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徳川るり子の細腕感情記Ⅱ

何ゆえ、古い電車の車両は中からドアが開きませんの?


徳川るり子

愛するお父様へ

前文お許しくださいませ。

お父様、お変わりございませんでしょうか?

先週末、友人のジュリア嬢と一緒に、ウォリックシャーにあるウォリック城に行ってまいりました。中世に建造された大きなお城で、見張り塔から眺めるカントリーサイドの景色は本当に素晴らしく、とても気に入りました。

ただ、お父様、お聞きくださいませ。ロンドンのマリルボン駅からナショナル・レールでお城の最寄り駅まで向かったのですけれど、その電車の車両、なんとドアの内側に鍵や取っ手がなかったのです! 駅に到着し、いざ降りようとしたわたくしたちは、どうやってドアを開ければいいのかわからずオロオロ。どれほど目を凝らして探せども開閉ボタンのようなものは見当たらず、ドアを力いっぱい押してもビクともいたしません。困っておりますと、ドアの近くに座っていらした初老の男性が「ドアの窓ガラスを下ろしてごらんなさい。取っ手はドアの外側にありますよ」と親切に教えてくださいました。

どうやら、この電車はかなり古いタイプだったようで、ドアの窓ガラスをいったん引き下ろして手を出し、外から開ける仕組みだったのでございます! これまで何度もナショナル・レールを利用しておりますが、このような車両に出会ったのは初めてでした…。

雨の多い英国では濡れてしまうことも少なくなかったはずですのに、一体なぜ昔の電車は内側に取っ手を設けなかったのでしょう? 腑に落ちませんでしたので、調べてみることにいたしました。

ナショナル・レールに問い合わせてみましたものの、この車両を使っているご当人だというのに、残念ながらあまり要領を得ませんでした(おそらく回答をご存知なかったのでしょうね)。仕方なく教えてくださりそうな所を一生懸命探しましたところ、ヨークにある「国立鉄道博物館(National Railway Museum)」にたどり着きました。

同館のキュレーターの女性によりますと、ドアの外側に取っ手を設置したのは「安全性のため」とのこと。ドアにもたれかかっている時にふいに開いてしまったり、子どもが開けてしまったりする危険性を考慮したのだそうです。1970年代から電動のスライド式ドアを用いた車両に切り替えられていったそうですが、今回わたくしが乗ったような旧型も、まだ一部では走っているとおっしゃっていました。

また、彼女は「正式な文献が残っているわけではないのですが…」と前置きした上で、興味深いお話を聞かせてくださいました。昔、蒸気機関車が走りはじめた頃、客車として馬車の車体が用いられることもあったのだとか。馬車の場合、ドアの取っ手は外側についており、御者が外からドアを開けるのが一般的です。その形を踏襲して古い客車がつくられたためではないか、とのことでした。

少々不便な旧型車両ですが、英国の古き伝統を残すものだと思えば、致し方ない気がいたします。それでは今日はこのへんで。お母様にもよろしくお伝えくださいませませ。

かしこ
平成29年7月8日 るり子


とくがわ・るりこ◆ 横浜生まれのお嬢様。名門聖エリザベス女学院卒。元華族出身の26歳。あまりに甘やかされ過ぎたため、きわめてワガママかつ勝気、しかも好奇心(ヤジ馬根性)旺盛。その性格の矯正を画する父君の命により渡英。在英2年10ヵ月。ホームステイをしながら英語学校に通学中。『細腕感情記』(平成6年3月~平成13年1月連載)の筆者・徳川きりこ嬢の姪。

 

 
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