その名のとおり、雪のように真っ白な花をつける可憐な植物、スノードロップ(和名・待雪草)。今回は、森一面を雪景色のように染めてしまう、英国屈指のスノードロップの名勝地をご紹介しよう。

●征くシリーズ●取材・執筆・写真/ネイサン弘子・本誌編集部

冬の終わりを告げる花

草花をこよなく愛する国、英国の花ごよみは、まだまだ寒さの厳しい1月末頃に姿を現すスノードロップから始まる。そして、長かった冬の終焉を告げるこの花の後を追うようにしてクロッカス、スイセンなどが順に咲き始め、3月末の夏時間を迎えると、英国にようやく春本番がやってくるのである。
ヨーロッパで何世紀にも渡り愛され続けてきたスノードロップが咲き乱れる全国屈指の名勝地「ウェルフォード・パーク」があるのは、ロンドンからひたすら西へと向かったバークシャーのニューベリー近郊の田園地帯。毎年1月末から2月にかけて、200エーカー(東京ドーム約17個)の広大な敷地の一角にあるブナの森に、まるで雪が舞い降りたかのような、一面真っ白な景色が広がる。
古くは修道院が所有していたとされるこの地は、英国王ヘンリー8世の狩猟用ロッジとして利用され、その後、1618年にのちのロンドン市長フランシス・ジョーンズに購入される。それから400年ほどが経過した現在に至るまで、同系一族の私邸として連綿と受け継がれてきた。同所の歴史上、売買されたのはこの一度だけという。莫大な維持費用問題などの理由で、英国各地で転売が繰り返され、ホテルや学校として再開発されるマナー・ハウスやカントリー・ハウスも多い中、数世紀もの間、同系一族が受け継いできたウェルフォード・パークは稀な存在といえるだろう。
敷地内には1652年に建てられた、ジャコビアン様式の特徴であるレンガを用いた直線のデザインが際立つ邸宅があり、現在も私邸として使用されている。普段は公開されていない同地が1年に一度だけ一般に門を開くのが、スノードロップの季節だ。美しく咲き乱れる花々を見ようと、毎年多くの人が訪れ、幻想的な景色に魅了されている。

修道士に愛でられた清めの花

しずく型の小さな純白の花をうつむくように下向きに咲かせ、陽が当たると3枚の花びらを開いて異なる表情を見せるスノードロップ。純白で可憐なこの花ほどその名が似合う花は他にないだろう。
学名は「ガランサス(Galanthus)」。ギリシャ語で「乳のように白い花」という意味を持つ。英名のスノードロップに関する言い伝えは諸説あるが、一説には、「禁断の果実を食べ、エデンの園を追われたアダムとイヴ。悲しむイヴをあわれんだ天使が彼女を慰めようと、その時舞い落ちていた雪を花に変えた」という、悲しくもロマンティックな聖書のエピソードに由来しているという。
キリスト教に深い関わりを持ち、清めの花として古くから修道士らに愛されてきたこの花は、修道院や教会の敷地や墓地などに好んで植えられてきた。そして、毎年2月2日、聖母マリアとその夫であるヨセフによってイエス・キリストが神殿に連れて来られたことを祝う聖燭祭(Candlemas)には、伝統的に教会にスノードロップの花が飾られている。
ウェルフォード・パークがスノードロップの群生地となった起源も、同地が修道院の所有地であったことからとされており、修道士たちの手によって植えられたスノードロップが、何世紀もの時をかけて人々を魅了するほどの群生地になったのではないかと考えられている。

Snowdrops

野生種は20種。その20種から、1000とも2000とも言われる品種改良種が開発されている。
スノードロップは、比較的育てやすいとされ、入手方法は開花の時期に出回る鉢植えをガーデンセンターなどで購入するか、球根をオンラインなどでオーダーするのが一般的。湿った半日陰の場所を好むため、腐葉土や堆肥とともに植え、土の乾燥を防ぐとよい。

学名: Galanthus
英名: Snowdrop
和名: 待雪草
原産地: ヨーロッパ各地
花言葉: 希望、慰め
植える時期: 4月下旬から5月
開花時期: 1月から3月

ゲット・セット・ベイク!

この階段に見覚えがある人も多いかも!? 「ベイク・オフ」に度々登場する階段。

ところで、スノードロップの見頃が過ぎ、一般公開が終了すると、さぞかし静寂に包まれているであろうウェルフォード・パークだが、その広大な敷地は、映画やテレビ番組のロケ地として貸し出されている。
左の写真を見て「見覚えがある!」と思った読者もおられるのではないだろか。実はウェルフォード・パークは、素人のお菓子作りチャンピオンをコンテスト方式で決める英国の国民的人気番組「ザ・グレート・ブリティッシュ・ベイク・オフ」のロケ地としても、近年注目を浴びているのだ。2014年放送のシリーズ5から昨年放送のシリーズ9がこの地で撮影されている。お菓子作りバトルの合い間に挿入されるパーク内で撮影された花や鳥などがキラキラと輝くシーンは、熱き戦いにちょっとした息抜き効果を与えている。
ちなみに同番組は日本の無料BSテレビ局、ディーライフ(Dlife、BS258ch)でも放映中だ。

白の絨毯の森へ

 さて、前置きはこれくらいにして、花盛りの時季に実際に訪れた日のことをお伝えすることにしたい。 
2018年の2月初旬、新聞を開いた時に目に飛び込んできた、森一面の雪景色のような写真に釘付けになった。よく見ると雪ではなく花。写真の下には「スノードロップの花咲くウェルフォード・パーク」との説明が書かれていた。その神秘的な写真にすっかり心を奪われて場所を調べてみると、ロンドンから日帰りできそうな距離にあるとわかり、早速訪れてみた。
ロンドン北部からM4を西へと車を走らせることおよそ1時間半。学校のハーフターム休みだったこともあり、昼前に到着したウェルフォード・パークの駐車場はすでに多くの車で賑わっていた。なんとかスペースを見つけて駐車し、パークの門を抜けると、ドライブ・ウェイの左右の緑地には早速スノードロップが咲いており、花盛りに訪れることができたことに心躍る。

まずはカフェで腹ごしらえ。
散策後にケーキと紅茶を楽しむのもあり!

まずは森歩きの前に腹ごしらえ。邸宅のランドリー・ルームを改装したカフェと、まるでブリティッシュ・ベイク・オフの撮影で使われているような大きなテントのカフェがある(写真上)。ホームメイド・スープや地元で生産されたソーセージとマッシュ・ポテトなどの温かい食事で身体を温めて、準備万端。いざ森歩きに出発!

①散策ルートでは花畑や小川などの景色も広がる

邸宅前に広がる緑地を歩き出してまず現れたのは、スノードロップとキンポウゲ科の小さな花「キバナセンブツソウ(Eranthis)」が共生する花畑。黄色の花により春らしさを感じる。

②冒険心をくすぐる橋を渡って…

白鳥やカモが羽を休める澄んだ小川(同①)を横目に、森へと向かう道を進むと、小川に架かる橋を発見(同②)。まるで童話に出てくるようなこの小さな橋を渡ると、いよいよスノードロップの森だ(同③)。

③看板の先はスノードロップの森!

葉が落ちた裸同然のブナの森にどこまでも広がるスノードロップは、まさに舞い降りた雪のよう…。奥行きいっぱいの景色を楽しんだり、しゃがみこんでその可憐な花を間近に観察したりと、とにかくその美しさに感動!
真剣な様子のアマチュア・カメラマンやセルフィーを撮る多くの観光客に混ざり、気がつけば筆者も写真撮影に熱中していた。その壮観な風景をどうにかして写し取り、劇的な一枚を創り出そうと悪戦苦闘しながらの撮影は楽しいもの。

ウェルフォード・パークに建つ邸宅。手前に咲く白い花がスノードロップで、黄色い花がキバナセンブツソウ。
© Paul Sievers LRPS

ウェルフォード・パークの散策ルートはゆっくり歩いても1時間程度なので、日頃、長時間歩かない人でも難なく回れる距離。散策が好きな人にとっては、草原の花畑、小川や橋、ちらほらと咲く季節の花や古木、スノードロップの森など、変化に富んだ景色を楽しみながら歩けば、時間は足早に過ぎ去ってしまうだろう。
読者の方々に美しさが伝われば幸いだが、百聞は一見にしかず。汚れてもいい靴と暖かい服装で、一足早く春を探しに出かけてみては?

Travel Information2019年1月11日現在
Welford ParkWelford, Newbury, Berkshire RG20 8HU
www.welfordpark.co.uk

開園期間
2019年1月30日(水)~3月3日(日)
水~日: 午前11時~最終入園時間午後4時
(月・火休園)

入場料
大人: 8ポンド
子供4歳以上: 4ポンド(4歳以下無料)

アクセス
車…ロンドン中心部よりM4で約66マイル、所要約1時間30分。無料駐車場あり(午前10時30分~午後5時30分)。
電車…Paddingtonよりナショナル・レールでNewbury下車、バス4番でWelford Park下車。所要約2時間。

Welford Parkを紹介する動画が見られます。
© BBC Berkshire

ロンドンにもある スノードロップの名所

チェルシー薬草園

1673年に薬剤師がオープンしたロンドン最古の植物園。5000種もの薬用ハーブや食用の植物が植えられている。同園のコレクションの中でも150ものバラエティを誇るスノードロップ。例年1月下旬から2月初旬にかけての見頃の時期に、関連イベントを開催している。

Chelsea Physic Garden

66 Royal Hospital Road, Chelsea, SW3 4HS
www.chelseaphysicgarden.co.uk

タワー・ハムレッツ・セメタリー・パーク

© Kenneth Greenway – The Friends of Tower Hamlets Cemetery

ヴィクトリア朝時代のロンドンの急激な人口増と墓地不足に対応するために造られた「マグニフィセント・セブン」と呼ばれる7つの墓地のうちのひとつ。市民の憩いの場として、24時間一般開放されている。タワー・ハムレッツ地区唯一の森のそこかしこにスノードロップが咲く。

Tower Hamlets Cemetery Park

Southern Grove, E3 4PX
www.fothcp.org

キューガーデン

© RBG Kew

ロンドン最大の世界遺産である植物園。園内のRock Garden付近で可憐な白い花を見つけよう。同時期にピンクのシクラメンや高山植物も見ることができる。

Royal Botanic Gardens, Kew

Kew, Richmond, TW9 3AE
www.kew.org

ハム・ハウス

ナショナル・トラストが管理する17世紀の大邸宅。隅々まで手入れが行き届いたフォーマル・ガーデンのまわりにスノードロップが咲く。散歩で体が冷えたら、元温室を改装した「オランジェリー・カフェ」でお茶やランチを楽しもう。

Ham House and Garden

Ham Street, Richmond-upon-Thames, TW10 7RS
www.nationaltrust.org.uk/ham-house-and-garden

ミドルトン・ハウス・ガーデンズ

1865年~1954年に庭師で植物研究家のエドワード・オーガスタス・ボウルズが住み、さまざまな植物を植えて庭園造りに心血を注いだ場所。現在は1年を通して一般公開されており、庭園の中の草地にスノードロップが群生する。例年1月末に「The Ultimate Snowdrop Sale」と銘打ったスノードロップの鉢の即売会(今年のセールは1月26日)が開催され、5ポンド程度の一般的な品種から1000ポンドもする珍しい品種を購入することができる。

週刊ジャーニー No.1069(2019年1月17日)掲載