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長引く幽閉、進む陰謀

メアリーより9歳上だった、イングランド女王のエリザベス1世。

ヘンリー8世の「庶子」であるエリザベス1世にとって、イングランド王女を祖母に持ち、正統な王位継承権を持つ「嫡子」のメアリーは危険きわまりない存在だった。ようやく「プロテスタント国家」として落ち着いてきた矢先のカトリック教徒メアリーのイングランドへの亡命は、宗教問題はもちろん、スコットランド問題、王位継承権問題など、トラブルの種となるのは目に見えていた。かといって、従妹にあたる王族のメアリーをスコットランドへ送り返し、みすみす処刑されるのを見逃すわけにもいかない。苦肉の策として表向きは囚人のように扱いながらも、実質は「高貴な客人」として丁重にもてなすことに決めた。
ただし、居場所を特定されてカトリック派に担ぎ出されないよう、また城主と親しくなりすぎないよう、イングランド各地の城を転々とさせる点だけは譲れなかった。それを除けば、幽閉生活といっても侍女も召使もおり、比較的自由で静かな生活を送ることができた。
しかしながら、メアリーは不満を隠せなかった。スコットランド貴族たちを説得し、自分が再び女王に復位する助力を請う手紙を、エリザベスへ何度も書き送るものの、さっぱり音沙汰がない。一体いつまで待てばいいのか…。いつまでも諦めないメアリーに脅威を抱いたエリザベスの側近、ウィリアム・セシルは、メアリーを排除すべく罠をしかけることにする。侍女や召使の人数を減らし、監視を強化し、薄暗く状態のよくない城へとメアリーを移送。メアリーの精神状態は、徐々に追い詰められていった。
そして1584年、決定的な出来事が起きる。18歳になったメアリーの息子が、スコットランド王ジェームズ6世として直接統治を開始。プロテスタント派のもとで母親の悪評を聞かされて育ったジェームズは、生まれて初めてメアリーに親書を送ってきたのである。喜びと期待とともに開封した彼女の目に飛び込んできたのは、「貴女は王太后(国王の母)にはなれるが、もはや女王になることはない。スコットランドの君主は私だ」という文面だった。せめて王位だけでも取り戻したいという夢も、いつか息子が助け出してくれるのではないかという希望も、すべて消え失せた。でも、このままでは終われない。スコットランドの王冠が無理ならば、次なる王冠は…。メアリーは命をかけた最後の「賭け」に出る。
メアリーはイングランドに潜伏する自身の支持者たちと、密かに連絡を取りはじめる。小さなビール樽に暗号を用いた手紙を隠し、エリザベスの暗殺計画を練った。ところが、動向はウィリアム・セシルに逐一報告され、解読された暗号文が決定的な証拠となって、メアリーは反逆罪で逮捕、処刑が言い渡された。幽閉されてから19年近い歳月が過ぎ、メアリーは44歳になろうとしていた。

断頭台での壮絶な最期

真っ直ぐに正面を見据え、フォザリンゲイ城のグレートホールに設置された断頭台にのぼるメアリー。黒いローブの裾から赤いドレスの一部が見える。
ノーサンプトンシャーの東端にあったフォザリンゲイ城。

1587年2月8日、ノーサンプトンシャーにあるフォザリンゲイ城。
グレートホール内は、黒い服を身につけた聖職者、死刑執行人や見届け人らであふれかえっていた。中央に設置された断頭台が、異様な存在感を放っている。人々のざわめきが石造りの壁に反響し、少々騒々しいくらいだったが、扉が開く音が聴こえた途端、水を打ったように静まり返った。メアリーの死装束は美しかった。漆黒のベルベットのローブをまとい、手には愛用の祈祷書、胸元に下げられたロザリオは金色の光を放っている。
毅然とした態度で断頭台への階段をのぼり終え、侍女に祈祷書とロザリオを渡す。そしてローブが肩から滑り落とされると、人々は思わず大きく息をのんだ。漆黒の下から現れたのは、まるで血のような深紅のドレス。赤はカトリック教徒にとって殉教の色でもある。メアリーは満足そうにその反応を見渡した後、ドレスの裾を整えながら床に膝をつき、細い首をゆっくりと断頭台に横たえた。
「主よ、御身元に近づかん。汝の御手の中へ」
死刑執行人により斧が大きく持ち上げられ、うなり声を上げながら勢いよく刃が落下した。

メアリーの処刑以降、フォザリンゲイ城は誰も住むことなく廃墟となった。現在は建物の一部だった石や砦跡の丘のみ残る。

本来なら、ここでメアリーの物語は幕を降ろすはずであった。ところが、刃は首ではなく後頭部を直撃。メアリーはすすり泣くようなうめき声を上げ、「おぉ、神よ」とつぶやいたという。ようやく首を切り落とせたのは3度目だった。そして処刑人が落ちた首を見物人へ掲げようと髪に手をかけた瞬間、首はゴトリと床に転がり落ちてしまった。長い幽閉生活で身体は衰弱し、髪も抜け落ちていたため、美しく結い上げられた豊かな髪はかつらだったのだ。

メアリーが最初に埋葬された、ピーターバラ大聖堂内の墓跡。「FOREVER BURIAL PLACE OF MARY QUEEN OF SCOTS」の文字が見える。

メアリーは自身の遺体はフランスへ運ぶよう遺言を遺したが、エリザベスはその願いを無視し、心臓はフォザリンゲイ城の敷地内、身体は同城から程近い地にあるピーターバラ大聖堂に埋葬された。しかし、エリザベスが跡継ぎを持たないまま1603年に死去し、メアリーの息子ジェームズがイングランド王としても即位すると、母親の棺を歴代君主が眠るウェストミンスター寺院へ移送。エリザベスより少し高い位置につくられた墓所で、メアリーはやっと安らかな眠りについている。

映像で見られる!映画が絶賛上映中「Mary Queen of Scots」(ふたりの女王 メアリーとエリザベス)

互いに複雑な感情を抱く2人の女王、メアリー・ステュアートとエリザベス1世の波乱に満ちた人生を描いた映画「Mary Queen of Scots」が、現在上映中。
黒いローブに身を包み、背筋をすっと伸ばしたメアリーが、コツコツコツ…と靴音を響かせながらフォザリンゲイ城の通路を歩いていく場面からスタート。そして時間は巻き戻り、18歳で未亡人となったメアリーが、故国・スコットランドへ帰国するところから物語が動き出す。その「知らせ」を聞き、ハッと表情をこわばらせるエリザベス。ひとつの島を分け合い、それぞれの国に君臨する若き女王同士の「因縁の対決」の火蓋が切って落とされる。

結婚・出産(しかもイングランド王家が恵まれなかった男児)と自分の感情に素直に生きるメアリーに対し、嫉妬にかられて泣き崩れるイングランドに生涯を捧げた「処女王」エリザベスの姿は切なさを呼ぶ。
メアリー役をアイルランドの女優シアーシャ・ローナン(24)、エリザベス役をオーストラリア出身の女優マーゴット・ロビー(28)が熱演。日本では、3月15日から公開予定。

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週刊ジャーニー No.1071(2019年1月31日)掲載