ワインにまつわる今月のトピック㉚ バラの季節にふさわしいワイン
ローズ(バラの花)の季節にぴったりのワイン
5月に入ってようやく気温が徐々に上がり始め、それにつれてバラの蕾が目立ってきた。ロゼ・ワインはそんなバラの季節にぴったりのワイン。どのような食事にも合わせやすく、ランチにもディナーにも使えて屋内でもピクニックでも楽しめる、という頼もしいワインでもある。今月はこのロゼについて書きたいと思うが、非発泡性のロゼ・ワインのピンク色がどのように作られるかご存じだろうか。白ワインに赤ワインを混ぜる…と思われがちながら、英国を含むEU圏内についていえば、白ワインに少量の赤ワインを加えて造ることが許されているのはシャンパーニュだけ。非発泡性のワインの場合には、必ず黒ブドウ品種から造られなければならないことになっている。ただし、ドイツのバーデンBaden地方では、果皮はピンクがかっているが白ブドウ品種であるピノ・グリPinot Grisと黒ブドウ品種であるピノ・ノワールPinot Noirを一緒に破砕/圧搾/発酵させて造るロートリングRotlingと呼ばれるワインがあり、これは例外といえる。
黒ブドウ品種から生まれるローズ色
非発泡性のロゼ・ワインがどのようにして黒ブドウ品種から造られるかというと、次の3つの方法がある。
【1 軽く圧搾する方法】収穫した黒ブドウを破砕(果梗を取り除き、種を潰さないようにして果皮を破る作業)して軽く圧搾機にかけ、淡いピンク色の果汁を抽出する。この方法を用いた場合、最も上品な淡い色のロゼとなる。プロヴァンスのロゼ・ワインに多く、その色合いはオニオン・スキン(玉ねぎの皮)とも表現されることがある。プロヴァンスのロゼは、フルーティーというよりコクがあり、アルコール度も低くないので、グリルした牛肉やくし焼きにしたエビ・ホタテ貝などしっかりした料理に合う。
【2 浸漬法】破砕した後、果皮と果汁を発酵させずに短期間低温下においた後、果皮を取り除いて果汁だけを発酵させる。上品な赤い果実香味を呈すワインとなり、白身の魚やチキンとの相性がよい。
【3 セニエ法】瀉血(しゃけつ)法とも呼ばれる方法で、破砕後の果皮と果汁を一緒に赤ワイン同様に発酵させ、その醸造過程の初期の段階で一部の果汁を分離させて、別のタンクで発酵させる。セニエ法のロゼ・ワインは赤ワインに近い味わいを呈することから、肉料理との相性が抜群。実は、セニエ法は、赤ワインの香味を凝縮させるのを助ける工法であり、赤ワイン醸造の初期段階で果汁の一部を取り除くことによって、残った果汁における果皮の割合を高め、結果として、果実香味が凝縮され、色の濃い赤ワインが造られるようになる。このセニエ法がヨーロッパで盛んに行われるようになったのは、1980年代に果実香味豊かなニュー・ワールドのワインがヨーロッパに紹介され、その人気が高まった1990年代頃のこと。つまり、ヨーロッパにおいて、ニュー・ワールドからの赤ワインに対抗できる果実香味豊かな赤ワインが求められたため、この方法が適応されるようになったという経緯がある。セニエ法によるロゼは、果実香味豊富で色の濃い赤ワインを造るための副産物とも言え、国際的な料理が好まれるようになった食生活の変化という流行の波に乗って人気が高まった。ヨーロッパでは、1980年代以前のロゼ・ワインといえば、食前酒として飲まれた半甘口のものばかりだったが(フランスのロワール川流域でつくられるロゼ・ダンジューRosé d’Anjou、カベルネ・ダンジューCabernet d’Anjouが良く知られていた)最近ではスーパーの棚に置かれることもほとんどない。
肉料理にも魚料理にも合う万能選手
非発泡性の辛口ロゼ・ワインに、驚くほど高価なものはなく、それでいて品質は裏切らないので、購入時にあまり迷う必要もない。その味わいは、赤いベリーの風味に、花やメロン、ルバーブといった香りが伴い、よほどピンク色が濃くない限り、その果実香味が料理を圧倒することがない。ロゼの色が濃いほど、赤いベリーの風味が濃くなると覚えておけばいいだろう。通常、アルコール度もしっかりしており、様々な料理と合う。必ず冷やして飲むこと。また、グラスは赤ワイン用でも白ワイン用でもOK。ごくわずかな例外を除いて、長期保存に向かないので、買い求めた後、長期保存せずに飲み切ることがポイント。例えば、数人でレストランで食事をする際、メインに肉料理を選ぶ人と、魚料理を選ぶ人がいた場合、辛口のロゼ・ワインはよいチョイスといえる。今月号でのいちおしは、ウィスパリング・エンジェル・プロヴァンス・ロゼWhispering Angel Provence Rosé(ウェイトローズで19.99ポンド)=写真。ロゼ・ワインとしては値段はやや高めだが、オニオン・スキン(玉ねぎの皮の色)の上品な味わいの辛口ワインで、何の料理にも合う。
週刊ジャーニー No.1290(2023年5月11日)掲載