ストーク・パークを征く
© English Heritage

■ひと言に「庭園」といっても時代によってそのスタイルは異なるもの。ロンドン中心部から車でわずか1時間半の場所にある「レスト・パーク」(Wrest Park)は、3世紀にわたる庭園の歴史を示す邸宅として親しまれている。今回は、2011年に蘇ったこの地を征くことにしたい。

●征くシリーズ●取材・執筆/本誌編集部

300年の庭園の歴史

 

英国の庭園と言えば、自然をモチーフに景観美を追求し、それを庭園の中に持ち込む「風景式庭園」がよく知られている。しかしこのスタイルが確立したのは18世紀こと。それより前の17世紀は、絶対王政の栄華を誇ったベルサイユ宮殿に代表されるフランス式造園法が一世を風靡していた。壮大な眺めを際立たせた庭園に、彫刻や噴水、草花を整然と配列。こうした華やかな「人工美」は、「権力があれば自然をも思いのままにできる」というメンタリティーのヨーロッパ貴族にとって、ステイタスや学識の象徴だった。
ロンドン中心部から北へ車で1時間半。ベッドフォードシャーの町シルソーに位置し、イングリッシュ・ヘリテージの働きで「秘密の庭園」として蘇ったこのレスト・パークも、17世紀から18世紀にかけて発展を遂げる。
同地は13世紀初頭から20世紀初頭の700年近くにわたり、ノルマン貴族のひとつド・グレイ家によって受け継がれてきた。一族は所領拡大を目的にした政略結婚を繰り返し、17世紀には英国有数の貴族として財を成していた。
ド・グレイ家が輩出した人物の中でも突出した「野心家」で、政治家でもあった第12代ケント伯爵、ヘンリー・グレイは1690年代にヨーロッパを周遊し、旅先で目にした荘厳な光景を元に、自慢の庭園を完成させた。フランスのフォーマル庭園の影響を受け、先代が設けた「ロング・ウォーター」を軸に、両サイドに規則正しく木立を配置し優雅な並木道を設計。現在は少し形を変えているものの、ロング・ウォーターからパビリオンに向かう眺めはレスト・パークを象徴づける光景だ。
18世紀中頃になるとデザインの流れは一気に自然派志向へと向かう。このとき誕生したのが英国を代表する造園法のひとつ「風景式庭園」だ。遠くまで見渡すことができる緑の広がりと、周りの自然と調和した緩やかな曲線を用いたスタイルは、「人工美」から成る庭園とは対照的と言える。

チャツワースやブレナム宮殿などの庭園を生み出した、造園家ランスロット『ケイパビリティ』ブラウン(1716-1783)。彼の手がける庭園は、小川をせき止めて作られるなだらかな曲線の湖水や、ゆったりとした起伏の緑地、茂み、木立など、「水」と「樹」が絶妙なバランスで配され、壮大な空間が演出された。

ヘンリーの死後、邸宅を引き継いだ孫は庭園デザインのトレンドをキャッチし、造園の魔術師として知られた造園家ケイパビリティ・ブラウンに依頼し、祖父が築いたフォーマルな庭に柔らかい側面を加えていった。祖父に最大の敬意を払い、大々的な変更を行うことを避け、その結果「フォーマル」と「インフォーマル」の融合が生まれることとなる。これが現在レスト・パークの特徴の一つとして人々を魅了している。
そして19世紀に入ると、更なる進化を遂げる。時の当主は、現存する邸宅の周辺で、当時再び人気を集めていたフォーマル・ガーデン作りに着手。四季を問わず一年のほとんどがカラフルに彩られたというイタリアン・ガーデンや、入り組んだデザインが特徴のフレンチ・パルテール(花壇)が設けられた。当時の英国には珍しい品種の植物が世界各国からもたらされており、北アメリカ原種の植物を植えたアメリカン・ガーデンも加わった。

「秘密の庭園」としての再起

 

ド・グレイ家の栄華の象徴だったレスト・パークだが、1900年以降は賃貸物件として貸し出され、さらに戦時中には病院として利用されるなど、「没落」というかつての貴族の所領の多くがたどる悲しい末路をとる。
荒廃が進む一方で、庭園・邸宅の価値を見出す団体のささやかな取り組みによってかろうじて存続する中、2006年にイングリッシュ・ヘリテージが引き取ると、一大再生プロジェクトがスタートする。そして2011年、20年におよぶプロジェクトの第一段階を終え、時代から忘れ去られていたレスト・パークは一般公開を開始。「秘密の庭園」と称されるに至ったのである。
およそ92エーカー(約37万平方メートル)の庭園を歩いてみると、さまざまな表情を覗かせるレスト・パーク。栄華を取り戻した同地で、夏の1日を過ごしてはいかがだろうか。

異なる顔で魅了する庭園を散策しよう!

邸宅から伸びる 道を歩いて行くと、その先に…

17世紀当時に主流だったフォーマル・デザインの典型となるロング・ウォーター。この頂点にバロック・パビリオンがある。英国を代表する庭園のひとつチャツワースのカスケード・ハウスを設計したことで知られる建築家トーマス・アーチャーが1711年に完成させた。

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自然との調和に重きをおいてデザインされた森(ウッドランズ)には、彫刻や建造物が点在する。写真は、手前がチャイニーズ・ブリッジで、奥に見えるのがチャイニーズ・テンプル。

邸宅内(現在、閉館中)から四季折々の花を楽しめるよう設けられた「イタリアン・ガーデン」。

Travel Information ※2020年6月29日現在

Wrest Park
Silsoe, Bedfordshire, MK45 4HR
www.english-heritage.org.uk/visit/places/wrest-park/


【アクセス】 ロンドンから北へ45マイル(72.4キロ)
【オープン時間】 午前10時〜午後5時
【入場料】 大人12.60ポンド〜、子供7.60ポンド〜
※現在は、庭園のみ一般公開中(邸宅は休館)。事前予約必須。

週刊ジャーニー No.1144(2020年7月2日)掲載