シェフィールドパーク

■風景式庭園で18世紀に一世を風靡した、「造園の魔術師」の手により誕生し、歴代オーナーたちに愛を注がれ美しく進化し続けた庭園。今号ではロンドンから日帰りでき、秋の行楽にピッタリといえる、このシェフィールド・パークをご紹介しよう。

●征くシリーズ●取材・執筆・写真/ネイサン弘子、本誌編集部

春には水仙やブルーベルがそよ風に揺れ、それを追うように目にも鮮やかなツツジやシャクナゲの花が咲き誇り、夏には睡蓮が水面を覆い、秋には見事に紅葉した木々の姿が水鏡に映し出される…。
四季を通じて来園者の途絶えないシェフィールド・パークだが、1年で最も賑わうのが、紅葉の季節だ。心落ち着く黄金色の並木道、「Japanese」の名札が少し誇らしい気分にさせてくれる真っ赤に染まったモミジやカエデ。園内では、家族連れやアマチュアフォトグラファーたちが、一様に感嘆の声をあげながらそぞろ歩く。「絵になる」場所が至るところにあり、写真の枚数が知らず知らずのうちに増える。

ケイパビリティ・ブラウンの名園

園内はどこでもピクニック可能。ところどころにあるベンチはほぼ先客がいるので、ピクニックをするなら敷物を持参して湖畔でのんびりしよう。
絵画のように風景を額縁の中に収めた写真が撮れる。

「シェフィールド」といってもイングランド北部の町シェフィールドにあるわけではなく、ロンドンから日帰りできるイースト・サセックスにある。
11世紀以降、貴族たちの領地として開拓されてきたこの地は、1769年に政治家志望のジョン・ホロイドの手に渡る。ホロイドは莫大な財産を費やし、ゴシック様式の壮麗なカントリー・ハウスを建造。庭園は、本誌でも度々紹介されてきた「造園の魔術師」の異名を持つ、時のセレブリティ造園師、ケイパビリティ・ブラウンに依頼した。ブラウンの作業に関する詳細な記録は残されていないが、壮大な自然を描いた一幅の絵画のような同園を見渡せば、彼の手によるものだということが一目瞭然だろう。1781年にホロイドがシェフィールド男爵に叙せられると、この地は「シェフィールド・プレイス」と呼ばれるようになった。

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紅葉の名所へと進化

シェフィールド・パークには25種類240本ものモミジ(カエデ)が植えられている。「モミジ」とは紅葉する樹木全般に対する総称。一般的に葉に5つ以上の深い切れ込みがあるものを「モミジ(Maple)」とし、切れ込みが浅いものが「カエデ(Acer)」とされているが、植物学的にはどちらもムクロジ科カエデ属の植物。
1910年から24年にかけて、アーサー・ソームズが種から育てた400本のヌマミズキ(Nyssa sylvatica)はパーク内最大のコレクション。

歴代の所有者たちがこの庭園を愛し、それぞれに足跡を残してきたが、中でも20世紀の所有者で、実業家のアーサー・ソームズにより同園は著しい進化を遂げる。
1900年代初頭、多額の借金を抱えていた第3代シェフィールド伯爵が亡くなると、以前からこの地を気に入り、所有を渇望していたソームズは、待ってましたとばかりに購入。以後、研究熱心な性格でもあったソームズは植物の研究と造園に多くの時間を費やし、特にツツジやシャクナゲ、紅葉樹の植樹に情熱を注いだ。また、海外で見つけた植物などを持ち帰っては生育条件を変えながら、庭のさまざまな場所に植え、失敗や成功を経て理想の庭園を作り上げていった。花が可憐に咲き乱れる春、燃えるような紅葉の秋―ソームズはこの庭を愛で、至福の時間を過ごしていたことだろう。
ソームズの死後、甥に受け継がれた同地は、第二次世界大戦中には軍隊の駐留地となり、大きなダメージを受けた。甥のソームズは戦後に修復を試みたが断念し、1953年に不動産会社に領地のすべてをを売却した。


誰もが楽しめる庭園へ

樹齢140年のセコイアの木。子供たちが滑り台のように滑り降りて遊ぶ。
歴史的重要建造物グレードⅠに指定されているカントリー・ハウスは、現在は超高級フラットになっている。

1954年、英国の歴史的名所や自然景勝地を保護する「ナショナル・トラスト」が庭園の大部分を購入。バッキンガム宮殿やウィンザー城に並び、最高重要建造物であるグレードⅠに指定されているカントリー・ハウスは個人所有のまま、1980年代に12戸が入居する超高級フラットに改築された。
ナショナル・トラストの手により命を吹き返したソームズの夢の庭園は、一般公開され、誰もが楽しめる地となるに至った。造園師の情熱と過去のオーナーたちの愛がつまったシェフィールド・パークの紅葉は、例年10月末のハーフタームの時期に見頃を迎える。今秋、出かけてはいかがだろうか。

ビターナット・ヒッコリイ(Bitternut Hickory)の葉が黄金色の輝きを放つようになったら秋の到来。
入り口で配られていた秋のアクティビティシート。子供たちが楽しみながら自然に触れられるように工夫されている。

入り口近くでは植木やプラントポットが売られている。
子供たちもにわかフォトグラファーに変身!

紅葉のグラデーションに包まれる並木道。

Restaurant
Joke
Henry Q&A
Travel Guide
London Trend
Survivor
Great Britons
Afternoon Tea

紅葉だけじゃイヤ!という子供たちも大喜び
パンプキン・ピッキング体験!

シェフィールド・パークから車で5分の場所にある「ヘヴン・ファームHeaven Farm」では、ハロウィン用のパンプキン・ピッキングが体験できる。入場は無料だが、カボチャの代金は大きさによる。園内にはアイスクリーム・パーラーや、ランチやアフタヌーンティーを提供するティールームもあり。
www.heavenfarm.co.uk

JEMCA
Kyo Service
J Moriyama
ジャパンサービス
らいすワインショップ
Atelier Theory
奈美デンタルクリニック
Sakura Dental

Travel Information ※2022年10月10日現在

Sheffield Park and Garden
Sheffield Park, Uckfield, East Sussex TN22 3QX
www.nationaltrust.org.uk/sheffield-park-and-garden
入場料
ナショナル・トラスト会員 … 無料
非会員 … 大人14ポンド、小人7ポンド
開園時間
毎日
9:00~17:00(10月30日まで)
9:00~16:00(11月6日まで)
10:00~16:00(11月7日~)
※秋の繁忙期(9月12日~11月20日)には、ナショナル・トラスト会員/非会員を問わず、確実に入場するためには要事前予約。
アクセス
〈鉄道〉ロンドン・ブリッジ駅よりサザーンSouthern鉄道で約1時間20分。アックフィールドUckfield駅下車。Uckfieldバスステーションから毎週火曜にSheffield Park行きの無料シャトルバスあり(要予約)。
〈車〉ロンドン中心部よりA22、またはA23経由で約2時間半。無料駐車場あり。


週刊ジャーニー No.1261(2022年10月13日)掲載