Royal Collection Trust / ©Her Majesty Queen Elizabeth II 2020 Photo by John Freeman

●征くシリーズ●取材・執筆/本誌編集部

エリザベス女王が週末を過ごす公邸、ウィンザー城。
ウィリアム征服王によって建てられて以来、
英王室の所有として脈々と受け継がれている。
今回は、約950年にわたる王室の歴史が凝縮された、
世界最古にして最大の現役の城を征く。

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1066年にウィリアム1世(征服王)が開いた「ノルマン朝」を起源とする英王室。エリザベス女王を君主に仰ぐ現王朝が、1917年から続いている「ウィンザー朝」だ。18世紀にドイツから王を迎えて「ハノーヴァー朝」がスタートして以来、ヴィクトリア女王の母后をはじめ、その夫のアルバート公など、英王室にはドイツの王族や家系出身の者が少なくない。ヴィクトリア女王の死後に始まった「サクス・コーブルク=ゴータ朝」はアルバート公の出身王家の家名をとったものだが、第一次世界大戦中にドイツが敵国にまわると、「英国らしさ」を強調するため、「ウィンザー朝」と改名された。

では、なぜ「ウィンザー」が英国らしいのか?

それは、英王室のスタートとほぼ同時期に建てられ、現在も脈々と王室の居城として受け継がれている「ウィンザー城」にちなんでいるからだ。ちなみに、「ウィンザー」という地名が最初に登場したのは9世紀の『アングロサクソン年代記』とされ、古英語で「winch by riverside」(川岸にある船舶の陸揚げ用巻き上げ機)を意味する言葉だったという。

ウィンザー城は夏休みやクリスマス休暇を除いて、ほぼ毎週末、エリザベス女王が過ごす離宮として知られ、ガーター勲章の授勲式のほか、王室の婚礼の儀や洗礼式、誕生祝賀会などが催される「現役の城」。とくに今年は、新型コロナウイルスの蔓延以降、女王夫妻はバッキンガム宮殿を離れ、ウィンザー城で暮らしている(現在は夏季休暇でスコットランドのバルモラル城に滞在中)。

2005年にはチャールズ皇太子とカミラ夫人の祈祷式と披露宴、さらに2018年にはハリー王子とメガン妃、ユージェニー王女らが同所のチャペルで結婚式を挙げたことも記憶に新しいだろう。

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接見の大広間(Grand Reception Room) Royal Collection Trust / ©Her Majesty Queen Elizabeth II 2020 Photo by Peter Smith
深紅の客間(Crimson Drawing Room) Royal Collection Trust / ©Her Majesty Queen Elizabeth II 2020 Photo by Peter Smith

ウィンザー城の外観は質実剛健で、「要塞」として建てられた当初の風格をそのまま保持している。ロンドンを囲む砦のひとつとして建てられ、現在、我々が目にする「ラウンド・タワー」は、オリジナルの木造の本丸を1170年に石造に再建したもの。女王の滞在時は、このラウンド・タワーに王室旗が掲げられる(不在時は英国旗)。

要塞から居城へと変わったのは、ノルマン朝3代の王ヘンリー1世の時代。ロンドンの西側に位置し、物流に重要なテムズ河に近く、王室所有の狩猟の森(現ウィンザー・グレート・パーク)にも隣接し、さらに敵を見渡すことのできる高台に位置するという、王室の居城としては最適の立地であった。そのため、本丸に居住空間を増築していく形で、次第に城の性格を濃くしていき、清教徒革命時代に再び要塞として機能したことを最後に、ウィンザー城は完全に王族の住居となった。

ウィンザー城は、大きな不幸にも見舞われている。

1992年11月20日、城で大火災が発生し、ステートルーム6室と3つの塔が完全焼失、100室以上が重度の被害を負った。出火元はプライベート・チャペルで、祭壇の上方に掛けられたスポットライトからカーテンに引火したとみられている。

200余名の消防士が15時間にわたって鎮火に取り組み、なんとか被害を最小限にとどめることができたものの、世紀の大惨事となった。修復費用の3700万ポンドは政府負担となるはずだったが、出火の原因はいわば城の不注意。エリザベス女王は費用の大半を自身で賄うことを発表、翌年よりバッキンガム宮殿が一般公開されることになり、ウィンザー城の入場料とあわせて、その収益金が修復にあてられた。

ヘンリー8世門から入場する王室近衛歩兵 Royal Collection Trust / ©Her Majesty Queen Elizabeth II 2020

ウィンザー城へ来たら、城内見学とともにぜひお勧めしたいのが「ロング・ウォーク」。城のジョージ4世門から、「ホーム・パーク」と「ウィンザー・グレート・パーク」の2つの公園をつっきる形でまっすぐ南に伸びる並木道は、全長約5キロ。17世紀にチャールズ2世が5年の年月をかけてつくらせたもので、エリザベス女王が「ロイヤル・アスコット」に臨席する際、ここを車で通過して出かけることでも有名だ。しかし、このロング・ウォークを車両で通過できるのは王室関係者のみ。一般客は、その名のとおり「歩行」しか許されていない。南の果ての小高い丘の上には、ジョージ3世の騎馬像が建つ。ヘンリー8世は、ロンドン塔で行われた2番目の妻アン・ブリンの処刑完了の知らせを、この丘で待っていたという伝承がある(リッチモンド説もあり)。

英王室の歴史とともに、常にこの地に腰を下ろし続けきたウィンザー城。英国の威厳と気品を保ち続ける同地を、この夏訪れてみてはいかがだろうか。

ウィンザー城から南へまっすぐ伸びる「ロング・ウォーク」。ジョージ3世騎馬像までは約5キロ、徒歩1時間ほど。© Diliff

Travel Information ※2020年8月4日現在

Windsor Castle
Windsor, Berkshire SL4 1NJ
www.rct.uk/visit/windsor-castle

オープン時間
木~月曜/10:00~17:15 (11月以降は16:15まで)
※クイーン・メアリー・ドールズハウスは閉鎖中

入場料
大人£23.50

電 車:
ロンドン・ウォータールー駅からWindsor & Eton Riverside駅で下車(所要時間約1時間)。またはパディントン駅からWindsor & Eton Central駅で下車(所要時間約35分)。

車:
ロンドンからM4で西に向かいジャンクション6で下車するか、M3のジャンクション3で下車し、北上する。所要時間は、いずれも約1時間半。

週刊ジャーニー No.1149(2020年8月6日)掲載