2010年3月18日 No.617

 

取材・執筆・写真/本誌編集部

野山の恵みに触れる新しいカントリーホテル
ライム・ウッドを征く


 

ぜいたくなジビエ料理

 フランス語で「ジビエgibier」といえば、狩猟により食用とされる野生の鳥獣のこと。英語では「game」の名でレストランのメ ニューに登場することも少なくない。「ゲーム」といってもコンピューター・ゲームやスポーツ試合のことではなく食材を指すのか、と、 英国に住んでからその新たな意味を知った人も多いのではないだろうか。
 日本でももちろん猪鍋や雉鍋、鹿鍋など野生肉は親しまれているが、どちらかというと郷土料理など素朴で飾り気のない料 理で見かけることが多く、洗練されたイメージにはほど遠い傾向があったように思う。しかし、フランス料理では「ジビエ」は高級レシピ。毎年九月半ばから翌年の1、2月にかけて狩猟解禁となるフランスでは、この時期にしか獲れない貴重な鳥獣であるジビエはむしろ贅沢な食材なのだ。特に秋から冬にかけてのジビエは、越冬に備えて栄養を蓄えており、かつ家畜肉に比べて脂肪分が少なくヘルシーで、格別に美味しいとされている。そんなフランスの基準にのっとって、最近では日本でも「ジビエ料理」の呼び名が定着し、東京のフランス料理店などで人気を集めているという。
 美味しいジビエを仕留めるには、狩猟時にもテクニックが必要だ。というのも、一発で命中させないと、逃げ回った末に肉に血がまわってしまい、黒々とした肉になってしまうからだ。これは肉の傷みを早める原因にもなり、ジビエとしては上質といえない。同様に内臓に銃弾が当たって破裂してしまうと肉に臭みが出てしまうため、ハンターは高い技術を問われることになる。
 歴史に残る大食漢として知られる英国王リチャード二世(1367~1400年)が、二百人ものお雇い料理人と哲学者たちにまとめさせた英国最古のレシピ本「Form of Cury(料理集)」にも鹿や野兎、雉、山鳩などのジビエ料理法が数多く記載されている。王侯貴族たちは狩猟場として広大な土地を保有し、狩猟を楽しんだ後、獲物に舌鼓を打つ。狩猟が貴族のスポーツならば、ジビエも高級料理というわけだ。
 英国では、雄大な自然が商業化されることなく、ありのままに保護されていることに驚くことが多いが、これら国立公園National Parkという名で保護された土地のほとんどがかつては王族の狩猟地であった。自然豊かな英国の景観は狩猟文化の賜物ともいえるのだ。
 ロンドンから南西へ車で一時間半強の場所に位置する国立公園のニュー・フォレストも、1079年にウィリアム征服王がプライベートの狩猟地として保有して以来、特別に保護されてきた場所だ。ウィリアム征服王は狩猟の醍醐味を最大限に味わうため、自然や動物を保護するためのさまざまな規則を定め、王と従者以外の者の狩猟を固く禁じたという。


45秒で開閉可能なガラス天井のついた中庭。
このホテルのランドマーク的なエリアで明るく開放感に満ちている。