
■ 今年も残すところ、あと2ヵ月半。年内最後の10月のハーフターム、遠出するには肌寒い日が多くなってきたし、家族で一体どこに出かけよう? そんな人におすすめしたいのが、天気や気温を気にせず過ごせるロンドン交通博物館。今回は「鉄オタ」ではなくても遊園地感覚で子どもと一緒に楽しめる上に、ロンドンの過去と未来も学べる同所を改めて紹介したい。
●征くシリーズ●取材・執筆・写真/本誌編集部
ロンドンの人気観光スポットのひとつ、コヴェント・ガーデン(Covent Garden)。その名は13世紀にはすでに記録されており、当時はウェストミンスター寺院が所有する「修道院専用の野菜畑(Convent Garden)」だった。しかし、ヘンリー8世が発布した修道院解散令によって同地が一般開放されると、野菜や果物、花を中心とした市場(マーケット)へと変身。ロンドン大火で東部の市場が焼失した後は、ロンドン最大の市場として商人や買い物客で賑わった。ところが1971年に市場が移転、同所がショッピングモールに変わることが発表されると、入居者として真っ先に名乗りをあげたのがロンドン交通博物館。以来、コヴェント・ガーデンのピアッツァ(屋根つき回廊がある広場)では「最古参」を誇っている。
産業革命で交通手段が急速に発展した19世紀から現代に至るまで、200年におよぶロンドンの交通の歴史と乗り物を紹介する同館には、貴族や富裕層が乗っていた人力の西洋版「駕籠(かご)」から始まり、第1号バスである乗合馬車、ダブルデッカー(2階建てバス)の起源といえる2階建ての馬車やトラム(路面電車ならぬ路面馬車)、蒸気機関車が牽引した世界初の地下鉄のほか、トロリーバス(電気バス)などが工夫を凝らした演出で並べられている。新型コロナウイルスの感染防止対策により、車内に乗り込めなくなったことが非常に残念でならないが、間近で見る当時の馬車の大きさと迫力にきっと驚くことだろう。
館内をめぐるスタンプラリーやロンドン版「電車でGO!」の地下鉄運転シュミレーション・コーナー、ダブルデッカーの運転席に座ってドライバー体験ができるなど、子どもが興味を持って遊べるような工夫が盛りだくさん。一方で、地下鉄を「チューブ」と呼ぶようになった原因でもある「トンネル」の掘削作業を紹介する一角では、最初のトンネルを実物大で再現。いくつもの命が失われた危険な工事や、遅れに遅れているクロスレール(エリザベス・ライン)の開通工事についても映像で知ることができる。また、将来的に導入予定という顔認証システム式の駅改札を説明するコーナーもあり、大人も学ぶことが多いはずだ。
そして見逃してはならないのが、2階の片隅にある廃駅の入口を模した「HIDDEN LONDON」。一見ただの展示デザインに見えるが、何気なく近づいてみると、突然自動ドアが開いてびっくり! 中は暗くお化け屋敷風になっており、廃駅の歴史やヴィクトリア朝時代の駅員たちの生活、第二次世界大戦時に防空壕や病院として使われた様子が再現されている。
同館に隣接するロンドン映画博物館では、ハリポタ映画の制作舞台裏を紹介する「The Harry Potter Photographic Exhibition」を開催中。近辺はショッピングやカフェ・レストラン施設も充実しているし、ぜひハーフタームに家族で出かけてみては?

バスの起源!英国初の乗合馬車「オムニバス」

1820年代後半にロンドンに登場した、路線バスの起源ともいえる乗合馬車。最初にパリで開通した後、ロンドンにも広まった。走行区間はシティ~パディントン。ちなみに、これで22人乗り! 狭い…。
元祖ダブルデッカー! 2階建て馬車&トラム

1851年のロンドン万国博覧会により、交通網が大きく発展。それまで「スピードが遅い、運賃が高い、乗り心地が悪い」と人気がなかった乗合馬車の需要が増え、2階建てが登場した。
世界初の地下鉄! トンネル内を蒸気機関車が疾走


1830年、世界で初めて蒸気機関車がリバプール~マンチェスター間を走行。しかし、大都市ロンドンでは地上ではなく地下に鉄道を走らせることになり、地下鉄が開通したのは33年後の1863年だった。外の景色も見えず、狭い空間でじっとしていなければならなかったため、閉所恐怖症を引き起こして倒れる人も続出!
第一次世界大戦時の 兵士輸送バスも!

1914年にロンドンで初めて大々的に運行された、電力で動く2階建てバス。旅客用ではなく兵士輸送用だったため、窓は塞がれている。
見逃すな!廃駅で影の歴史を知る…

2階の端の一角にある、営業を廃止した駅を模したスペース。単なるオブジェだと思ったら大間違い! 映画のロケ地やコウモリの住処となったりしている、廃駅の「現在の姿」を知ってほしい。ちなみに年に数回、実際の廃駅ツアーも開催されている。
「地下鉄マーク」が浮かぶカプチーノはいかが?

博物館内にはいくつかカフェスペースがあるが、おすすめはショップの上階にある「Canteen」。地下鉄で使われていた座席の布地をリメイクした椅子が、レトロでおしゃれ。カプチーノ(3ポンド)を注文すると、インスタ映えするチューブマークを描いてくれる。
Travel Information
London Transport Museumロンドン交通博物館
Covent Garden Piazza, London WC2E 7BB
www.ltmuseum.co.uk
開館時間 毎日10:00~18:00
入場料 大人£18.50
最寄り駅 Covent Garden
※チケットは1年間有効、何度でも入場可
※17歳以下は入場無料
※年に数回、アクトンにある倉庫も公開
週刊ジャーニー No.1210(2021年10月14日)掲載