ワインにまつわる今月のトピック㉚ シャンパーニュ再訪 その2
昔はなかった、白ワイン
あっという間に過ぎてしまったクリスマスとお正月だが、この時期にワインを楽しまれた読者も多いだろう。このワイン、今では赤、白、ロゼ、発泡性、酒精強化と各種あるものの、実は、昔は白ワインはなかった。というのも、かつてはワインを造るのに、発酵前に果皮や種を取り除くなどという手間をとらず、黒ブドウでも白ブドウでも、もぎとったままのブドウを房のまま発酵させていたからだ。
ワイン造りの起源
そもそも、ワインが造られ始めたのは、人類が定住生活に移行して、農耕を始めた頃だと言われている。長い間、ワインは紀元前5400~5000年頃から始まったと考えられていたが、ジョージア(日本ではグルジアとも呼ばれていた)の首都トビリシから50キロ南方の遺跡2ヵ所で見つかった約8000年前の土器のかけらに、ブドウを発酵させてワインを造った科学的痕跡が認められた。このことから、ワイン造りの発祥は、黒海とカスピ海の間に東西に延びるカフカス山脈沿いの地帯で、紀元前8000年前から行われていたとする説に改められた。こんにちでは、ジョージアはワイン発祥の地として有名で、特にブドウの果肉、果梗、果皮、種などを取り除かずに造る「オレンジ・ワイン」の人気が高い。ブドウ品種も500種類以上存在するとされている。薬用としても飲まれたワイン
さて、コーカサスで始まったワイン造りは、それから南下して現在のイラク、シリア北東、トルコ南東の地域一帯、メソポタミアに伝播。その後、古代エジプトに伝えられ、紀元前3000年頃のエジプトの壁画にはブドウ、壺、ワイン造りの様子が描かれている。当時は、現在の南トルコからシリア、レバノン、パレスチナに至る「カナンの地」と呼ばれていた地域からのワインの評価が高く、ハーブ、スパイス、ハチミツで風味をつけ、水、または海水で割って飲まれていたようだ。また、飲用としてだけではなく、薬としても活用されていたことが分かっている。
さらに紀元前1500~1000年頃になると、地中海で交易を展開したフェニキア人によって、古代ギリシャや地中海沿岸の地域にワイン造りが伝えられ、エーゲ海の島々で生産されたワインの人気が大いに高まった。フェニキア人の交易範囲は広く、紀元前1100年にはスペイン(へレス近辺)にもワイン造りが伝えられた。
古代ギリシャ・ローマを経て拡大したワイン造り
その後、古代ギリシャ人が南イタリアのシチリア島にワイン造りを上陸させて、産業化していった。イタリアで現在でも栽培されているアレアニコ、マルヴジア、モスカートなどのブドウ品種はギリシャ原産だ。
古代ローマ時代になると、ワイン醸造の説明書が作られ、ワイン産業が発展し、植民地の拡大と共にワイン造りがヨーロッパ全土に広められていった。まずは、自然の交通路である川を利用して、1世紀までにはロワールとラインに、2世紀までにはブルゴーニュに、4世紀までにはパリとシャンパーニュとモーゼルへと伝えられた
と考えられている。ワインはローマ人の食事に欠かせないものとなっただけでなく、森林をブドウ畑に開拓することによって、敵の姿を見やすくすると同時に、ブドウ樹が妨げとなって騎馬兵による侵入を阻止するという効果も得られた。ただ、ワインの質はというと、かなり進歩したとはいえ長期保存に耐えられるものではなかったために、保存用のワインは土器に入れて暖炉近くで温めて濃縮するなどしていたとみられている。また、コルク栓のなかった当時は、油を浸した布を使って栓をしていたという。
ローマ帝国の滅亡後は、ワインはキリストの血として大変神聖なものとなり、ワイン造りがキリスト教と共に拡大。16~18世紀には王族、貴族も加わって質の高いワイン造りに乗り出した。そして、17世紀末には現在のようなガラス瓶に詰められるようになり、コルクで栓をしたワインが発明され、さらにガラス瓶の形も変化しながら現在に至っている。
週刊ジャーニー No.1273(2023年1月12日)掲載