静寂の歴史をともに佇む元領主館 ザ・マナー・ハウス・ホテルを征く

●征くシリーズ●取材・執筆・写真/本誌編集部

元領主の屋敷を改装したゴルフ場付き高級ホテル、その名も「ザ・マナー・ハウス・ホテル・アンド・ゴルフ・クラブ」。ホテル内のレストランは2009年、ミシュランで星を獲得し、ゴルフ・コースも様々な賞を受賞するなど、美食家、ゴルフ愛好家らも注目するエンターテインメント性を兼ね備えたラグジュアリー・ホテルだ。今回はコッツウォルズらしいカントリーサイドの静寂の中、気品をたたえてたたずむ同ホテルを征くことにしたい。
今回取材班が訪れた「ザ・マナー・ハウス・ホテル・アンド・ゴルフ・クラブThe Manor House Hotel and Golf Club」は、イングランド南西部、コッツウォルズ南部の村「カッスル・クーム Castle Combe」にある。ローマ人の温泉保養地として栄えた都市、バースからは東へ10マイル、ロンドン市内からは車で2時間ほどの距離だ。ここは人口350人程、2、3世紀前と変わらぬ素朴な景観を残す静かな村。この村はずれにあるホテルの正門を潜り抜けると、広々としたホテルの敷地が目の前に現れ、こぢんまりとした村内とはまた違った、豪奢な雰囲気を感じることができる。元は領主館であったこのホテルについてお届けする前に、まずはカッスル・クームの歴史を追ってみたい。

「英国で最も美しい村」

「英国で最も美しい村」― 「カッスル・クーム」は、必ずといって良いほどこの表現とともに各メディアで紹介され、交通の便が決して良いとはいえない場所にも関わらず、ひきもきらず観光客が訪れている。そのきっかけは1962年、とある米国の旅行会社主催のコンテストで、同名の名誉ある賞を獲得したことにあった。以来、これまでに同様の賞を幾度となく受賞し、カッスル・クーム、イコール「英国で最も美しい村」として、着実に名声を高めてきた。
村のメイン・ストリートである「ザ・ストリート」は、古びた屋根付きの井戸「マーケット・クロス」から始まる。コッツウォルズ特有のはちみつ色の石、ライムストーンで造られた家々が、この通りに沿って緩やかに弧を描く様子が印象的で、昔ながらの姿を残している。その2、300メートル程の一本道は、商業施設と呼べる建物が2軒のパブ付きホテルと郵便局兼雑貨店のみで、家並みが終わる辺りに小さなバイブルック川がさらさらと流れる、慎ましやかな通りだ。数百年前からほとんど変わらずに保たれてきたという街並みには、しっとりとした落ち着きが漂い、その雰囲気も人気の秘密といえそうだ。
村名のカッスルは「城」、クームはケルト語で「深い峡谷」を意味し、カッスル・クームは「城のある深い峡谷」ということになる。その名が示すとおり、村全体が丘に囲まれており、中心に向かってなだらかに下り坂が続く。元々は、その地形から「クーム」とだけ呼ばれていた場所に、12世紀、村の領主となった貴族が、警固のための城を築いたところから「カッスル・クーム」と呼ばれるようになったという。ちなみにその城は、14世紀半ばに破壊され、その石壁も当時の一般住宅に用いられるなどしたため、現在はその面影すらどこにも求めることはできない。

毛織物産業での衰退で訪れた静寂

コッツウォルズといえば、羊を思い浮かべる人も多いだろう。なだらかな丘稜に羊が放牧されている様子は、英国カントリーサイドの代名詞ともいえ、限りなくのどかだ。カッスル・クームはその羊毛を使った毛織物の代表的な生産地だったということも忘れてはならないだろう。
毛織物産業は、リチャード2世(在位1377―99)の時代に村の領主となったスクループ男爵により奨励され定着した。この村の見どころの一つである「ウィーバーズ・コテージ Weavers Cottages」は、15世紀にバイブルック川沿いに築かれ、織工用の住居兼作業場となった。豊かな水流を使って作業は進められ、村は多くの職人や商人たちで活気づいていたという。この村特有とされたのは、その村名から「カッスル・クーム布 Castle Combe Cloth」と呼ばれた赤色と白色からなる毛織物だった。それらの毛布や羊が取引されたのが、メイン・ストリートの「マーケット・クロス」で、週1回、市が開かれていたという。
しかしながら、15世紀に最盛期を迎えた毛織物は、干ばつによる川の水位の低下、近隣地域との競争などから、徐々に影を潜めていく。さらには18世紀に始まった産業革命が追い討ちとなり、毛織物産業は完全に姿を消してしまう。このことはカッスル・クームにとって「災い」に他ならないが、それにより村が200年あまりの静寂の時を経たからこそ、今の「英国一美しい村」があるともいえるだろう。

美しい村の美しい元領主館

マナー・ハウスが築かれたのは14世紀半ば。平和な世の中が続き、警固の目的で築かれた「城」は不要となり破壊され、領主は快適性を重視した屋敷を求めたのだった。最初の建物は1664年の火災により大部分が焼失してしまったため、大規模な修復が同年に施されることとなった。こうして屋敷は、当時流行の建築様式であった、柱や壁にオーク材を多用した「ジャコビアン様式」を取り入れた大邸宅へと生まれ変わった。それ以降も大小の修復がなされたとはいえ、ホテル内のラウンジや通路には、17世紀の趣きをとどめる重厚な内装が見られる。

同ホテルは、高級ホテルチェーン「Exclusive Hotels」グループの一員。同チェーンは、英国内に他3つのホテルを有する。伝統的な元邸宅にスパやテニス・コート、ゴルフ・コースなどの現代設備を併設し、宿泊客を極上の異空間へと誘う。
1947年、カッスル・クーム最後の領主となったゴースト男爵が、屋敷及びその敷地を手放したことにより、ザ・マナー・ハウス・ホテルは誕生した。
ホテルは18ホールのゴルフ場も有し、総敷地面積365エーカー(東京ドームおよそ32個分)を誇る。敷地内の散歩道を一周りするだけで1時間以上もかかる広さだ。目の前には、19世紀、スクループ男爵により整備されたというイタリア式庭園が広がり、庭師やスタッフが黙々と庭仕事に精を出していた。
客室は、ライムストーンの壁いっぱいに蔦が這うクラシカルな雰囲気の本館と、歴史的建造物として登録(グレード2)されているかわいらしい別館コテージに用意されている。カントリーサイドにいることを実感させてくれる、ぬくもり溢れる内装は各部屋ごとに異なり、すべて見て回りたくなってしまうほどそれぞれに工夫が凝らされていた。また、ホテル内のミシュラン1つ星レストランでは、ロンドン市内でも一流店として十分に通用する、洗練された味わいの料理が堪能できる。
空気が澄み渡り、日増しに季節の移ろいを感じる今日この頃。秋の紅葉、温かなサービス、美味しい料理を求めて、同ホテルを訪れてはいかがだろう。

1. やわらかな明かりに浮かび上がるのは、ホテルの紋章。
2. 1664年の火災後の再建築により完成したジャコビアン様式のラウンジ。
3. アフタヌーン・ティーが楽しめるラウンジは、自然光がたっぷりと入り、心地よい。
4. ホテル前に広がるイタリア式庭園。
5. エレガントな石段を上れば広い庭園が見渡せる。
6. オーク材が組み合わされた石壁と、同系色でまとめられた家具が温かみを感じさせる通路。

シェフの織り成すファンタジーを味わう至福のひと時

ヘッドシェフ
Richard Davies氏
ホテル内の「バイブルック・レストラン」は、2009年に入りミシュラン1つ星を獲得。ここでは今、世界中に広まりつつある食の概念「地産地消(地域で生産された食材を地域で消費する)」を積極的に取り入れた、シェフによるモダン・ヨーロピアン料理が堪能できる。テーブルに運ばれる繊細でファッショナブルな料理に舌鼓を打ちながら、カッスル・クームが経た200年余りの静寂の歴史に思いを馳せる…。バイブルック・レストランは、そんな豊かなひと時を我々に味あわせてくれる魅惑的な場所となっている。

Bybrook Restaurant

ブレックファスト 7:00-10:00am(月~金)、7:00-10:30am(土・日)
ランチ  12:30-2:00pm(土休業)
ディナー  7:00-9:30pm (日~木)、7:00-10:30pm(金・土)
ウィルトシャー・クリーム・ティー  3:00-6:00pm(毎日)
*アラカルト 3コース £58~、セットランチ 2コース £21(月~金)、セットランチ 3コース £25(月~金)、£27.50(日)、テイスティング 5コース £65
*服装はスマート・カジュアルを心がけるのが望ましい。
*ゴルフ場内にはコース利用者のためのカジュアルなレストラン、ウッドバリー・レストランWoodbury Restaurantもある。

テイスティング・コース

(上)プレスターターのセロリアックのムース。(右)いちごと生クリームのプレデザート。どちらも次のコースへの期待を高めるハイレベルな仕上がり。

① Seared hand dived scallops
ホタテのたたき、チョリソー添え

ほんのり甘いバターナットスクォッシュのピューレをホタテにからめて食す。チョリソーの塩気がお皿全体をキュっとひきしめていた。

② Torchon of duck liver
鴨レバーの‘トルション’、ナシのチャツネ添え

「トルション(円筒状)」に仕上げられたテリーヌは一見、お菓子に見えるほど愛らしい。滑らかで濃厚な鴨レバーと甘酸っぱいナシのチャツネを、バターがたっぷりときいたブリオッシュ・スライスにのせていただく、リッチなスターター。

③ Pan fried fillet of John Dory
マトウダイのソテー

クラッシュしたエンドウ豆をベッドにした高級魚、マトウダイは、パリッと焼かれた表面にナイフを入れると、白身がふんわりとほぐれていく絶妙な焼き加減が嬉しい。付け合わせのロブスターやエンドウ豆との食感のバランスも見事に計算され尽くした1皿。

④ Slow cooked fillet of beef
牛肉のフィレ、きのこのラヴィオリ添え

見事なピンク色のフィレは、玉ねぎの甘みが効いたソースと、赤ワインソースとで食し、牛の旨みが上手に引き出されていた。付け合わせのラヴィオリには、きのこが惜しみなく包まれており、さりげなく秋の到来を感じさせてくれる。

⑤ Warm Valrhona chocolate fondant
チョコレート・フォンダン

熱々とろ~りのチョコレートは苦味の効いた大人テイスト。冷たいバニラアイスとの組み合わせは定番なれど素材の良さがストレートに味わえる。

静けさと心地よさに満たされるカントリーサイドの休息

ザ・マナー・ハウス・ホテルには本館と、使用人の住居だった別館コテージ=写真上=とがあり、それぞれ21部屋、27部屋の計48部屋を有する。
Suites 1泊£400~
Junior Suite 1泊£340~
Guest Rooms 1泊£235~
*各部屋に関する詳細は要問合わせ

Ludlow Cottage
 ―Exclusive Suite

「Ludlow Cottage」と名づけられた家族用のスイートルーム。スイートルームの中でも、最も贅沢なのがこの部屋だ。キッチン、暖炉付きのラウンジ=写真左下=と専用テラスまですべてが揃った独立型コテージとなっている。

Lords Meer
 ― Honey Moon Suite

窓からはホテルの広い敷地が見渡せる本館内のスイートルーム。ロマンティックで落ち着いた内装が特徴。(写真左)居心地の良さを追求したラウンジはロフト(屋根裏)にある。

Woodfoot
 ―Junior Suite

コテージ内の1室。ベッドルームは暖色系でまとめられ、ゆったりとくつろげる空間となっている。(写真左)ダブルルームほどの大きさがありそうなバスルーム。ユニークなデザインのバスタブなど、エレガントさと高級感を同時に漂わせる内装だ。

懐かしくて心地いい…

カッスル・クームをそぞろ征く

毛織物産業が衰退し、図らずも村に訪れた静寂の日々。カッスル・クームは当時から200年以上経た今も変わらぬ景観を残し、村全体が映画に登場することもしばしば。1967年公開の「ドリトル先生不思議な旅 (原題:Doctor Dolittle)」から始まり、2007年にはハリウッド映画「スターダスト (原題:Stardust)」(2007)にも登場している。あるがままの景色を楽しみ、ゆるやかな時間の流れに身をゆだねれば、身も心もほぐれていくのが感じられるだろう。

Travel Information

※2009年9月10日現在

ザ・マナー・ハウス・ホテル・アンド・ゴルフ・クラブ

The Manor House Hotel and Golf Club
Castle Combe, Nr Bath, Wiltshire, SN14 7HR
TEL: 01249 782206
E-MAIL: このメールアドレスはスパムボットから保護されています。閲覧するにはJavaScriptを有効にする必要があります。
www.manorhouse.co.uk

アクセス

ロンドンから車で
M4をジャンクション18で降り、カッスル・クームへの標識を追って進む。B4039の脇にある村の駐車場を利用すると村の中心までは10分程歩くことになる。村内の道路脇の駐車スペースが空いていることもあるので、まずは車を進め確認してみるといいだろう。
ロンドンから電車で
パディントン駅から乗車。約1時間15分後 Chippenham駅で下車、タクシーで10分。またはBath駅で下車、タクシーで20分。

ゴルフコース

18ホール / 6286ヤード / パー72
敷地内の丘の上に位置しており、見晴らしも良いゴルフコース。HSBC Gold Star Award 08他、数多くの賞を受賞しているゴルフコースでもある。
TEL: 01249 784844

週刊ジャーニー No.592(2009年9月17日)掲載