ワインにまつわる今月のトピック:2023年のボルドーのワイン事情
危機感を募らせるワイン業界
「global warming」どころか「global burning」とまで言われる昨今、各国各地が大きな自然災害に見舞われている。ワイン業界でも、気候変動による影響は深刻だ。ブドウの糖度が上がりすぎ、そのためにアルコール度が高くなった結果、味や口当たりにバランスのとれないワイン、フィネス(精妙さ)に欠けるワインになる問題などが起きている。こうした状況下、ワインの女王と称されるボルドーでは、ワイン科学者と生産者たちが10年以上をかけ、52以上のブドウ品種を研究。6種類の新たなブドウ品種が選び抜かれ、2021年からの栽培が承認された。ただし、ボルドー・ワインとしてのアイデンティティーを崩すことのないよう、新たに導入される6種類のブドウ品種はワイン生産時に、あくまでも補助的に使用するという条件が課せられている。その植栽面積や使用量も制限され、ブドウ品種名はラベルに表示してはならず、また、これらのブドウ品種のみから造られたワインはボルドー・ワインとして認められないなど、厳しい規制が設けられている。
ボルドーでの栽培が新たに認められた品種
ボルドーで以前から認可されてきた基準品種は、次の14種。【赤ワイン用】カベルネ・ソーヴィニヨンCabernet Sauvignon、メルロMerlot、カベルネ・フランCabernet Franc、マルベックMalbec、カルメネールCarmenére、プティ・ヴェルドPetit Verdot【白ワイン用】セミヨンSémillon=右写真、ソーヴィニヨン・ブランSauvignon Blanc、ソーヴィニヨン・グリSauvignon Gris、ミュスカデルMuscadelle、コロンバールColombard、ユニ・ブランUgni Blanc、メルロ・ブランMerlot Blanc、モーザックMauzac
今回選ばれた新たな6品種は次の通り。【赤ワイン用】アリナルノアArinarnoa、カステCastets、マルスランMarselan、トウリガ・ナショナルTouriga Nacional【白ワイン用】アルヴァリーニョAlvarinho、リリオリラLiliorila
ボルドーといえばなんといっても赤ワインが有名で、その主要品種は、カベルネ・ソーヴィニョンとメルロだが、新品種を補助として使用したボルドー・ワインは2024年から市場に登場する見込み。
高温と大雨がもたらす大きな被害
気候変動について、栽培方法においても様々な対応策を講じているボルドーに、2023年は試練の年となっている。ベト病と呼ばれる真菌を増殖させる高温と大雨の組み合わせが、2度にわたって同地方を襲ったのだ。この菌は落ち葉の上で越冬し、一旦ブドウ畑に出現すると、定期的な薬剤散布で繁殖は抑えられても、根絶することはできない。暖かくなってくるとブドウ樹の緑色部分が感染し、感染が拡大してしまうと花やブドウの果粒に侵入し、作物の完全な損失につながる。ボルドーでは今年すでに、すべてのブドウを失ったという栽培者も確認されており、ボルドーの全ブドウ畑の90%に影響がでている。特に赤ワイン用のメルロへの打撃が大きかった。赤ワインは、白ワインとは異なり果皮と一緒に発酵させるため、腐敗病の影響を受けた果粒を使うと香りに特有なカビ臭が残るなど、市場に出せないワインになってしまう。ボルドー地方の年間ワイン生産量は、かつて約6億リットルとされていたが、2023年は約4.5億リットルにとどまると報告されている。
ボルドー産にもあるお買い得なワイン
ボルドーの赤ワインには、横綱や大関級のものから序の口級のものまであるが、中でも入手しやすく、お買い得な幕下級の赤ワインに、クリュ・ブルジョワCru Bourgeoisがある。この格付けをラベルに表示するには、収穫年ごとに(つまり毎年)テースティング・サンプルを提出して審査を受け、合格する必要があり、これを称すことができるワインに不味いものがあるはずがない。安心して購入していただきたい。
ところで、ヨーロッパでは郷土料理に合うワインを造るのが原則。ボルドーのワインに合う肉料理といえばビーフやラムのグリルだが、調理の際にオリーブ・オイルを使わずにバターを使うこと。オリーブの木の栽培は、ボルドー地方にまでは及ばず、調理にオリーブ・オイルを使う伝統がないからだ。オリーブ・オイルを使わない肉料理とともに、この秋はボルドーの現状に思いをはせつつ、ボルドー・ワインを味わってみてはいかがだろう。
週刊ジャーニー No.1312(2023年10月12日)掲載