●征くシリーズ●取材・執筆/本誌編集部
英国における演劇の歴史は、教会でイースターやクリスマスに行われた「典礼劇」を起源としている。最古の記録は10世紀にさかのぼり、文字を読めない市民もわかりやすく理解できるように、聖書に描かれている奇跡を聖職者たちが簡単な対話形式で再現し、演じていた。やがて内容が複雑化し、上演場所も教会内から教会の庭、そして村や町の広場へと移っていき、現在の「野外劇」に相当するものへと発展。宗教的祝祭としてだけでなく、結婚式といった個人的な祝いの席でも役者たちによって演じられるようになった。
これを「演劇」へとさらに大きく発展させたのが、エリザベス1世である。演劇を深く愛した彼女は、イングランドの町を巡業する役者の一座を保護。さらに交通の便のよいテムズ河沿岸、とくにサザーク周辺に次々と劇場の建設を命じた。この時代、シェイクスピアをはじめとする多くの劇作家が誕生・活躍し、英国演劇は黄金期を迎えることになる。
当時の劇場は、3階建ての「円形野外劇場(amphitheatre)」が一般的で、グローブ座(1599年完成/1997年再建)からもわかるように、屋根つきの舞台を取り囲むように桟敷席が並び、舞台前は立見席、その立見席エリアは屋根で覆われておらず吹き抜け状態だった。そのため冬季は公演が行われず、演劇といえば夏の風物詩、一大享楽イベントでもあったのだ。
パンデミック以降、長らく公演中止を余儀なくされていたロンドンの演劇界も、今年に入って完全復活し、再び活気を帯び始めている。とはいえ、2~3時間に及ぶ演劇やミュージカルを、閉じられた空間である劇場内で観ることにためらいを覚える人もいるだろう。でも、屋外で自然の空気と風に触れながらの鑑賞ならば、安心して楽しめるのではないだろうか。9時すぎまで空が明るい英国の夏、出かけ先のひとつに野外での演劇鑑賞を入れてみては?
Shakespeare's Globeグローブ座
エリザベス1世の時代に建設された、シェイクスピア劇専門の円形野外劇場(再現)。今シーズンは「ヘンリー8世」 「ジュリアス・シーザー」「お気に召すまま」などを上演。
21 New Globe Walk, London SE1 9DT
最寄り駅: Blackfriars / London Bridge
£5~
www.shakespearesglobe.com
Regent's Park Open Air Theatreリージェンツ・パーク野外劇場
リージェンツ・パークで行われる、夏恒例の野外劇。今年の演目は「リーガリー・ブロンド」「101匹のダルメシアン」「アンティゴネ」。
Regent's Park, Inner Circle, London NW1 4NU
最寄り駅: Baker Street
£25~
https://openairtheatre.com
Opera Holland Parkオペラ・ホランドパーク
ホランドパークで行われる、夏恒例の野外オペラ。旧男爵家の邸宅「ホランドハウス」の遺構に会場が設営される。今年の演目は「カルメン」「若草物語」ほか。
Holland Park, Ilchester Place, London W8 6LU
最寄り駅: Holiand Park / High Street Kensington
£56~
https://operahollandpark.com
Shakespeare in the Squaresシェイクスピア・イン・ザ・スクエアーズ
レスタースクエア、カムデンスクエアなど、ロンドンに点在する各広場でシェイクスピアの「テンペスト」を一夜限りで上演。
West End Liveウエストエンド・ライブ
ウエストエンドで上演中のミュージカルの曲を、出演者がトラファルガー広場で披露。新作の「美女と野獣」「アナ雪」から「オペラ座の怪人」まで34作品が登場。
River Stageリバーステージ
サウスバンクで開催される、ナショナルシアター主催の野外フェスティバル。現代の英国社会を表すライブやダンス・パフォーマンスなどを楽しめる。
気軽に楽しめる「野外シネマ」はいかが?
The Luna Open Air Cinemaルナシネマ
ケンジントン宮殿やウェストミンスター寺院、ケンウッドハウスなど、ロンドン各地の一風変わったロケーションに、今年も野外シネマが設営される。「007/ノータイム・トゥ・ダイ」「ウェストサイド・ストーリー」「スパイダーマン」などを、皆で夜のピクニックがてら鑑賞するのも楽しそう!
美しい歌劇場で着飾ってオペラ鑑賞!
Glyndebourne Festivalグラインドボーン・フェスティバル
領主がオペラ歌手である妻のために建設した豪邸内の歌劇場で、オペラを堪能できる。幕間が長く、休憩時間は広々としたガーデンでシャンパンやランチ、ディナーを楽しむ、夏の社交場として愛されている音楽祭。ロンドンから車で1時間半ほど。今年の演目は「フィガロの結婚」「ラ・ボエーム」など。
週刊ジャーニー No.1243(2022年6月9日)掲載