ダイニング奥は全面ガラス窓になっており、サウスダウンズ国立公園ののびのびとした野原を眺めることができる。この日はかなり冷え込んでいたものの、陽射しが燦燦と降り注いでいたダイニングはうっすらと汗ばむほどの暖かさだった。
 まず目に入るのは、木枠と白い漆喰による典型的なチューダー様式の壁。増改築を経てきたこの建物の最も古い部分で、来客は、天井が低く幅も狭い入り口から、まるで個人宅に招かれるように入館することになる。
 ホールと呼ぶにはこざっぱりと簡素な作りだが、暖炉の火が温かく出迎えてくれる。奥のダイニングでテーブルが用意される間、入り口横のバーで食前酒を勧められたが、車での取材のため、ここは炭酸水でしのぐ。バーは10人も入れば満席になってしまうほどこぢんまりとしていて、ニスの剥がれかかった椅子やセピア色に褪せた写真の入った額縁などが置かれ、アンティークの温もりいっぱいの空間。ちょうどそこにハンチング帽にチェックのシャツ、カシミアセーターにスカートという上品な出で立ちの老夫婦が現れ、英国のカントリーハウスならではの絵に描いたような光景が広がった。
 ランチコースは、それぞれ三種類から選択可能で2コース15.95ポンド、3コース二22.2ポンドと良心的。その他、3コース51ポンドのアラカルトメニュー、70ポンドのテイスティングメニューがある。我々は、シェフの腕とこだわりを存分に味わうことのできるよう、テイスティングメニューを迷わず選んだ。
 導かれたダイニングは、チューダー様式の古色蒼然とした空間から一転、モダンで広々としている。すっきりと清潔感あふれる内装だ。この日は朝からとくに冷え込んでいたものの、昼時には母娘と思われる2人組、有閑マダム3人組、老夫婦2組、5人のビジネスランチとおぼしきグループなどで、五割方の席が埋まっていた。他国からの旅行客、宿泊客というよりは、もっとゆったり寛いだ面持ちで、地元住民かイングランド内でこのレストランの評判を聞きつけ、ランチを楽しみに来た英人たちという印象だ。
 ダイニングの南面の壁は全面ガラス張りになっており、低い位置から燦燦と日が差し込んでいる。外の凍るような気温に反して、頬が上気するほどの暖かさだ。窓外に広がるのはサウスダウンズ国立公園。まるでこの国立公園までもマナーハウスの敷地であるかのように、地平線が遠くまで広がっている。食後に散策するもよし、ただ眺めているだけでもなんとも清々しい気分にさせてくれる。
 取材班が食したテイスティングメニューの詳細については次の見開き頁をご参照いただきたいが、期待を大きく上回る内容と稀にみる完成度の高さを心ゆくまで味わった。これなら文句なしに日本人コミュニティに紹介できる。ここで食事を楽しむ駐在員夫人のグループや家族たちの光景を容易に思い描くことができた。
 一つ星レストランとして注目を集めることも多いはずなのだが、ヘッドシェフのスティーヴン・クレーンの名はほとんど表舞台に出てくることはない。その情報量の少なさは、彼があえて人目を避けているかのようにも受け取れる。それでいて、地道にトップクオリティを提供し続け、あくまで地場にこだわる姿勢には、知名度や評判に踊らされない手堅さがある。この手堅さが英国の美食の水準を高めるに違いないと感じさせられた。
 日本で「ご当地」という言葉が流行、定着しているが、そんなウェスト・サセックスに根ざした「ご当地」グルメを堪能してみてはいかがだろう。

テイスティングコースを終えて
最初の1皿の塩辛さに不安がよぎったものの、その後は味、プレゼンテーションともにハイレベル。コース全体のハーモニーもよく計算されており、ミシュラン星保持に十分納得がいく内容だった。その旨みを引き出す技、洗練度にはミシュラン2つ星といわれても容易にうなづけるものがあった。ぜひ、もう一度足を運びたいと思わせる店。

 

6.Cheese Trolley
Homemade Picalilli,
Quince Jelly

チーズトロリー

ハード、ソフトとさまざまなチーズ約10種がトロリーで運ばれ、お好みでスライスしてもらう。6コース完食の後では満腹すぎて断念しそうになるが、それでもロックフォール、ブルーチーズなどにトライ。風味豊かで満腹ながらも堪能できた。ホワイトグレープ、クラッカーとともにいただく。その他、レストラン特製のピカリリー、カリンゼリーも添えられる。

 

7.Caramelised Lemon Tart
Blackcurrant Sauce
レモンタルト
ブラックカラントソース添え

しっとり滑らかな質感といい、控えめな甘さといい、7コースを締めるのにふさわしい上品なデザート。ブラックカラントのすっきりした酸味もさらに味を引き締めており、満腹にもかかわらず、なんなく完食できた。

 

8.Coffee, Petits Fours
プチフール

7品すべてを堪能した後は、ダイニングルームからドレッシングルームに場所を移して、コーヒーとプチフールをいただく。テイスティングコースの、予想を大きく上回る美味しさに大満足しながら一服。

 

ヘッドシェフ
スティーヴン・クレーン
Stephen Crane

ロンドンやウェスト・サセックスを中心に、ホテルやレストランにてシェフとしてのキャリアを20年以上有する。オッケンデン・マナーのヘッドシェフとなったのは2001年。02年にAAロゼット3つ星、03年にミシュラン1つ星を獲得し、10年もの間、その評価をゆるがすことなく腕をふるい続けている。