
■ イングランドにいくつもの小王国が乱立していた中世のアングロ・サクソン時代に、強大な力を誇ったウェセックス王国の首都として栄えた町、ウィンチェスター。今号では、中世の雰囲気が色濃く漂うこの町を征く。

ロンドンから電車で南西へ向かうこと、約1時間。全体を歩いてまわることができる、こぢんまりとしたウィンチェスターは、現在ではのどかな郊外の町のひとつにすぎないが、かつてここはイングランド7王国時代に優勢を極めたウェセックス王国の首都だった。中世の面影を随所に残す閑静な町並みや歴史的建造物からは「古都」としての誇りが感じられ、それは同地で暮らす人々からも醸し出されている。

ローマ帝国による支配が終わりを告げた後、グレート・ブリテン島へ上陸したアングロ・サクソン人たちは、イングランド内部に数々の王国を建国。なかでも覇権を争った7国のうち、侵攻してきたデーン人をも撃破してイングランドを統一したのが、当時30歳のアルフレッド大王(King Alfred the Great)率いるウェセックス王国だ。同国は現在のイングランドの母体であり、アルフレッド大王はウィンチェスターの英雄かつシンボルとして、今も己の築いた町を高々と剣を掲げながら見守っている(写真上)。
また、彼はローマ人の支配によって衰退していたイングランド文化を復興させたことでも知られている。そのため、1066年のノルマン征服後に首都がロンドンへ移された後も、長い間、君主の戴冠式はウェストミンスター寺院だけでなくウィンチェスター大聖堂でも行われており、この町が歴史上とても重要な役割を果たしてきたことがわかる。ちなみに、アルフレッド大王の子孫は、のちにウィリアム1世の妃やスコットランド王妃となっているので、かの英雄の血は現在の英王室へ脈々と受け継がれていっている。

さて、ウィンチェスターの見どころのひとつはやはり、町の中心に建つウィンチェスター大聖堂だろう。7王国時代に建造された旧大聖堂「オールドミンスター」の跡地に1079年に再建され、幾度もの増改築を繰り返しながら、現在の姿に完成したのは16世紀のこと。ヨーロッパにおけるゴシック様式の大聖堂のうち、最も長い身廊(入口から祭壇にかけて続く中央のスペース)と全長(約160メートル)を持つ、イングランド最大級の聖堂となっている。1554年には敬虔なカトリック信者であったメアリー1世(ヘンリー8世の娘)とスペインのフェリペ2世の結婚式、1817年には「高慢と偏見」などで知られる恋愛小説作家、ジェーン・オースティンの葬儀・埋葬が行われた場所でもある。

大聖堂の南側には、ウィンチェスター司教の旧邸宅でメアリー1世の婚礼祝賀会が開かれた「ウルヴァジー城跡」、同司教が創設した英国最古のパブリックスクール「ウィンチェスター校」、その隣にはジェーン・オースティンが最期を迎えた家が並び、さらに流れの早いイッチェン川沿いを歩きながらハイストリート(東端)へ向かうと、目の前にシンボルのアルフレッド大王像が登場。反対側のハイストリート西端には旧ウィンチェスター城の現存する一部「グレートホール」もあり、中世の伝説アーサー王に由来する「円卓」を見ることができる。ただし、これは13世紀頃につくられたものであることがわかっており、16世紀にヘンリー8世の指示によりダーツ板のように白と緑色に彩色されたものであるが、一見の価値はあるだろう。

週末にのんびりと歴史散策を楽しむのに最適な町、ウィンチェスター。ぜひ訪れてみては?


ウィンチェスター大聖堂MAP
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ウィンチェスター CITY MAP
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Travel Information 2023年7月16日現在

アクセス
車:ロンドンからM3で南西方向に走り、ジャンクション9で下りる。70マイル程度、所要約2時間。
電車:ロンドン・ウォータールー駅から約1時間。
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週刊ジャーニー No.1300(2022年7月20日)掲載