チッピング・カムデンには、かつて羊毛業で成功した裕福な商人たちが暮らしていた邸宅が今も残る。

「コッツウォルズ(Cotswolds)」の語源は、羊小屋を意味する「cot」と、なだらかな起伏の原野を意味する「wold」。中世に羊毛取引で栄えたこの一帯には、今なお昔ながらの景観が広がっている。4回にわたり、コッツウォルズの魅力あふれる村々を紹介したい。第2弾は、チッピング・カムデン/ブロードウェイ。

●征くシリーズ●取材・執筆・写真/本誌編集部

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コッツウォルズとは、グロスターシャーを中心に北はウスターシャー、ウォリックシャー、東はオックスフォードシャー、南はサマセットにまでまたがる2038平方キロの一帯。特別自然美観地域(AONB: Area of Outstanding Natural Beauty)に指定されている。

王冠に飾られた宝石 Chipping Campden

ロンドンから車で約2時間。茅葺き屋根の家々が建ち並び、はちみつ色の家並みがもっとも美しいと言われる町。

コッツウォルズ地方の伝統的な茅葺き屋根の家。
色鮮やかな花々が玄関前を彩る。生垣もきれいに整えられており、各家の気遣いが町並みをさらに美しく見せている。

コッツウォルズ地方にある町の中で「王冠に飾られた宝石(the Jewel in the Crown)」と呼ばれる、チッピング・カムデン。「もっとも素晴らしい、価値のあるもの」「見逃せない目玉」といった意味の英語独特の表現で讃えられたこの町は、13~14世紀に羊毛取引で栄えたマーケット・タウンのひとつ。「チッピング(Chipping)」とは古英語で「マーケット」を表し、コッツウォルズにはチッピング・ノートン、チッピング・サドベリーなど、同名を冠する町がいくつかある。チッピング・カムデンはその中でも、もっとも重要な羊毛取引市場として発展し、中世時代はヨーロッパ中にその名を馳せていたという。

この町の特徴は、繁栄していた当時の面影が色濃く残されているところ。町はずれには、羊毛で財を成した裕福な商人たちが暮らしていた「茅葺き屋根、はちみつ色の石壁」の家々が、今も変わらずに建ち並ぶ。ラベンダーやバラなどの花々が咲き乱れる玄関先、手入れの行き届いた庭を眺めていると、まるで絵本や童話の中に紛れ込んだかのように錯覚してしまう。ぜひ、町の中心部までのんびりと散策を楽しんでいただきたい。

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ハイストリートには、10分程でたどり着く。個性豊かな雑貨、可愛らしい食器などを扱うショップが軒を連ね、ウィンドウ・ショッピングをするだけでも瞬く間に時間が過ぎるに違いない。

そして、この大通りの中央付近に建つのが、1627年に建造された町のシンボル「マーケットホール」。チーズやバターといった乳製品を販売する屋根つきのマーケットとして、地元住人たちで賑わった場所だ。ホールの中に足を踏み入れると、屋根を支える太い木柱と縦横無尽に張り巡らされた梁に圧倒される。足元は400年前の敷石で覆われ、アーチ型の石の列柱を通して見るはちみつ色の家並みは、中世にタイムスリップしたように感じられるだろう。当時の喧騒も聞こえてきそうだ。

また、ハイストリート沿いにはチッピング・カムデンで一番古い住宅「グレヴェル・ハウス(Grevel House)」も残っている(非公開)。羊毛業で大成功を収めた豪商ウィリアム・グレヴェルが1380年に建てた家で、完成当初、初めて実際の煙突を備えた家として町で評判になった。

この住宅を通り過ぎて右手の小道を進んでいくと、セント・ジェームズ教会の優美な鐘楼が見えてくる。この教会は、チッピング・カムデンに住む羊毛業者たちの献金によって建築されたもの。素朴な教会であるが、現在も「町の守り神」として信仰を集めている。ちなみに、教会の手前にある12軒の家が連なるタウンハウスは、かつて町の領主や豪商たちの護衛兵用住居だったという。

羊毛の生産や取引で栄えたコッツウォルズ。職人ではなく羊毛産業で富を蓄えた商人によってつくられたチッピング・カムデンは、600年以上経った今も「王冠に飾られた宝石」の輝きを放ち続けている。

WestingtonとSheep Streetの交差点にある家。玄関前に据えられた2体の犬の彫刻が目を引く。
【写真上】ハイストリートの中央付近に建つ、1627年に完成したマーケットホール(手前)。貴重な歴史的建造物を後世に残すため、ナショナル・トラストが維持・管理している。【写真下右】ハイストリート沿いには様々な雑貨店などが並び、ショッピングも楽しめる/多くの富豪が暮らしていたことから、専任の護衛も雇われていた。【写真左下】その護衛兵用の住居として使われた12軒の家が連なるタウンハウス(左端)。奥に見えるのが、セント・ジェームズ教会の鐘楼。
動画へGo!ジャーニー編集部制作のショートフィルムをご覧ください。

名門旅籠が残る宿場町 Broadway

北コッツウォルズの交通の要所として栄え、多くの馬車宿(コーチ・イン)で賑わった町。

馬車が行き交いやすいようにつくられた、幅広い大通りが特徴。
ザ・リゴン・アームズの豪華なダイニング・ルーム。

チッピング・カムデンから、車で約10分。
名前の通り、「広い道(Broadway)」がまっすぐに町の中心を貫く、ブロードウェイにたどり着く。この町は羊毛を馬車で輸送する際、北コッツウォルズ地方における交通の要所、そして宿場町として中世時代に栄えた。かつては大通り沿いに多くの馬車宿(コーチ・イン)が軒を連ね、しのぎを削って賑わっていたが、今はショップやギャラリー、カフェが並ぶハイストリートになっている。
この町を訪れたら、ぜひ足を運んでいただきたいのが、サヴォイ・グループが経営する名門ホテル「ザ・リゴン・アームズ(The Lygon Arms)」。14世紀から続く伝統と格式を誇る高級ホテルで、イングランド王への復位を目指すチャールズ2世軍を撃破したウスターの戦い(1651年)の前夜、指揮官だったオリバー・クロムウェルが宿泊したという、歴史好きには見逃せない場所である。気品漂うダイニング・ルームで、食事やアフタヌーンティーだけを楽しむことも可能だ。

イーヴシャム渓谷を一望できる! Broadway Tower

ブロードウェイを見下ろす小高い丘の上にたたずむ、高さ約20メートルのブロードウェイ・タワー。18世紀後半、有事の際に狼煙をあげて町へ合図を送る伝達塔(Beacon)として建造された。塔の中には3フロアあり、町や塔の歴史のほか、ウィリアム・モリス関連資料などを展示中。最上階からはイーヴシャム渓谷が一望でき、天気のよい日にはウェールズの山々も見えるという。

【写真左】塔の上部にはユニークな顔の彫刻が【同右】入場チケットは塔の入口のほか、カフェ・レストランでも購入可能。
住所
Middle Hill, Broadway WR12 7LB
開園時間
4~10月のみ公開(10:00~17:00)
入場料金
£5
https://broadwaytower.co.uk
Travel Information ※2018年8月20日現在
■ロンドンから車
map

M40でオックスフォード方面に向かい、ジャンクション8でA40の出口を出る。その後、A44へと進む。

Chipping Campden
Chipping Norton、Moreton-in-Marshを通過し、さらにA44をそのまま北上。右折してB4081に入る。ロンドンから約2時間。

Broadway
Chipping Norton、Moreton-in-Marshを通過し、さらにA44をそのまま北上。ロンドンから約2時間。※Burford、Stow-on-the-Wold経由でも行ける(第一弾参照)。

■ ロンドンから公共交通

Chipping Campden
London Paddington駅から電車に乗り、Moreton-in-Marsh駅で下車(所要1時間半ほど)。バス1番で約45分、2番で約35分(ともにStratford-upon-Avon行き)。バス1番はBroadway経由。

Broadway
London Paddington駅から電車に乗り、Moreton-in-Marsh駅で下車(所要1時間半ほど)。バス1番(Stratford-upon-Avon行き)で約30分。Broadway Towerへはバス1番のFish Hill Picnic Areaで下車、徒歩20分ほど。

週刊ジャーニーNo.1049(2018年8月23日)掲載

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