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ご当地ワインと郷土料理&名産物㉔南米・チリ その1 

スペインの支配下で押さえつけられたワイン造り

南アメリカの南西岸に位置し、東はアンデス山脈、西は太平洋に挟まれた細長い国チリ。今回はこの国のワインについてお届けしたい。同国のワインの評価が世界市場で高まり始めたのは今から30年ほど前だが、ワイン造りの歴史は長く、スペインの支配下で、宣教師によってヨーロッパ系ワイン用ブドウが持ち込まれた16世紀にさかのぼる。その頃持ち込まれたブドウ品種の一つはパイスPaisといって、近代までチリで最も広く栽培されていた。しかし、1818年に独立を果たすまで、スペイン本国のワイン産業を保護するためにチリでのワイン造りは抑えられ、もっぱらブランデーが造られていた。いまでも、パイス種から造られるブランデー、ピスコPiscoはチリ国民の愛する飲み物で、人気の高いカクテルの一つ、ピスコ・サワー(後述)を作るベースにもなっている。

1980年代に訪れた転換期

チリでは、18世紀頃までパイス種とマスカット種Muscatから造られたワインに、ワインを煮詰めた甘い果汁を加えた甘口ワインが製造されており、19世紀に至ってもワインの品質の向上は見られなかった。20世紀に入っても国内外での紛争や経済不安に見舞われ、1980年頃までチリのワインは評価されなかった。ところが、ピアス病などによってブドウの生産が抑えられた米国を筆頭に、国外からの投資が押し寄せると、チリのワイン設備は一挙に近代化された。米カリフォルニアでピアス病が収まった2000年頃、米国へのワイン輸出には区切りがついたが、英国や日本へと輸出先は移行。その頃、日本にチリ産ワインが突然、大量に輸入されるようになったことを記憶している読者も多いだろう。

ブドウ栽培に理想的な環境

南緯30度~36.5度と南北900キロに伸びるチリだが、ブドウ産地は、東西ほぼ100キロの範囲におさまっている。温暖な地中海性気候で、ブドウの育成期に晴れの日が多く、果実が確実に完熟するほか、菌類病などが少ないのも特徴。気候は米カリフォルニア州のブドウ栽培地とフランス・ボルドーの中間といえ、降雨が少ないものの、アンデス山脈からの雪解けの水が利用できている。また、南極大陸からチリ沿岸に沿って北上するフンボルト海流による卓越風、加えて、アンデス山脈から夜通し吹き込む風の冷却効果によって、昼夜の気温差(日較差)が大きく、完熟した果実の香味の凝縮を助けている。19世紀にヨーロッパ中のブドウ畑を荒廃させ、世界中にも広がったフィロキセラ(ブドウ根アブラ虫)も、この国には到達せず、こうしてみると、チリがいかにブドウ栽培に理想的な自然環境に恵まれているかが分かる。

チリ産ワインの運命を決めたベルリンでのできごと

入手しやすく、高品質のチリ・ワインだが、そのレベルの高さを世界中に知らしめた事件がある。
この欄でもご紹介した「パリ事件」を覚えておられるだろうか。英国のワイン評論家、スティーブン・スパリエSteven Spurrierが1976年、三つ星レストランのシェフやワイン専門家をパリに集め(主にフランス人)、フランス産と米カリフォルニア州産のワインを比較するブラインド・テイスティングを実施。カリフォルニア産ワインが、フランスの銘醸ワインを抑えて赤ワインも白ワインも1位になり、それまでほとんど無名だったカリフォルニア産ワインが一気に高く評価されるきっかけとなった。実は、これと同様のことを、スパリエは2004年1月23日にドイツのベルリンで行っている。別名、「ベルリン・テイスティング事件」がそれだ。欧州で有名なワイン専門家36名を審査員として、世界に名だたるワイン(フランス・ボルドーのシャトー・ラフィットChâteau Lafite、シャトー・マルゴーChâteau Margaux、シャトー・ラトゥールChâteau Latour、イタリア・スーパー・タスカンのティニャネッロTignanello、サッシカイア Sassicaia、ソライア Solaiaなど)とチリ産赤ワインのブラインド・テイスティングを敢行。1位がヴィニエド・チャドウィックViñedo Chadwick 2000、2位がセーニャSeña 2001とチリ産がトップ2位を占め、シャトー・ラフィット2000が何とか3位に入るという結果になり、衝撃を与えた。こうして、世界に名だたるワインに勝る評価を獲得して以来、チリ・ワインは世界中の愛好家をうならせ続けている。
さて、今でもチリで大人気のピスコ(ブランデー)だが、これをベースとしたカクテル、ピスコ・サワー=写真=を紹介しよう。材料はピスコ45ml、ライム・ジュース30ml、シロップ20ml、卵の白身2個分。これを全部一緒にカクテル・シェ-カーに入れて勢いよく振り、グラスに注いで、ライムの薄切りを添えるだけ。簡単で美味しいので、ぜひこの夏、楽しんでいただきたい。

週刊ジャーニー No.1039(2018年6月14日)掲載

ミヨコ・スティーブンソン Miyoko Stevenson

WSETディプロマ取得。Circle of Wine Writers会員。Chevalier du Tastevin(利き酒騎士)団員。Jurade de St-Emilion団員。Ordre des Coteaux de Champagne団員。国際日本酒利き酒師。The Guild of Freemen of the City of London会員。ワイン関連の訳書・著書あり。現在、ロンドンでワイン教室を主宰。
www.miyokostevenson.co.uk
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