チャーチルが生まれ、プロポーズした地 ブレナム宮殿を征く
© BlenheimPalace

■ オックスフォードの北西にあるマールバラ公爵家の私邸「ブレナム宮殿」は、世界遺産であるだけでなく、かつてウィンストン・チャーチル元首相が産声を上げ、愛妻への決死のプロポーズを行った場所でもある。今回は、壮大な風景を誇る同宮殿を征くことにしたい。

●征くシリーズ●取材・執筆/本誌編集部

跡継ぎのいなかったスペイン王カルロス2世が死去した後、フランス王ルイ14世が自身の孫をスペイン王の座に就けようとして始まった、スペイン継承戦争(1701~14年)。スペインとフランスによる強大な王朝の成立を阻止するため、同盟を組んだ英国、オーストリア、オランダの連合軍を率いた指揮官が、初代マールバラ公爵ジョン・チャーチルだ。連合軍は連戦連勝を重ね、ついにドナウ川のほとりで繰り広げられたブレンハイムの戦い(またはブリントハイム/英名でブレナム「Blenheim」)で大勝利。フランス軍に大きな痛手を負わせ、これまで「二流国」と見なされていた英国の地位は一気に高まった。その功績に大喜びしたアン女王は、マールバラ公へ王領地を気前よく下賜し、さらに屋敷を建てる費用を全額負担。そうして完成したのが、このブレナム宮殿である。

代々のマールバラ公爵が暮らし、現在も第12代公爵の私邸として使われているが、よく知られているのは第7代公爵の孫にあたるウィンストン・チャーチル元首相の生誕の地としてだろう。第7代公爵の三男を父に持つチャーチルは、メイン・エントランス脇の小ぢんまりとした部屋で誕生している。身重だったチャーチルの母は、出席した狩猟の会で転んでしまい、さらに馬車での移動が重なったことから、予定より早く陣痛におそわれた。寝室まで間に合わず、女性客用の携帯品を預かるために使われていたエントランス横の部屋へ運び込まれて、出産を迎えたのだという。

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ブレナム宮殿で過ごす、若き日のチャーチルと愛妻クレメンタイン。

そして「クレメンタイン(妻)との結婚は、私が成し遂げたことの中で、最も重要な出来事だ」と晩年にチャーチルがしみじみと語ったほどに決死の思いでプロポーズした場所もこの宮殿。いとこにあたる第9代公爵が主催したパーティーに出席したチャーチルは、かねてより惹かれていた10歳下のクレメンタインを朝の散歩へ誘い、庭園にあるバラ園を散策した後、ベンチに座って話に興じた。だが、なかなか結婚話を切り出さないチャーチルに対し、クレメンタインは地面を這うカブトムシを見ながら、「この虫が床の割れ目にたどり着くまでにプロポーズされなかったら、彼にはその気がないのだと思おう」と決めていたというから、まさに運命の分かれ道だったに違いない。

ブレナム宮殿では、絵画やタペストリーが飾られた豪華な内装の「Drawing Rooms」「State Rooms」のほか、チャーチルの歩みを紹介する「Churchill Exhibition」、宮殿の知られざる物語を紹介する「The Untold Story」も見みどころのひとつ。現公爵が不在の日には、プライベート・アパートメントも公開される(ガイドツアーでのみ見学可能)。また、同所のクリスマス・イルミネーションには定評があり、屋敷の前庭にクリスマス・マーケットが登場したり、名造園家ケイパビリティ・ブラウンが手掛けた広大な庭園が、数々の光のインスタレーションやプロジェクト・マッピングで彩られたりする。

ロンドンから車で1時間半。この冬、ぜひ訪れてみては?


宮殿入口の天井/The Main Entrance of Blenheim Palace

メイン・エントランス前でふと上を見上げると、天井から入場者を見定めるように、大きな目がいくつも描かれていることに気づく。これはチャーチルのいとこにあたる、第9代マールバラ公爵夫妻の目。

チャーチル誕生の間/Churchill's Birth Room

メイン・エントランスを入ってすぐの場所にある、チャーチルが生まれた部屋。あまりに小さな部屋であることに驚く人は多い。ベッドヘッドには、5歳のときに切られたチャーチルのカールがかった髪が飾られている。

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図書室/The Long Library

© BlenheimPalace

宮殿内で最も長い部屋。映画「女王陛下のお気に入り(The Favourite)」(2018年)で描かれた通り、初代公爵夫人サラとアン女王は親しい友人であったため、サラが造らせた女王の像がある。女王との関係が途絶え、国外逃亡もした公爵夫妻だが、女王への敬意は変わらなかったことが伺える。

赤の応接間/Red Drawing Room

© BlenheimPalace

公爵家の栄華を示す応接室。代々の一族の肖像画が並ぶ。左端の絵は米画家ジョン・サージェントが描いた、チャーチルのいとこにあたる第9代公爵一家。向かいの壁には、英画家ジョシュア・レイノルズによる第4代公爵一家のポートレートが飾られている。

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チャーチル夫妻が眠る教会
St Martin's Church

ブレナム宮殿から5分ほど車を走らせた場所に、チャーチル夫妻が眠るセント・マーティンズ教会(St Martin's Church)がある。ウェストミンスター寺院に葬られてもおかしくなかったであろうチャーチルが、英国のどこにでもありそうな小さな教会墓地に埋葬されていることは、あまり知られていない。

ここでは多くのマールバラ公爵家一族がひっそり眠りについており(初代公爵夫妻はブレナム宮殿内のチャペルに埋葬されている)、彼が誇る一族と、慕う両親のそばにいたいと、ウェストミンスター寺院への埋葬を断ったという。

1965年1月24日にロンドンの自宅で息を引き取ったチャーチルの遺体は、セント・ポール大聖堂で国葬が行われた後にここへ運ばれた。チャーチルの墓石には多くの花が手向けられているので、すぐに見つけることができる。彼の死から12年後、妻クレメンタインもここに埋葬された。

Travel Information ※2023年10月17日現在

Blenheim Palace
Woodstock, Oxfordshire OX20 1PP
www.blenheimpalace.com
オープン時間:10:00~17:00
※宮殿は10:30~15:45
入場料:£35
アクセス:【車】M40をオックスフォード方面に走り、オックスフォード近くのジャンクション8でA40に出る。その後、A44をEvesham方面に進むと案内板が見えてくる。ロンドンから1時間半ほど。
【公共交通】ロンドン・マリルボーン駅から電車でオックスフォード・パークウェイ駅まで行き、そこからバス「Park & Ride 500」のウッドストック行きに乗車すると、15分で宮殿前に到着。

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週刊ジャーニー No.1313(2023年10月19日)掲載