ベルファスト

■ かつての雄姿そのままに、静かにテムズ河に浮かぶ1隻の軽巡洋艦「HMSベルファスト」。存在は知っていても、艦内に足を運んだことがある人は多くないのではないだろうか。今号ではタワーブリッジのそばで威容を誇る、この退役軍艦についてお届けする。

●征くシリーズ●取材・執筆・写真/本誌編集部

1918年11月11日午前11時、人類が初めて体験した世界大戦は、軍関係の戦死者900万人、非戦闘員の死者1000万人、負傷者2200万人というおびただしい犠牲者を出して終結した。この大戦で人類は戦争回避の重要性を痛感したが、その陰で「列強」と呼ばれた英米などの大国は「平和は一時的な仮の状態にすぎない」と感じとったのか、軍備増強を続行した。そうした中で始まったのが、英国の統治下にあったアイルランド北部6州の中心都市ベルファストにおける、一隻の軽巡洋艦の建造だった。
かつてタイタニック号を手掛けたベルファストの一大造船所「ハーランド&ウルフ社」がその建造を請け負い、1938年3月17日、アイルランドの守護聖人「聖パトリック」の祝日に進水式が行われた。翌年にベルファスト号は、正式に英海軍船「HMSベルファスト」として就役。第二次世界大戦勃発の約1ヵ月前のことである。ちなみに、「HMS」とは「Her Majesty's Ship(現在はHis Majesty's Shipとなる)」のことで「女王(国王)陛下の船舶」という意味であり、海軍所属であることを示している。
ベルファスト号は、第二次世界大戦でナチス・ドイツの封じ込めを画策する英海軍の一員として任務をスタート。ところが、開戦からまだ2ヵ月余りでスコットランド沖にてドイツ軍の機雷に触れ、大きく破損。死者は出なかったものの、修復に3年もの月日を費やすことになってしまう。
1942年にやっと戦線に復帰し、ソ連に向かう船団の護衛などに携わった後、1944年にはノルマンディー作戦にも加わっている。その後は極東へと配されたが、翌年8月に日本が降伏したことによって、この任務は短期で完了。同艦は第二次世界大戦を無事に戦い抜いた。
引き続き、極東の海で英海軍旗をなびかせていたベルファスト号は、1950年に勃発した朝鮮戦争にも国連軍の一員として参加している。
本来ならば、退役した軍艦はスクラップと化す道しか残されていない。だが幸運なことに、保存目的で6インチ砲と15インチ砲を搭載する軍艦を探していた、帝国戦争博物館(Imperial War Museum)関係者の目にとまったのだ。いったんは政府によって同艦の保存案は却下されたものの、その後、「ベルファスト号財団」が設立され、保存運動が大々的に行われた。この結果、同艦を博物館として残すことに政府も渋々同意し、1978年、観光スポットとして人気の高いタワーブリッジのそばに係留され、博物館としての第二の人生を歩み始めた。
淡いグレーと水色と白色の迷彩柄で覆われた船体が「いかにも軍艦」という、いかめしいイメージを抱かせがちながら、内部の展示は子どもも大人も飽きさせないような工夫がなされている。見学できるのは、無線室や提督・艦長室などがある実戦関連エリア、炊事室や郵便室、病室、歯科治療室、売店までそろった乗員の生活エリア、砲弾室や弾薬庫といった推進システム関連エリアの3層目まで。艦内はかなり狭く、ベビーカーを押しての見学は不可。また、急なハシゴを何度も上り下りしての移動となるため、動きやすい服装、荷物はできるだけ少なくして両手は空けておいた方がいいだろう。艦内は窓がほとんどない密閉空間となるので、閉所恐怖症の人は少し息苦しく感じるかもしれない。
一気に秋が深まり、急激に冷え込んできた英国。ナショナル・トラストやイングリッシュ・ヘリテージが管理する屋敷も、長い冬へ向けて閉館し始めている。テムズ河の川べりからベルファスト号を眺めたことしかないという人は、この機会に一度訪れてみてはいかがだろうか。

帝国戦争博物館が保存したいと目にとめた6インチ砲塔(6-inch Gun Turret)。ここから次々と発射された砲弾は、同艦3層目の推進システム関連エリアで見ることができる。
操船に関する指揮をする部屋「提督艦橋(Admiral's Bridge)」には、提督や艦長用の木椅子のほか、海図、無線室や操舵室などと連絡をとるための電話機などが設置されている。

洗濯室にはアイロン台もある。
魚雷のモデル。その大きさに驚く。

海上自衛隊の練習艦「かしま」 ロンドンに寄港していた!

© 海上自衛隊

 NATO(北大西洋条約機構)の部隊と共同訓練を行うため、海上自衛隊の初級幹部を乗せた練習艦が、今年4~8月にかけて、世界をほぼ一周する遠洋練習航海を実施。新型コロナウイルスの蔓延で中止されていた訪問国への上陸が、3年ぶりに復活した。
今回英国に寄港したのは、練習艦「かしま」=写真右=(6月22日~25日、ロンドン)と練習艦「しまかぜ」(6月21日~25日、ポーツマス)の2隻。かしまは6月22日、開門したタワーブリッジの下を通過してロンドン入りし、ベルファスト号の横に到着した(写真下)。干潮時には水位が低くなりすぎるため、テムズ河の岸沿いに接舷するのは難しいことなどから、ロンドンに入港する際にはベルファスト号にならぶ形で係留され、乗組員は同号を経由して英国に「入国」することになる。ベルファスト号の艦上で、入国審査や税関チェックなども行われるという。
寄港中は、日英同盟の締結から今年で120年を迎えたことを記念する交流行事などが行われた。
練習艦は、今年4月下旬に横須賀港を出発。英国以外では、地中海でNATOの常設海上部隊と共同訓練を行ったほか、トルコやイタリアの海軍と交流を図り、8月下旬に日本に帰港している。
ベルファスト号は全長187メートル、最大幅19メートル、最大速力32ノット、乗員800名程度であるのに対し、かしまは全長143メートル、最大幅18メートル、最大速力25ノット、乗員360名となっている。

Travel Information ※2022年9月26日現在

HMS Belfast
The Queen's Walk, London SE1 2JH
Tel:01372 458203
www.iwm.org.uk/visits/hms-belfast
開館時間
10:00~18:00
入場料
£23.60
最寄り駅:
ナショナルレイル:ロンドン・ブリッジ
地下鉄:ロンドン・ブリッジ/タワーヒル


週刊ジャーニー No.1259(2022年9月29日)掲載