村の毛織物産業を支えたバイブルック川から眺めるメイン・ストリート「ザ・ストリート」。
「コッツウォルズ(Cotswolds)」の語源は、羊小屋を意味する「cot」と、なだらかな起伏の原野を意味する「wold」。中世に羊毛取引で栄えたこの一帯には、今なお昔ながらの景観が広がっている。4回にわたり、コッツウォルズの魅力あふれる村々を紹介したい。第4弾は、カッスルクーム。

●征くシリーズ●取材・執筆・写真/本誌編集部

コッツウォルズとは、グロスターシャーを中心に北はウスターシャー、ウォリックシャー、東はオックスフォードシャー、南はサマセットにまでまたがる2038平方キロの一帯。特別自然美観地域(AONB: Area of Outstanding Natural Beauty)に指定されている。

素朴な景観を残す村

Castle Combe

カッスルクーム

人口350人程度の小さな村カッスルクーム。15世紀からほとんど変わらない素朴な街並みで人々を優しく迎える。

メイン・ストリートにあるティールーム「The Old Rectory Tearoom」。アットホームな飾りつけが村の雰囲気によくなじむ。

村の中心、マーケット・プレイス。屋根付きのモニュメントは「マーケット・クロス」と呼ばれ、村のシンボル的存在。写真手前は、かつてマーケット・ホールがあったことを示す「バター・クロス」。

「城(castle)のある深い峡谷(クームcombe)」を意味するカッスルクーム。もともとは丘に囲まれた村の地形にちなみ「クーム」と呼ばれていたが、12世紀半ばに防衛のための城が建てられたことから、この名が定着した(城は現存しない)。村の北東部に車を停め、生い茂る木々に囲まれた緩やかな下り坂を歩くと、はちみつ色のライムストーンが特徴的な家々が建ち並ぶ三叉路にたどり着く。ここが村の中心「マーケット・プレイス」だ。メイン・ストリートとなる「ザ・ストリート」が弧を描くように伸びているが、パブを除いては際立った商業施設が見当たらない。村の中心地にしては控えめで、落ち着いた印象だ。

信頼で成り立つ(run on trust)無人販売所。手作りのケーキやジャム、はちみつなどのほか、18、19世紀の街並みを捉えたモノクロ写真が販売されている。購入の際は、玄関ドアの郵便受けに代金を入れるのをお忘れなく。

現在に残る街並みが形成されたのは15世紀、羊毛産業が全盛期を迎えた頃のこと。村を流れるバイブルック川沿いに織工たちのための住居兼作業場「ウィーバーズ・コテージ」が築かれ、豊かな水の恩恵を受けて、生産が進められた。村の自慢は、赤色と白色からなる毛織物「Castle Combe Cloth」。兵士用のユニフォームとして使われ、ブリストルやサイレンセスターで開かれていた大規模な布マーケットで取引されたほか、遠くはロンドンにまで運ばれるほど需要を高めたという。確かな技術で織られる「Castle Combe Cloth」によって村の経済が潤うと、やがて週に1回、市が開かれるようになる。地元の小作人が野菜やチーズを地面に並べ、財力のある商人は屋台を設けて農作物を販売。遠方からは裕福な業者も参加して商売が行われ、商人らの威勢のよい声が村中に響いたという。
ところが干ばつによる川の水位の低下が産業に影を落とし始める。その後は、コッツウォルズのほかの村々がたどった歴史と同じように、産業革命の波に呑まれてしまう。

マーケット・クロスの脇にある古びたポンプ。ハンドル部分がなく機能していないものの、そのままの形で残されている。

「そのおかげで」と言うと当時の村人に申し訳ない気もするが、時代の流れから取り残された結果、現在、中世の面影が漂うこの村にはかつての喧騒とは対照的に素朴で落ち着いた雰囲気が漂い、国内外の観光客を魅了している。好景気に沸き商売人を惹きつけた村が、今では静寂さによって人々の心を捉えていることを思うと移り変わる時代の面白さを感じずにはいられない。ひっそりと歴史を歩むこの村へと散策に出かけてみてはいかがだろうか。

豊かな自然に包まれるカッスルクームの街並み。左奥に高くそびえるのは聖アンドリュー教会。現在、映画「War Horse(戦火の馬)」の撮影時を紹介する写真が展示されている。

バイブルック川沿いに建ち並ぶ「ウィーバーズ・コテージ(The Weavers' Cottages)」。羊毛が栄えた時代、織工の住居兼作業場として建てられた。寝具として用いられる「ブランケット」の語源となったとされるブランケット兄弟もここで暮らし、川沿いの湿気からくる寒さをしのぐため、羊毛で大きな生地を作ったと言い伝えられている。
動画へGo!

週刊ジャーニー編集部では、3分半ほどのムービーを制作しました。下の動画を、ご覧ください。

horse
スピルバーグ作品にも登場!

War Horse

▲ 「War Horse」 軍に徴用され、戦争の最前線に送られた馬と飼い主の青年の友情を描いた感動の物語。農夫の息子アルバートの深い愛情を受けて育った馬ジョーイが、軍隊に売られてしまい…。 DVD7ポンド
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数々の映画のロケ地となってきたカッスルクーム。最近では、ジェレミー・アーヴァイン、エミリー・ワトソンのほか、ベネディクト・カンバーバッチも出演する2011年公開のスピルバーグ監督作品「War Horse(戦火の馬)」の撮影で話題となった。アスファルト舗装された通りには土が敷かれ、建物の外観を煤けさせるなどして第一次世界大戦前が再現されているが、登場人物の衣装を除けば今と変わらない雰囲気。たとえば下のシーンは、記事一番上の写真と同じ場所で撮影されたもの。予告編でも確認できるので、要チェック!


映画の予告編はこちらから

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ミシュラン・レストランを有する!

The Manor House Hotel

村をなんとなく散策しているだけでは気づきにくい、隠れ家的な場所がこのホテル「The Manor House Hotel」。ゴルフ場を有するこの5つ星ホテルは、14世紀に村の領主の屋敷として建てられた後、1947年に最後の領主が屋敷と敷地を手放したことにより、ホテルとしての道を歩み始めた。
目印となるのは、バイブルック川に架かる橋の近くに佇む看板。その先の正門を進むと総面積365エーカー(東京ドームのおよそ32個分!)を誇る敷地の一部が目の前に現れ、素朴な村とは一味違った、豪奢な雰囲気に圧倒される。
客室は、蔦が這う趣深い本館と、別館となるコテージに分かれ、全48室それぞれ異なるスタイルで彩られている。館内にはミシュラン1つ星に輝くレストラン「The Bybrook」があるので、宿泊しなくとも、食事やアフタヌーン・ティーを堪能して庭園を散策してみれば、思い出に残るカッスルクーム滞在となるはずだ。

ゆったりとした時間の流れを感じさせる堂々とした本館。写真右に見える階段をのぼると、イタリア式庭園へとつながる。

Travel Information

※2018年9月3日現在

■ロンドンから車

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M4を西へ進み、ジャンクション17でChippenham/Cirencester 方面の A350/A429に出て、A350を進みB4039に入る。所要約2時間。

■ ロンドンから公共交通

London Paddington駅から電車Chippenham駅まで行き(所要1時間40分程度)、バス35に乗りかえておよそ20分で到着する。

週刊ジャーニー No.1051(2018年9月6日)掲載