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【台湾編 65皿目】人が押し寄せる豚足屋

石田ゆうすけ
旅行作家。7年半かけて自転車で世界一周を敢行。9万5千キロ、87ヵ国を走り、2002年末に帰国。現在は全国各地で講演も行う。著書に『行かずに死ねるか!』『地図を破って行ってやれ!』ほか。2014年2月に最新刊『大事なことは自転車が教えてくれた』(小学館)を上梓。ブログも更新中→「石田ゆうすけのエッセイ蔵

前回、肩の靭帯断裂というケガを負ってから約4ヵ月、リハビリを終えて(いや、完治しなかったが、無理やり日本を発って)、花蓮に戻り、ようやく再出発したのだが、わずか20㎞進んだところで、今度はスクーターにうしろから激突されて後輪が変形し、またしても旅が中断してしまった。何かに呪われているような気がしてならなかった。
同じ規格の後輪が幸運にも見つかって交換できたが、時間も遅くなったので花蓮に戻ることにした。そして翌日、再び花蓮を出発し、昨日と同じ国道9号線を走った。
約1時間後、昨日の事故現場を過ぎるとやっと新しい景色が広がり、呪縛から解放されたような心持になった。道の左右には緑の濃い山が続き、ヤシの木がゆっくり流れていく。ギザギザの巨大なうちわのような葉が特徴的な「パンの木」もよく目についた。熱帯だなと感じる。
実際、とんでもない暑さだった。前回は1月で夜は肌寒いぐらいだったが、5月の今は日本の真夏以上に太陽光が苛烈でジリジリと暑い。
2時間ほど走ってバテてきたところへ「満妹豬脚」という店が現れ、ホッと息をついた。豚足の名店だ。もともとはプレハブ小屋で、お婆さんがひとりでやっていたらしい。その味が口コミで評判になった。
「汚い小屋に有名人やタレントをはじめ全国から人が押し寄せてきてね。台湾人は店の見た目なんかより、味本位で店を選ぶんですよ」
花蓮の宿主、片桐さんからそう聞いていた。初代店主のお婆さんは最近他界したそうだが、息子らが跡を継ぎ、立派な構えの店になった。
それにしても豚足とはいいタイミングである。コラーゲンが負傷した肩の靭帯に効きそうだ(そんなわけない か……)。

「満妹豬脚」の豚足定食。絶品!

メニューを見ると、最も安いものでも2~3人前の量であった。店のお姉さんに「イーガーレン(ひとりなんだけど)」と言うと、彼女は、「ハオ(わかったわ)」と心得た顔をし、調理場へと取って返した。
運ばれてきたのは豚足定食といった感じのひとり用のプレートだった。裏メニューらしい。値段は100台湾ドル、日本円で約360円だ。
じつを言うと、あまりの暑さに豚足という気分ではまったくなかった。しかしひと口食べた瞬間、食欲に火がつき、我を忘れてがっつき始めた。ギトギト光った脂に黒っぽい色のタレという見た目に反して、とてもマイルドな味わいで、くさみがまるでない。いくらでも食べられそうだ。何より特徴的だったのは、豚足ならではのゼラチン質だけでなく、肉も大量についていることだった。その肉が非常に軟らかく、まるで上等な豚の角煮のように口の中でほろほろと繊維状になって崩れ、濃厚なうまみがあふれ出すのである。夢中で食べながら〈こりゃ助かるな〉と思った。暑いときでもコッテリ系の料理をおいしく感じ、ガツガツ食べられれば、それだけでなんだか精力がわいてくる感じがする。
店を出ると、僕は意気揚々とペダルを踏みだした。
それから数時間後、自転車をこぎながら、〈あれ?〉と思った。そういえば右肩が軽い。ケガ以来ずっとひどかった肩こりが楽になっている。コラーゲンが早くも効いたのだろうか(んなアホな)? それともやっぱり自転車がいいリハビリになっているのだろうか?
よくわからないが、とりあえず、自転車で走って、腹を空かせて、メシをうまいうまいと食っていれば、何か間違いがないような気がした。

週刊ジャーニー No.1002(2017年9月21日)掲載

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