徳川るり子の細腕感情記Ⅱ
2015年6月04日
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何ゆえ、エリザベス女王は2度も
誕生日を祝いますの?

徳川るり子の細腕感情記Ⅱ
徳川るり子

愛するお父様へ

 前文お許しくださいませ。
 先日、ナショナル・ギャラリーで絵画展を楽しんだ後、「少し散策でもいたしましょうか」と、友人とセント・ジェームズ・パークに向かいました。ところが、バッキンガム宮殿からまっすぐのびる大通り「ザ・マル」が封鎖されており、パークへと渡ることができません。通り沿いには赤い上着と大きな黒い帽子を身につけた近衛兵が等間隔で立ち、柵の後ろにはカメラをかまえる人々の姿がチラホラ。「どなたか王室の方がお通りになるのかしら?」と好奇心を覚えたわたくしたちは、そのまま待ってみることにいたしました。
 すると、それほど間をおかずに近衛楽団が演奏する音楽が聴こえ、近衛歩兵や騎兵隊の隊列が行進してくるではありませんか! 隣で熱心に写真撮影していた男性に「これは何事でしょう?」と尋ねますと、「エリザベス女王の誕生日を祝う式典のリハーサルですよ」とのこと。ですが、女王陛下はすでに4月にお誕生日を迎えられたはず…。英語学校の授業で、誕生日を祝う新聞記事をたくさん読みましたので間違いございません。英国では君主の誕生日は2度祝うのでしょうか?
 不思議に思って調べてみますと、女王陛下には「実際の誕生日」と「公式の誕生日」の2つの誕生日があることがわかりました。実際の誕生日は1926年4月21日で、この日は王室ご一家だけでお祝いされるようです。
 一方、公式の誕生日は毎年6月の第2土曜日と決まっており、この日は王室ご一家のほか、英国の政財官各界の賓客を迎えて、「トゥルーピング・ザ・カラー(Trooping the Colour)」(軍旗敬礼分裂式)と呼ばれる式典が催されます。英王室軍による華麗な軍楽パレードが有名で、バッキンガム宮殿から式典の会場であるホースガーズ・パレードまで、式典の終了後には再びバッキンガム宮殿までを大行進します。女王陛下や王室ご一家の方々も馬車に乗って人々に手をふられるそうで、わたくしたちが目にしたのは、このパレードのリハーサルだったのでした。
 そもそも、なぜ「実際の誕生日」と「公式の誕生日」などと2日に分けているのでしょう?
 いくつか資料をあたりましたところ、17世紀のチャールズ2世の時代に、国威を示すために始められた国王誕生日の祝賀パレードが起源と考えられているようです(チャールズ2世の誕生日は5月29日です)。
 その後、1748年のジョージ2世の時代に、君主の公式誕生日は6月の第2土曜日と定められ、この日にパレードを行うことが伝統となりました。ちなみに、6月が選ばれたのは「晴天になる確率が高いため」といわれており、11月生まれだったジョージ2世は雨天の祝賀パレードが我慢ならなかったのかもしれません。
 今年の「トゥルーピング・ザ・カラー」は6月13日に開催されます。せっかくの機会ですので、早起きして女王陛下の89歳(!)のお誕生日を、沿道でお祝いしたいと思っております。
 それでは今日はこのへんで。お母様にもよろしくお伝えくださいませませ。

かしこ 
平成27年6月2日 るり子

徳川るり子の細腕感情記Ⅱ

とくがわ・るりこ◆ 横浜生まれのお嬢様。名門聖エリザベス女学院卒。元華族出身の24歳。あまりに甘やかされ過ぎたため、きわめてワガママかつ勝気、しかも好奇心(ヤジ馬根性)旺盛。その性格の矯正を画する父君の命により渡英。在英8ヵ月。ホームステイをしながら英語学校に通学中。『細腕感情記』(平成6年3月~平成13年1月連載)の筆者・徳川きりこ嬢の姪。

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