんでいたという。1974年には、同大から「名誉博士号」の学位を贈られた。
  貧困層が他地域より多いとされる、ロンドン東部の活性化を目指し、2012年オリンピックの誘致運動が繰り広げられるかたわらで、資金難などに悩まされ、紆余曲折を経ながらも、セント・パンクラス駅を新国際ターミナルに生まれ変わらせるべく、巨大プロジェクトが進められた。
 プロジェクト名は「ハイ・スピード・ワン(High Speed 1)」。
 最終的に、ロンドン東部のダゲナム(Dagenham)から、オリンピック会場予定地のストラットフォード(Stratford)経由で、長さ20キロに渡るトンネルが通され、ヨーロッパとセント・パンクラス駅がつながった。58億ポンドという巨額の税金と、9年間という時間、そして携わったすべての人々の汗が結実し、ロンドン~パリ間が2時間15分(従来の所要時間より20分短縮)で結ばれるようになったのだった。

セント・パンクラス駅構内のシンボル的存在といえる、デント(Dent)社の大時計。オリジナル=上のモノクロ写真(ゥ HighSpeed1)=は、英国鉄が米国人富豪に売却しようとしたが、取り外し作業中に落として壊してしまったという。粉々に壊れたものの、そのころ駅職員として働いていたローランド・ホガード氏(現在91歳)が2000もの破片をすべて引き取ってつなぎあわせ、見事に復刻させた=写真左。(©Michael Walter/Troika/LCR)
 こうして、2007年11月から、本格的に新国際ターミナルとして機能し始めたセント・パンクラス駅だが、目指す姿は単なる「ユーロスター発着駅」ではない。ユーロスターを利用するしないにかかわらず、ショッピングや食事など様々な目的で多くの人々がこの場所を訪れるようにと、店舗の充実に力を入れている。
 フロアは、プラットホーム・レベルと、アンダークロフト・レベルに分かれており(大まかな見取り図は下図参照)、レストラン「ザ・グランド」や、シャンパン・バーなどのあるプラットホーム・レベルはファースト・フロアにあたり、ショップ、カフェなどがずらりと並ぶアンダークロフト・レベルは地上階にある。駅に出店するのはこれが初めてという、老舗書店の「フォイルズ」
や、大手のおもちゃ屋である「ハムレーズ」などの名前もアンダークロフト・レベルの店舗リストに見られる。
 ニューヨークの玄関口といえる、グランド・セントラル駅のように、駅自体が観光スポットとなり、ショッピング・モールとなり、レストラン街となることが、現在のセント・パンクラス駅の目標といえる。また、2012年のロンドン・オリンピック開催時には、ストラットフォードの会場まで、わずか6分半で観客を運ぶ高速列車の発着駅として、その役割がいっそう拡大される。
 明治維新と同じ年に完成してから、今年で141年。気品あるあでやかさと、威厳ある風格を同時にたたえたユニークな駅として異彩を放ち続けるセント・パンクラス駅。ユーロスターから降りてくる人々の異国の言葉に耳を傾けながら、そぞろ歩きにショッピング、あるいはランチや夕食を楽しむために、一度出かけてみることをお薦めしたい。