ご当地ワインと郷土料理&名産物㉓北米・オレゴン州 その1 

通(つう)好みのワインを造り出す州

アメリカ合衆国で、『通の好むワインの生産地』として知られているのがオレゴン州だ。4,500 ほどのワイナリーが存在し、大企業によって市場の大部分が占められ、生産量も多いカリフォルニア州に対して、オレゴン州は家族経営などの小規模なワイナリーが多く(2015年現在で約450)、生産量も少ない。その上、輸出は生産量の5%で、なかなか英国の店頭に並ぶことはない。

ロッキー山脈の特異な土壌

オレゴンのワイン産地は、カリフォルニア州ナパ・ヴァレーの600キロ北に位置し、古代の火山活動によって隆起した土地に築かれている。約1.4万年前に、ロッキー山脈の麓、オレゴン州の北東に位置するミズーリ湖が2000年間の間に35回氾濫し、その都度、ロッキーの斜面を崩し、やがて渓谷が形成された。そこにオレゴン州最大のブドウ栽培地ウィラメット・ヴァレーWillamette Valleyが誕生。「ロッキー山脈からのエキゾチックな古い土壌」と称される海洋性と火山性の土壌が特徴だ。加えて、ブドウ生育期の晴れの多い天候、長い日中の日当たりのよさなどの恩恵を受けている。主要栽培地は海岸から約130キロ離れた内陸の州西部にあり、北から南に細長くブドウ栽培地が点在している。この地域は冬でも氷点下に下がることは稀で、降雪も少ない一方、夏でも26℃を超える日があまりない。そのため、カリフォルニア州では、ボルドーで知られるカベルネ・ソーヴィニョン種が主要な赤ワイン用ブドウ品種であるのに反し、ここではフランス北西部に位置するブルゴーニュ地方で有名なピノ・ノワール種が主要品種。芳醇なカリフォルニアやチリのピノ・ノワールと、精妙なブルゴーニュやニュージーランドのピノ・ノワールの中間的なワインが造られている。

ワイン業界を大きく揺さぶったパリ事件

さて、ニューワールドのワインが高く評価されるようになったのは1970年代後半に起こったパリ事件がきっかけ。この事件とは、1976年、英ワイン商、スティーブン・スパリエStephen Spurrierがパリに11名(仏人9名、米国人1名、英国人1名)の著名なワイン評論家やレストラン・オーナー、ワイン生産者を集めて、ブラインド・テイスティングを行ったところ、優勝したのは何と、赤ワインも白ワインもカリフォルニア産だったという出来事で、世界を大いに驚かせた。さらにその3年後の1979年には、仏グルメ誌ゴー・ミヨが、パリにて世界各国のワインを集めて『ワイン・オリンピック』を開催。ここでブラインド・テイスティングを実施した結果、ピノ・ノワール部門でオレゴン州のジ・アイリー・ヴィンヤードThe Eyrie Vineyard 1975が上位入賞し、今度はオレゴン州のピノ・ノワールの存在が世界へ知れ渡った。

世界が認めたオレゴン州のワインの真価

ところが、フランスはこの結果に疑いを抱いた。そこで、ブルゴーニュの有名な老舗ネゴシャンのメゾン・ジョセフ・ドルーアンMaison Joseph Drouhin (1880年にブルゴーニュワインの中心地ボーヌで創業。世界の3つ星レストランにワインを提供)のオーナー、ロベールRobertが翌年、同社の最上質のワインとオレゴン&カリフォルニアのシャルドネ・ワインを集め、ブラインド・テイスティングの再試合を行った。しかし、そこでもジ・アイリーのワインが、1位となったドルーアンのワインとわずかな差で2位となり、オレゴン・ピノ・ノワールの真価が証明された。これを機に、オレゴン州での偉大なワイン生産の可能性を見いだしたドルーアンは、1980年代からオレゴン州でブドウ栽培とワイン造りを開始。それを皮切りに、ブルゴーニュの名高いワイン・メーカー、メゾン・ルイ・ジャドMaison Louis Jadotのジャック・ラルディエールJacques Lardière、ドメーヌ・デュ・コント・リジェ=ベレールDomaine du Comte Liger-Belairのルイ=ミシェル・リジェ=ベレールLouis-Michel Liger-Belair、ドメーヌ・メオ=カミュゼDomaine Méo-Camuzetのジャン=ニコラス・メオ Jean-Nicolas Méoのほか、カリフォルニア州のワイン商、ケンドール・ジャクソンKendall Jackson、オーストラリアのペタルマPetalumeのワイン・メーカー、ブライアン・クローザーBrian Closerら、何人ものパイオニアがオレゴン州で偉大なワイン造りを始めることとなったわけだ。

米国で最もなじみ深いチーズの産地

オレゴン州は山や海の幸に富む。太平洋沿岸には幾つものフィッシュ・マーケットやレストランがあり、とれたてのシーフードを提供してくれる。また、西海岸にあるティラモックTillamookは、チーズの生産で有名な街で、町の名前がチーズのブランド名になっている。創業100年を迎え、米国全土にチーズを毎日出荷しているという、米国で一番有名なチーズ・ブランドだ。同工場はチーズの博物館も併設、何種類もの試食チーズ(無料)が用意されている。オレゴン州を訪れる機会があったら、ピノ・ノワールの赤ワインとティラモックのチーズにトライしてみてほしい。

週刊ジャーニー No.1034(2018年5月10日)掲載

ミヨコ・スティーブンソン Miyoko Stevenson

WSETディプロマ取得。Circle of Wine Writers会員。Chevalier du Tastevin(利き酒騎士)団員。Jurade de St-Emilion団員。Ordre des Coteaux de Champagne団員。国際日本酒利き酒師。The Guild of Freemen of the City of London会員。ワイン関連の訳書・著書あり。現在、ロンドンでワイン教室を主宰。
www.miyokostevenson.co.uk
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