徳川るり子の細腕感情記Ⅱ

何ゆえ、持ち帰り用容器を「ドギーバッグ」と呼びますの?


徳川るり子

愛するお父様へ

前文お許しくださいませ。

お父様、いかがお過ごしでしょうか? 日本ではインフルエンザが大流行しているそうですね。ここ数年、風邪ひとつお召しになっておられないことを自慢なさっていた伯母様も、ついに寝込まれたとうかがいました。とても案じております。英国も寒い日が続いておりましたが、春への第一歩が来たとされる日「パンケーキ・デー」が、まもなくやってまいります(今年は2月28日です)。早く暖かくなることを願うばかりです。

さて今回も、新たに知りました事柄につきましてご報告いたしますね。

たまには珍しい料理に挑戦してみようと、友人と2人でペルシャ料理のレストランへ足を運んだときのことです。各皿の分量がわからなかったため、少々注文しすぎてしまい、どう頑張りましても食べきれないという事態に陥ってしまいました。とても美味しかったものですから、残すのを残念に思っておりましたところ、店員さんが「ドギーバッグをご用意いたしましょうか?」と声をかけてきたのです。しかし大変恥ずかしながら、わたくしには「ドギーバッグ」が何か検討もつきません。何やら犬を想像させる響きですけれど…と困惑したのですが、友人は躊躇いなく「お願いいたします」と笑顔で返答しているではありませんか! わたくしも慌てて微笑んで同意したものの(日本人の悪いクセでございますね…)、ドギーバッグとやらを目にするまで、一体何が登場するのかとヒヤヒヤしておりました。結局、ドギーバッグとは持ち帰り用の保存容器であることが判明し、ほっと胸を撫で下ろした次第です。

それにしましても、なぜ透明の保存容器のことをドギーバッグと呼ぶのでしょうか? 美しい響きとは思えないのですが…。気になりましたので、調べてみることにいたしました。

資料によりますと、「食べきれなかった料理を持ち帰る」という行為は、あまり品の良い行いとは見られていなかったようです。そのため、自分が食べるのではなく「自宅で飼っている犬(dog)に与える」という名目で持ち帰るようになったことから、こうした保存容器を通称「ドギーバッグ(doggy bag)」と呼ぶようになったのだとか。わたくしが最初に抱いたイメージ通り、やはり犬に関連した語でした。

後日、エドワーズ夫人にこの出来事を話しましたところ、「身内や親しい友達の家で使うのはいいけれど、レストランで『ドギーバッグ』と口に出すのはあまり感心しませんね」とのこと。かなりくだけた表現になるそうで、「持ち帰りたいのですが包んでいただけますか?」と丁寧に尋ねたほうがいいですよ、とアドバイスをいただきました。また、散歩中に犬の「落とし物」を入れる袋も通称「ドギーバッグ」と呼ばれることから、食べ物を入れる容器を同じ名称で呼んでしまうと、年配の方に眉をひそめられることもあるようです。

ペルシャ料理店の店員さんは、かの国出身らしき若い男性でしたので、現代的な表現を好まれたのかもしれませんね。わたくしは、なるべくドギーバッグと口に出さないよう気をつけたいと思います。

それでは今日はこのへんで。お母様にもよろしくお伝えくださいませませ。

かしこ
平成29年2月19日 るり子


とくがわ・るりこ◆ 横浜生まれのお嬢様。名門聖エリザベス女学院卒。元華族出身の26歳。あまりに甘やかされ過ぎたため、きわめてワガママかつ勝気、しかも好奇心(ヤジ馬根性)旺盛。その性格の矯正を画する父君の命により渡英。在英2年5ヵ月。ホームステイをしながら英語学校に通学中。『細腕感情記』(平成6年3月~平成13年1月連載)の筆者・徳川きりこ嬢の姪。

 

 

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