ご当地ワインと郷土料理&名産物㉘ 南半球:オーストラリア その2

最初にブドウの樹を運んだのは囚人船団

46億年前に誕生した地球で、オーストラリア大陸が生まれたのは、約6000万年前と考えられている。何度かの氷河期に海面が下がり、他の大陸から人々が渡り着き、定住した。さらに時が経ち、1770年に英海軍のキャプテン・クックがオーストラリアの東海岸に上陸し、英国領であると宣言。1901年には英国から独立して現在に至っているが、今も英連邦メンバーだ。昨年の12月号の続きとして、今号ではこのオーストラリアに話を戻し、豪州産ワインについてお届けすることにしたい。

ヨーロッパやアメリカとは違い、この大陸には土着のブドウ品種がなかった。オーストラリアに最初にブドウの挿し木がもたらされたのは1788年。英国からの最初の囚人船団によって、持ち込まれたとされている。その後、ブラジルのリオデジャネイロや南アフリカのケープ・タウンでブドウの挿し木が船積みされ、東海岸のニュー・サウス・ウェールズ州の流刑地(現在のシドニー王立植物園近く)に植えられた。しかし、雨が多く湿度が高いために、樹が腐ってしまい、なかなか成功しなかった。オーストラリアで初めてワインが造られたのは1795年になってからだった。それをきっかけに英政府は、政治家ジェームズ・バズビーJames Busbyをフランスに派遣してブドウ栽培を学ばせ、600種類のブドウの挿し木をオーストラリアに送らせたのだった。途中、約半分は枯れてしまったが、残りは無事シドニーに到着し、シドニー郊外で栽培が始まった。1852年にオーストラリア東部で金鉱が発見されると、一時的に労働者がブドウ畑から鉱山に移ったものの、金を求めて世界中から人が集まった結果、人口の拡大と共にブドウ栽培とワイン生産も拡大し、シドニー周辺のみならず、ワイン造りは他地域へと広がっていった。

世界第6位のワイン生産地

現在、オーストラリアは、イタリア、フランス、スペイン、アメリカ合衆国、アルゼンチンに次ぎ、6番目(チリと並ぶ)のワイン生産量を誇り、年間約13 億リットルのワインが造られている(2018年OIV資料による)。今日では130種類ほどのブドウ品種を栽培しているが、主な黒ブドウ品種は、シラーズShiraz、カベルネ・ソーヴィニョンCabernet Sauvignon、メルロMerlot。そして白ブドウ品種ではシャルドネChardonnay、 ソーヴィニョン・ブランSauvignon Blanc、セミヨンSémillon、リースリングRieslingが主に栽培されている。 
さて、「オーストラリア・ワインの父」と称されるジェームズ・バズビーが1833年に持ち込んだ挿し木の中に、シラーズShirazがあった。この品種は特に暑さを好む。フランスのローヌ川流域北部で偉大なワインを生む品種としても知られるが、フランスではシラーSyrahと呼ばれている。
フランスでは、ワイン産地によって栽培が認可されているブドウ品種が決まっている。従って、例えば、ローヌ川流域北部地域で、ボルドー地方で認可されているカベルネ・ソーヴィニョン種を使ってワインを造るとローヌ産とは呼べず、フランス産ワインとラベル明記する決まりになっている。また、ローヌ川流域では、地区名や村名をラベル明記せずに産地名を明記するために、ローヌ川流域北部の偉大なワインがシラーから造られているということは、ほとんど知られていなかった。

口当たりが柔らかなオーストラリア産シラーズ

オーストラリアでは、なぜシラーズと呼ばれるかに関しては、この品種がペルシャのシラーズ原産であるという説や、喜望峰を経由する間になまってしまったという説など、いろいろあるが、今ではシラーという名称よりも、シラーズの方が世界的に受け入れられている。
この品種の特徴は、果実が小さく、果皮が厚いために、造られるワインの色調が濃く、黒系果実と黒コショウの風味を呈す。オーストラリアでは広域に栽培されているが、バロッサ・ヴァレーBarossa Valley、アデレード・ヒルズAdelaide Hills、ハンター・ヴァレーHunter Valleyが名高い。フランス・ローヌ川流域北部産のシラーは、スパイシーでタンニンが強く、どちらかというと硬い感じのワインであるのに対し、特にバロッサ・ヴァレーのシラーズには、アメリカ産オークが使われるために、ココナツやヴァニラの風味が明確で、非常に凝縮された果実香味とチョコレートの風味を呈し、タンニンが強くなく、口当たりが柔らかなフル=ボディのワインに仕上がっている。オーストラリアでも、サウス・イースタン・オーストラリアSouth Eastern Australia産とラベル明記されたものは、安価で、飲みやすい早飲み用のワインとして販売されている。

週刊ジャーニー No.1128(2020年3月12日)掲載

ミヨコ・スティーブンソン Miyoko Stevenson

WSETディプロマ取得。Circle of Wine Writers会員。Chevalier du Tastevin(利き酒騎士)団員。Jurade de St-Emilion団員。Ordre des Coteaux de Champagne団員。国際日本酒利き酒師。The Guild of Freemen of the City of London会員。ワイン関連の訳書・著書あり。現在、ロンドンでワイン教室を主宰。
www.miyokostevenson.co.uk
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