
■ 中世に羊毛取引で栄えた、英国でも屈指の人気を誇るカントリーサイド、コッツウォルズ。3回にわたって同地方の魅力あふれる村々を紹介する夏の大特集の最終回は、数々の映画やドラマのロケ地としても有名な南部の村、カッスル・クームを征く。
●征くシリーズ●取材・執筆・写真/本誌編集部
「城(castle)のある深い峡谷(クーム:combe)」を意味するカッスル・クーム。もともとは丘に囲まれた村の地形にちなみ「クーム」と呼ばれていたが、12世紀半ばに防衛のために城が築かれたことから、この名が定着した(城は現存しない)。
村の北東部に車を停め、生い茂る木々に囲まれた緩やかな坂を下っていくと、はちみつ色のライムストーンが特徴的な家々が軒を連ねる三叉路にたどり着く。ここが村の中心「マーケット・プレイス」になる。ここからメイン・ストリートの「ザ・ストリート」が弧を描くように伸びているが、パブを除けば際立った商業施設は見当たらない。小売店やアンティークショップなども見かけず、静かで落ち着いた雰囲気が漂う。
この家並みが形成されたのは、羊毛産業が全盛期を迎えた15世紀のこと。村を流れる豊かなバイブルック川沿いに、織工たちの住居兼作業場「ウィーバーズ・コテージ」が次々と建てられた。そこで織られる赤と白の毛織物「Castle Combe Cloth」は、確かな技術と保温性から兵士のユニフォーム用の布として広く愛され、ブリストルやサイレンセスターで開かれていた大規模な布マーケットで高値で取引されたという。しかし、相次ぐ干ばつの影響でバイブルック川の水位が低下すると、生産量が激減。やがて襲ってきた産業革命の波にのみこまれ、村は時代の流れから取り残されてしまった。
かつては好景気に沸き、多くの商売人を惹きつけたカッスル・クームは「職人たちの村」であったがゆえに、その後も大きく変わることなく、羊毛産業で栄えた当時のままの景色が残されている。風で揺れる木々のざわめきや鳥のさえずり以外は耳に入ることのない静寂さと、数百年前の村人の日常生活がいまだ続いているかのような素朴さは、現代の喧噪の中で疲れた心を優しく癒してくれるだろう。



ミシュラン・レストランを有する5つ星ホテル
The Manor House
カッスル・クームをなんとなく散策しているだけでは気づきにくい、隠れ家的なマナーハウス・ホテル「The Manor House」。ゴルフ場を有するこの5つ星ホテルは、14世紀に村の領主の屋敷として建てられた後、1947年に最後の領主が屋敷と敷地を手放したことにより、ホテルとしての道を歩みはじめた。
目印となるのは、バイブルック川にかかる橋の近くに佇む看板。その先の正門を進むと、総面積365エーカー(東京ドームのおよそ32個分!)を誇る敷地の一部が目の前に現れ、素朴な村とは一味違った、豪奢な雰囲気に圧倒される。
蔦が這う趣き深い本館と、別館となるコテージに分かれており、全48室それぞれが異なるスタイルで彩られている。館内にはミシュラン1つ星に輝くレストラン「The Bybrook」があるので、宿泊はしなくても、庭園散策を楽しんだ後にアフタヌーン・ティー(£45)やディナー(7コース£145)を堪能すれば、思い出に残るカッスルクーム滞在となるはずだ。
Castle Combe, Chippenham,
Wiltshire SN14 7HX
www.exclusive.co.uk/the-manor-house

Travel Information 2023年8月28日現在


Castle Combe
カッスル・クーム
【ロンドンから車】
M4を西へ進み、ジャンクション17でChippenham/Cirencester 方面の A350/A429に出て、A350を進みB4039に入る。所要約2時間。
【ロンドンから公共交通機関】
London Paddington駅から電車でChippenham駅まで行き(所要1時間40分)、バス35に乗りかえて約20分で到着。
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週刊ジャーニー No.1306(2023年8月31日)掲載