合計で22の客室があり、全室にかつてここに住んでいたファミリーメンバーの名前がつけられている。内装は全て異り、オリジナル家具にこだわったトラディショナルな客室と、機能性を重視したモダンな客室に大きく分かれている。写真はモダンな客室のひとつだが、シンプルすぎず英国のカントリーハウスらしさもとどめている。
 目的地は、イングランド南部ウェスト・サセックス、ガトウィック空港から南に15キロほど、さらに15キロ南下すればブライトンという村、カックフィールドにあるマナーハウス「オッケンデン・マナー」。ロンドンからは車でおよそ1時間半という、中心街の喧騒を離れて寛ぐ小旅行には理想的な立地だ。
 この周辺の土地とオッケンデン・マナーの簡単な歴史について触れておこう。
 産業革命以前の16世紀から17世紀にかけて、東も西もサセックスは製鉄業で栄えた。当時、製鉄業は鋳鉄の大砲を生み出す重要な軍事産業であり、サセックスは18世紀半ばまで、英国の大砲の大半を生産する中心地だったのである。この近辺の粘土層から採取される鉄鉱石を原料とし、燃料には森から伐採された木材で作った木炭が用いられ、溶鉱炉を備える工場が次々と作られたという。この製鉄業の発展が産業革命の推進役のひとつになったことは言うまでもない。
 オッケンデン・マナーも、製鉄業で財をなしたバレル家という一族により、購入された建物だ。バレル家は当時、チャールズ一世に仕え、砲弾や手榴弾を鋳造していた。同マナーハウスは、当初はごく普通の小さな家屋だったものが、17世紀半ばに、ほぼ現在の規模に増築されたという。
 18世紀半ばには、バレル家の令嬢がマールバラ公爵に嫁いだことからオッケンデン・マナーは公爵邸となったこともある。この頃のカックフィールドは、ロンドンとブライトンとをつなぐ交通路の重要な「関所」として、現在の長閑さからは想像がつかないほどの活気をみせていたという。
 やがて、バレル家の手を離れ、二つの大戦中は男子校や兵士寄宿舎などとして使用されたマナーハウスは、戦後にゲストハウスとして使われるようになり、今に至る。
 他の豪奢なマナーハウスと比べると慎ましやかで、建物自体には圧倒されるような驚きがない分、レストランの実力に期待が高まる。
 実はウェスト・サセックスには、ミシュランの星を獲得しているレストランが二店しかない。その貴重な一店がオッケンデン・マナーのレストランであり、03年以来、一つ星を堅固に保持している。ヘッドシェフの名はスティーヴン・クレーンStephen Crane。地元の隣村出身で、地場の食材を使った「革新的」な英国料理が自慢という。同店のキッチンに立つのは10年以上というから、地に足のついたそのスタンスにも好感が持てる。
 カックフィールドに到着。短いハイストリートを抜けると、実に控えめな「オッケンデン・マナー」の標識が見えた。が、入り口を見過ごしてしまい、Uターンをする羽目になった。今度は慎重に徐行し、サインに従って路地をそろそろと行って、マナーハウスの駐車場にたどり着いた。

 

3.Longhorn Beef
Bresaola, Brisket, Tongue,
Bone Marrow, Creme Fraiche

長角牛4種盛り合わせ
クレームフレーシュ添え

ブレサオラ(生ハム)、ブリスケット(肩ばら肉)、牛タン、骨髄と、いろいろなパーツを楽しめるビーフづくしの1品。クレソン、ベビーリーク、ラディッシュ、フライドオニオン、ビートルートなども散らしてあり、食感、味ともにバラエティに富んでいると同時に目も楽しませてくれるが、どこから箸をつけていいのか戸惑ってしまい、どうも落ち着きを欠いてしまう1皿。しかし、それぞれ肉の旨みが引き出され、クレームフレーシュ(クリームを発酵させ酸味を少しきかせたサワークリームと生クリームの中間のようなクリーム)との相性もよく美味。

 

4.Sorbet
Apple and Calvados
りんごとカルヴァドスのソルべ

テイスティングメニューの中間に「口直し」として挿入されたソルべ(シャーベット)。りんごを原料とする蒸留酒、カルヴァドスは香り豊かで、酸味が爽やかな青りんごとは最高の組み合わせ。カルヴァドスのアルコール度はウィスキーなどと同様40度ほどだが、ソルベが次第に溶けてゆくことで、まろやかさが口の中に広がっていく。

 

5.Balcombe Partridge
Galette, Brussels Sprouts,
Butternut Squash

パートリッジ(ヤマウズラ)

パートリッジの胸肉はしっとりとジューシー。そば粉のパンケーキで野菜や肉を包んだガレットも良い引き立て役になっていた。バターナットスクオッシュのほんのりした甘みとスプラウトの控えめな苦味が実によく合っていた。オーソドックスで驚きはないものの、やはりシェフの力量を感じさせる完成度の高い1品。