そして少し離れた所に遠慮がちに佇むのが「グレアム・ホワイト・ファクトリー」だ。グレアム・ホワイトが建てた英国初の航空機製造工場の一部を再現したもので、屋根やドア、窓など、多くの部分が当時のものだという。このホールには実際にグレアム・ホワイトが作って飛ばしていた頃の複葉機の数々が展示されている。午前十時から正午までの二時間しか開いていないので、見逃したくない人は要注意だ。
 誌面の都合でほんのわずかしか写真をお見せできない上に、サイズの問題もあって、本物の迫力の一千万分の一もお伝えできていないことは残念だ。しかし、ロンドン在住の読者であれば、本物はまさに目と鼻の先。機会があればぜひ、家族連れで出かけてみて欲しい。特にバトル・オブ・ブリテン館は昨年、大規模な改装工事を終えたばかりで、過去に行かれたことがある方でも、再び楽しめるはずだ。館内にはちょっとしたレストランやカフェ等も備わっている。大戦時の食事を再現したものか?と思えるようなものも多いが、それもまた、この博物館ならではの楽しみ方であるかもしれない。
 戦闘機も爆撃機も、争いごとのために作られた兵器である。祖国を、親や兄弟、子どもや友人、そして愛する人々を守るための道具、という言葉遊びはどれも虚しく響く。どうひいき目に見ても、彼らは戦争の道具であり、殺人兵器でしかない。
 しかし、各国の技術者は、自国の勝利を信じ、時代時代の最先端の技術を彼らに注ぎ込んだ。注ぎ込み倒した。より早く、より強く、より軽く、より遠くを目指して。宇宙ステーションの建設が現実のものとなった21世紀の技術と比較すれば、もちろんどれも旧式だ。しかし彼らは美しい。どれをとっても美しいのだ。その美しさには不謹慎にもため息すら漏れてしまう。
 戦争が一日も早くこの世からなくなって欲しいと願う気持ちに偽りはない。ただ、彼らを美しい、と感じてしまう自分の気持ちをごまかすことは難しい。その心の矛盾こそが、実はここでは最も普通であり、多くの人々が共有する素直な感情なのだと思う。
 人類の負の遺産の勇ましさと美しさに触れると同時に、戦争の悲惨さを知り、そして戦争のない世界に思いを馳せる。それがこういった戦争博物館の、本当の役目なのだろう。

大日本帝国陸軍 五式戦闘機 川崎飛行機キ100

 敗戦の年となる1945年2月に満を持して登場した川崎飛行機の最新鋭機「五式戦闘機」=写真右。B-29迎撃を主目的として設計された機体で、三式戦闘機「飛燕」の改良型として、高高度でも運動性が落ちにくいとされる大馬力の液冷エンジンを搭載し、鼻のシュンした美形の戦闘機が予定されていた。ところがドイツのダイムラーベンツ社からライセンス生産の許可を得て、液冷エンジンの生産を始めるも当時の日本の技術では製造と部品の調達に無理があり、良好な結果が得られなかった。その間、戦局はいよいよ悪化。陸軍上層部は搭載エンジンを川崎飛行機の液冷から三菱重工業製の空冷式のものに替える決断を下す。極めて良質なエンジンであったが、細い胴体に太いエンジンを取り付けなければならなくなり、ギャップを埋めるのに随分と苦労があった。試行錯誤とテストを繰り返した末に無理やり完成させた「五式戦闘機」だった。ところがテスト飛行では予想以上の成績を納めたため、いよいよ量産に入った。苦肉の策から生まれた「五式戦闘機」とはいえ、パイロットたちからの評判は
日本で唯一の液冷エンジンを搭載した鼻シュンのイケメン戦闘機。五式戦闘機も本来はこれに近い容姿となるはずだったが…。
上々で、実際、B-29やその護衛にあたる米軍戦闘機相手にかなりの善戦をした。ただ、いかんせん実戦配備が遅すぎた。その名を世界に轟かせる前に終戦。 英国空軍博物館に展示されている「五式戦闘機」は、戦後、英軍によって接収され、英国に持ち帰られたものだ。本来はシュッとした精悍な鼻を持つ戦闘機になる予定だったが、空冷式エンジンを付けたことで鼻デカになってしまった。しかしこれはこれで、なかなかのイケメンである。

 

 

 

    クリックで拡大します

 

兵どもが夢のあと…

「マイルストーン・オブ・フライト館」に足を踏み入れるとまず目に入るのがこのユーロファイター「タイフーン」。これは初期の試作機だが、他は今も現役で任務に就いている。


航空ショーなどでいつも一番人気のハリアー。垂直に離発着できる。フォークランド紛争でも活躍した。


スピットファイアの宿敵、ドイツのメッサーシュミットBf109。急横転、急降下性能に優れていた。本土防衛を目的に設計されたため、航続距離が極端に短かった。


スピットファイアMK1

第二次世界大戦時の英国空軍最高の単座戦闘機。美しい楕円形の主翼が特徴。23000機あまりが製造された。
 

ユンカース Ju89

ドイツ空軍が第二次世界大戦初期から敗戦まで用いた急降下爆撃機。急降下する際に目標がよく見えるようにと、特殊なガルウィングという翼の形状を採用している。急降下する際にサイレンを鳴らし、「悪魔のサイレン」と恐れられた。ただ、頑丈に造られたため鈍重で、それほどの戦果は上げられなかったとい。


アブロ・ランカスター

英国のアブロ社が製作した四発の重爆撃機。ドイツ各都市爆撃に威力を発揮したが、損失機数も3000を超えたと言われる。


グレアム・ホワイト・ファクトリーには100年前の航空史上極めて初期の頃の複葉機も多数、展示されている。午前10時から正午までの2時間しか開いていないので要注意