ワインにまつわる今月のトピック:クリスマス・ディナーに合うワイン
クリスマス・ディナーは遅めのランチ
早や12月。今回はクリスマスをテーマにしたい。日本では24日の夜、つまりクリスマス・イヴの夕食で祝うことが多いが、英国では25日の遅めのランチをクリスマス・ディナーと呼んでいる。ご承知の通り、クリスマスはイエス・キリストの「誕生を祝う日」。普段は教会にいかないキリスト教信者でも(2022年の英国国教会の礼拝出席者数は週平均65万人ほど)、24日の夜中の礼拝や25日の朝に教会に出かける家族は多く、2022年のクリスマスには約 162 万人が教会に赴いたと報告されている。
17世紀にかけて人気が高まった七面鳥
16~17世紀の英国では、クリスマスといえばガチョウや食用として太らせた雄鶏を食べるのが一般的だったが、16世紀後期に七面鳥が紹介されると、その人気は17世紀にかけて英国全土に急速に広がったとされている。クリスマスの時期に必ず放映される映画のひとつ、チャールズ・ディケンズの『クリスマス・キャロル』の中で、冷酷で欲深い商人のスクルージがクリスマス・イヴに現れた精霊によって心を改め、安い給料でこき使ってきた雇い人のボブ・クラチットに七面鳥を贈る場面があり、英国の伝統的なクリスマス・ディナーの様子をうかがい知ることができる。
主役の七面鳥と欠かせない脇役たち
さて、その典型的な英国のクリスマス・ディナーの主役といえるローストした七面鳥だが、その付け合わせの筆頭はスタッフィングstuffing。これは、ソーセージ・ミートに玉ねぎ、パン粉やセージ等のハーブをまぶしたもので、丸焼きの鳥の中に詰めたり、または肉団子のように丸めて鳥の周りに置いてローストしたりする。鳥に風味とモイスチャーを与えるためだけでなく、スタッフィングには鳥やポークから出たうまみがたっぷり浸み込んでいるので、これ自体、料理として欠かせない。さらに、グレービー・ソース、ベーコンで巻いたソーセージ、七面鳥には必須のブレッド・ソースBread Sauce、レッド・カラント・ジェリー、ロースト・ポテト、ゆでた芽キャベツに栗を添えたもの、ハチミツで味付けしたニンジン、グリルしたパースニップが定番。その後、ブランデーで火をつけるのが慣習のクリスマス・プディング、ミンス・パイ(どちらもブランデーバター、カスタード、またはクリームを添えて出す)、あるいはトライフルといったデザートを味わう。なお、主役の七面鳥だが、かわりにロースト・ポークやロースト・ビーフ、ロースト・チキンのほか、ロースト・グースやロースト・ダックをメインにする家庭も少なくない。
クリスマスのメイン料理に合うワイン
クリスマスは、やはり発泡性ワインから始めたい。アペリティフとしては、イタリアのプロセッコProsecco、スペインのガバGava、そして、いうまでもなくフランスのシャンパーニュChampagneで乾杯といきたいが、白でもロゼでもよいだろう。そしてディナーがローストした七面鳥、ポーク、チキン、ダック、グースなら、軽めの赤ワイン、例えば、フランスはロワール産の赤ワインが合う。カベルネ・フラン種から造られたレ・ニヴィエール・ソミュール・ロワールLes Nivières Saumur Loire(Waitrose/8.99ポンド)や、フォートナム&メイソンのブルグイユ・フランソワ・オーデベールFortnum’s Bourgueil, Francois Audebert(Fortnum & Mason/16.50ポンド)、またはピノ・ノワール種から造られたシャトー・ドゥ・クレザンシー・サンセール・ルージュChâteau De Crézancy Sancerre Rouge(Majestic Wine/21.99ポンド)、セルフリッジズのアンドレ・ドゥザAndre Dezat(Selfridges/24.99ポンド)、レ・マレンヌ・ピノ・ノワール・サンセールLes Marennes Pinot Noir Sancerre (Waitrose/15.99ポンド)を勧めたい。もし、ディナーがロースト・ビーフなら重めの赤ワインにしよう。どの国で造られた1本であってもカベルネ・ソーヴィニョン種がメインの赤ワインなら、フルーティーでコクがあり、ビーフの旨味を引き立ててくれるはずだ。では、すばらしいクリスマスを!
週刊ジャーニー No.1321(2023年12月14日)掲載