
■ 日本人が多く居住する西ロンドン、イーリング・ブロードウェイ駅から徒歩5分の場所に、18世紀の建築家ジョン・ソーン一家が暮らしたカントリーハウスがある。今号では、現在は一部アートギャラリーにもなっている同所を紹介したい。
●征くシリーズ●取材・執筆/本誌編集部

ジョン・ソーン(絵)といえば、ホルボーン駅近くのテラスハウスの一角にある
イングランド銀行やセント・ジェームズ宮殿、ウェストミンスター宮殿、フリーメイソン・ホールなど、重要な建築物を次々に手がけた(ほとんどが現存せず)ソーンが、ピッツハンガー・マナーを購入したのは1800年。裕福な商人一家が暮らしていた旧館の一部(上写真・左端の建物)は解体せずに残し、その隣に自身が設計した本館を建てた。下の写真を見れば、その違いは一目瞭然だろう。旧館にある応接室や食堂は柔らかな色調の新古典主義様式だが、一方でソーンがデザインした本館はホルボーンの自邸を彷彿とさせるような凝った造りとなっている。ちなみに(上写真の)右端の建物は、今はコンテンポラリー・アートギャラリーに改修されている。
当初はホルボーンのミュージアムにある展示品の多くが、この屋敷に飾られていた。しかし、ロイヤル・アカデミーで教授職を得たのを機に、ホルボーン邸を大改修。コレクションも移送し、ピッツハンガー・マナーは自身の跡取りとなる長男へ譲ることに決めた。ところが、建築家になることを嫌がった放蕩息子とは決別する結果に終わり、ソーンは10年で同所を手放している。
邸宅の裏手には広々とした旧ガーデンが広がり(入場無料)、ソーンが所有していた当時は、画家のターナーがよく訪れ、一緒に池で魚釣りを楽しんだという。ガーデンに面したカフェでコーヒーをテイクアウェイすることもできるので、近場にお住いの人は訪れてみては?
Breakfast Room/朝食室

ドーム型天井や暖炉に古代ギリシャ風のモチーフを施した、一家の朝食用の部屋。後にホルボーン邸にも同様の朝食室をつくっており、ソーンがこのドーム型天井のデザインを気に入っていたことが伺える。天井の中央には青空が描かれている。
The Library/図書室

ピッツハンガー・マナー内で、ソーンが最初に設計した部屋。当時は白壁で、彼が手がけたイングランド銀行の設計図などが飾られていた。「ヒトデ(starfish)型」と呼ばれたこの天井デザインも、ソーンの建築の特徴のひとつ。
Upper Drawing Room/上階の応接室

1768年に建築家ジョージ・ダンスによって設計された旧館。ソーンは若い頃にジョージ・ダンスのもとで助手を務めていたため、「師匠」へ敬意を払い、時代遅れとなっていたにもかかわらず、内装を変えなかった。
Eating Room/食堂

ソーンは友人や知人、地元の名士らを招いて晩餐会をしばしば開いたが、その際にこの部屋が使われた。パーティーは午後4時半~5時に始まり、2コース・ディナーの後でデザートが提供された。
ピッツハンガー・マナー&ギャラリーで開催中
廃材を活用した英現代彫刻家 アンソニー・カロ展

1960年代、鉄板や鉄骨、パイプなどの廃材を溶接して組み合わせ、色鮮やかに彩色した抽象作品で彫刻の新しい領域を切り開いたアンソニー・カロ。世界的な名声を築いた彫刻家の没後10周年を迎え、ピッツハンガー・マナーに併設されたアートギャラリーではエキシビションが開かれている(邸宅の入場料込み)。
1924年にロンドン郊外で生まれたカロは、工芸学校で彫刻を学んだ後、ケンブリッジ大学工学部へ進学。卒業後は、英国を代表する現代彫刻家ヘンリー・ムーアの助手を2年ほど務めている。
素材、手法、スケール、空間に対する従来の考え方を大きく覆したカロの作品は、自由な伸びやかさと強靭な構成力が特徴。1983~2013年にかけて制作された16点の主要作品が、ギャラリー内のほか、ガーデンなどの敷地内に展示中だ。「彫刻家は未知の世界に飛び込み、新しいものを発見するのが仕事」と語っていたカロの世界をご堪能あれ。



Anthony Caro:
The Inspiration of Architecture
9月10日(日)まで
Travel Information ※2023年5月23日現在


PITZHANGER MANOR & GALLERY
Ealing Green, London
Tel: 020 3985 8888
www.pitzhanger.org.uk
【オープン時間】
水~日曜10:00〜17:00
※ 木曜のみ 20:00まで
【料金】£9
※ 木曜 17:00~ 20:00は入場無料、ローカル在住者は日曜10:00~ 12:30は入場無料(要住所証明)
【最寄り駅】Ealing Broadway
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週刊ジャーニー No.1292(2023年5月25日)掲載