ワインにまつわる今月のトピック:ドメーヌ・フルーロ・ラローズ訪問
1872年設立のドメーヌ
10月初め、ブルゴーニュのクロ・ド・ヴージョで行われる唎酒騎士団晩餐会に出席した席で、ドメーヌ・フルーロ・ラローズDomaine Fleurot Laroseのオーナーである二コラさんと久美子さんご夫妻にお会いし、ご無理をお願いして翌日の日曜日にドメーヌを訪問させていただいた。このドメーヌは、コート・ド・ボーヌの南、サントネSantenay村に位置し、1872 年に設立された。父から息子へと受け継がれてきている家族経営のドメーヌで、今のオーナーである二コラさんは4代目という。
ロマネ=コンティ創業者が建てた館
このドメーヌの館はブルゴーニュ地方でも最も大きな規模の館のひとつで、当時の大地主だったジャック・マリー・デュヴォー・ブロシェJacques-Marie Duvault-Blochetによって1843年に建てられたとのこと。この名前を聞いて驚いた。というのは、ジャック・マリー・デュヴォー・ブロシェとは、世界で最も有名なワイン会社、ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ=コンティDomaine de la Romanée-Conti(DRC)の創業者の名前なのだ。DRC社のヴォーヌ・ロマネ・プルミエ・クリュVosne Romanee 1er Cruのワイン・ラベルに、創業者に敬意を示してCuveé Duvault Blochetと冠していることでも知られている。その当時すでにリッシュブールRichebourg、グラン・ゼシェゾーGrands Echezeaux、エシェゾーEchezeauxといった超有名なブドウ畑を所有していた彼は、1869年にロマネ・コンティを買収し、DRC誕生の足場を築いたのだった。
ブルゴーニュでも最も歴史ある美しいセラー
久美子さんのお話でさらに驚かされたことには、彼はロマネ・コンティ畑を買収すると、ロマネ・コンティ畑で収穫したブドウを、気温の低い夜間に、途中のポマールPammard村で馬を換えて、40キロ離れたこの館に運んできていたという。つまり、当時から1911年まで、ロマネ・コンティのワインはここで造られ、この館の地下セラーで保管されていたのだ。この館は、 地上3階、地下2階という建物で、地下のセラーは深く、常に10.5~11.5℃の温度と80%の湿度を保ち、外気温の影響を全く受けない。この地下のセラーは1843年に建てられ、今まで手が加えられておらず、ブルゴーニュでも最も歴史ある美しいセラーとなっている。地下に続く階段を築く石には、多くの化石が見えていた。
現在このセラーで熟成されている最も古いワインは1918年もののモンラッシュとのこと。久美子さん曰く、ワインの熟成にはモーツァルトの曲が生む高周波がよいということで、時にはセラー内でモーツァルトの曲を流しているそうだ。また、いっそう驚かされたことには、2018年には、天皇陛下が皇太子さまだった時代に、このドメーヌを訪れ、久美子さんの手料理でランチをおとりになられたというからすごい。
既に準備が始まっている次の世代への引継ぎ
フルーロ家は 1912 年にこのシャトーを購入し、ブルゴーニュ・アリゴテBourgogne Aligoté、サントネSantenay、シャサーニュ・モンラッシェChassagne Montrachet、バタール・モンラッシェ・グラン・クリュBâtard Montrachet Grand cru、ル・モンラッシェ・グラン・クリュLe Montrachet Grand cruの白ワインや、ブルゴーニュ・ルージュBourgogne Rouge、サントネSantenay、シャサーニュ・モンラッシェChsagne Montrachetなどの赤ワインも造っている。
二コラさんと久美子さんの間には、フランソワ・トモヤさん(19歳)とミッシェル・サトシさん(17歳)の2人の息子さんがおられ、今は2人ともブドウ栽培とワイン醸造を学び、将来はこのドメーヌを受け継ぐ予定という。これほどまでに由緒・歴史のある館に住み、素晴らしいワインを生み出し続けているご家族にただただ感激する1日だった。
週刊ジャーニー No.1316(2023年11月9日)掲載