ワインにまつわる今月のトピック:ワインの保存の仕方

温度が一定ではないガレージ(車庫)は不適

今回は、自宅に専用のワイン・セラーがない場合のワインの保存方法について取り上げたい。以前、ある人から「ロワールを旅した時に飲んだワインがとってもおいしかったので、1ケース買ってきた。家のガレージにボトルを横の状態にして1年間寝かせたので、そろそろ飲もうかなと思う」と聞いたことがあった。「何のワイン?」とたずねたところ、ムスカデとのこと。ムスカデMuscadetは、フランスのロワール川河口付近産のAOC(原産地統制名称)ワインで、ムロン・ド・ブルゴーニュMelon de Bourgogne種で造られる。マスクメロンの香りを呈すアルコールがやや低めの軽いワインで、確かにおいしい。特に、その海でとれるローカルの生牡蠣との相性は最高だ。 ただ、そのワインは早飲み用のワインで、買ったらすぐ飲むのが一番おいしいワインだということを、残念ながらこの人はご存じなかったようだ。気温が変化するガレージ内で1年間寝かせたとあれば、その味は旅先で飲んだ時とかなり異なり、マスクメロンのかぐわしさも消えていることだろう。

早飲み用ワインと熟成用ワイン

いくらおいしくても、ワインには寝かせておいてはならないものがある。つまり、ワインには早飲み用と長期熟成用があることを覚えておきたい。通常、20ポンド以下のスクリュー・キャップ付きのワインは早飲み用として楽しみ、それ以上の価格でコルク栓のものはある程度熟成させることをお薦めする。熟成させるには、ワイン・セラーなど、温度が一定に保たれる環境で保存することが必須。20~30ポンドのワインは3年ほど寝かせても大丈夫で、それ以上のものでコルク栓のものは3年以上寝かせると還元された特別の風味を持つ興味深いワインとなると覚えておくといいだろう。

20~30ポンド程度のワインの中には、スクリュー・キャップのものもコルク栓のものもあるが、スクリュー・キャップのものは立てた状態で熟成させてOKだが、コルク栓のものは横にして熟成させること。また、早飲み用のスクリュー・キャップのものは、冷蔵庫に1ヵ月程度入れて置いても大丈夫。しかし、コルク栓のものは、冷蔵庫内でコルク栓が乾いて縮み、ボトル内に空気が入り込んでワインを酸化させてしまう恐れがあるので、長くても1週間以内に飲むこと。コルク栓はワイン(液体)に接することで広がり、しっかりとした栓となるので、コルク栓のワインは冷蔵庫内でも横にしておくのをお忘れなく。なお、冷蔵庫に1週間も入れておいたものは、それから外に出して熟成させないよう注意したい。コルク栓のワインでぬれていた部分が乾燥することによって縮み、ワインを酸化させる可能性が高いからだ。ワインを熟成させる環境としては、温度13~14℃で、暗く、振動のない状態にする必要がある。ワイン・セラーや地下セラーがない場合には、10℃ぐらいに冷やした状態のワインを、発泡性スチロールの箱に入れてしっかりとテープでとめ、家で一番温度の低い、温度変化が少なく、陽の当たらない場所に置いておくとよい。それを、さらに大きな発泡性スチロールの箱にいれて、二重にするなどしておくとなお安心できる。

まず、www.wineshippingboxes.com/collections/foam-wine-shippersなどで購入できるボトル用の発泡スチロール・ケース(引越時にも便利)に入れ、さらに右側のような発泡スチロールの箱に入れておきたい。箱については、インターネットで「thermal」「food container」「insulated(断熱)」といったキーワードで検索すれば見つかるはず。写真はAmazon UKで購入できる商品(40ポンド程度)。

甲殻類を使った料理などにあうムスカデ

話をムスカデに戻す。一度試してみていただきたいのは、テスコのカルヴェット・ムスカデCalvet Muscadet (8ポンド、www.tesco.com)=写真右。花や、メロン、ライチーと言った香りを呈す辛口白ワインだ。また、同店のサイトでは、活躍しきって死んで沈んだ澱(おり)を除かず、しばらくワインに接した状態にして造られ、風味に複雑性が加えられたムスカデ・シュル・リー(仏語でシュルSurとは「上」、リーlieとは「沈殿物」の意味)が9ポンドで購入できる。甲殻類を使って塩で味付けしたパスタやリゾット、生牡蠣、ホタテ貝の料理であるコキーユ・サン・ジャック、あるいはサラダによく合う。


週刊ジャーニー No.1337(2024年4月11日)掲載

ミヨコ・スティーブンソン Miyoko Stevenson

WSETディプロマ取得。Circle of Wine Writers会員。Chevalier du Tastevin(利き酒騎士)団員。Jurade de St-Emilion団員。Ordre des Coteaux de Champagne団員。国際日本酒利き酒師。The Guild of Freemen of the City of London会員。ワイン関連の訳書・著書あり。

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