野田秀樹新作舞台 NODA•MAP「正三角関係」世界配信決定
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セレブに人気の気軽なリゾート地へ

 1840年、モンキー・アイランド・ホテルがゲストハウスに生まれ変わると、川沿いに佇む白亜のホテルとして一気に注目を集め、ボートやフェリーに乗って客が次々と島に押し寄せた。ロンドンから近く、週末に気軽にたずねることができるので、近場のリゾート地とも呼ばれていたという。
そして特筆すべきは、釣りやボートといったレジャー・スポーツが好きな紳士たちが多く訪れたことであろう。修道士たちによって釣り場とされていた時代から約650年が過ぎ、モンキー・アイランドは貴族の余暇の遊び場を経て、スポーツに興じる場へと変化を遂げたのである。1876年には、近くの村メイデンヘッドでボート・クラブが誕生。ボートの練習はモンキー・アイランド周辺で行われ、ブレイでレガッタ大会が開かれたときには、この島やホテルも大々的に出版物で紹介されたという。たくさんのボートが停泊し、休憩がてらに昼食やクリーム・ティーを味わう人々で賑わっている様子が目に浮かぶようだ。


華やかなウェッジウッド・スイートと26室のベッドルームを備えたテンプル。
バルコニー付の部屋からは、テムズ川が見渡せる。

 さらにヴィクトリア女王の息子、エドワード7世とアレクサンドラ王妃が子供たちを連れてこの島でホリデーを過ごし、庭園でアフタヌーン・ティーを楽しんだことも人気を促進する一因となった。
1910年には、作曲家エドワード・エルガーもモンキー・アイランドを訪れている。この島をじっくりと眺めることができるように対岸に建つ小さな家に滞在し、創作活動に勤しんだ。そうして誕生したのが、エルガーの曲の中で最長の器楽曲といわれる『ヴァイオリン協奏曲』である。
また、『タイムマシン』『宇宙戦争』で知られるH・G・ウェルズや当代の人気作家、レベッカ・ウェストなども、文筆活動の場として好んでモンキー・アイランド・ホテルに宿泊したという。とくにレベッカ・ウェストはモンキー・アイランドを舞台にした小説『兵士の帰還』を執筆。主人公の女性は、同ホテルの経営者の娘という設定になっている。
長く豊富な歴史を誇るモンキー・アイランドとそのホテルには、まだ多くの逸話や伝承がある。躁鬱病を患っていたというジョージ3世に関する話もその一つで、ジョージ3世は病気療養のためにウィンザー城に幽閉されていたとき、可愛がっていたペットの猿を連れて、お忍びでモンキー・アイランドを時々訪れていたと伝えられている。ホテルのスタッフが語るこうした物語も、このプライベート・アイランドで過ごす静かなひとときに彩りを添えてくれるだろう。



空色を基調としたウェッジウッド・スイート(上)と、
猿をモチーフにした天井画が独特の雰囲気を醸し出すモンキー・ルーム(下)。

 1980年代後半までは、モンキー・アイランド・ホテルも、同じくテムズ川沿いにある町、マーローで有名な名門ホテル「コンプリート・アングラーMacdonald Compleat Angler」と並び評されるほど、アフタヌーン・ティーなどで人気の地だった。しかし美食の町へと進化しつつあるマーローを象徴する、一つの名所となっているコンプリート・アングラーに比べると、今のモンキー・アイランド・ホテルは時代の波に乗り遅れてしまったかのように古めかしく映る。興味深い歴史と理想的な立地を有する場所だけに、とても残念である。現在、少しずつ改修を進めているとのことなので、今後の進展に期待したい。
来年竣工する予定の超高層ビル「シャード」の建設や、ロンドン五輪開催による整備など、変化し続けるロンドンの街並みからわずか1時間弱の場所に、前世紀の風情そのままに、時代に置き忘れられたように佇むモンキー・アイランド・ホテル。のどかな自然のなかに身を置きリフレッシュしたいけれど、遠出はしたくないという方には、このモンキー・アイランドに足を運んでみることを提案したい。ロイヤル・ファミリーや多くの著名人たちで賑わっていた時代に思いを馳せながら、庭園でゆったりと午後のティータイムを過ごすのはいかがだろうか。