徳川るり子の細腕感情記Ⅱ
2015年5月7日
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何ゆえ、フォークの背にライスをのせますの?

徳川るり子の細腕感情記Ⅱ
徳川るり子

愛するお父様へ

 前文お許しくださいませ。
 5月となり、若葉の瑞々しい緑色が目に眩しい季節となりました。ようやく訪れた春を満喫しようと、週末にケンジントンガーデンを散歩したのですが、シャーロット王女のご誕生を祝う人々や報道の方々で、ケンジントン宮殿周辺は大変賑わっておりました。お父様は、ゴールデンウィークをどうお過ごしになられたのでしょうか?
 さて、今回はテーブルマナーにまつわるお話をご報告いたします。先日、エドワーズご夫妻の娘さんのご一家が遊びにいらっしゃいました。一人娘のサラさんには、10歳の女の子ソフィーちゃんと7歳の男の子ニックくんがあり、2人とも元気いっぱいです。わたくしはみなさまに手料理をふるまいたいと思い、子供も食べやすいハンバーグを思い切ってつくりました。少々時間がかかってしまいましたが、どうにか美味しそうに出来上がり、ソフィーちゃんとニックくんも喜んで完食してくれました。
 ただ、その食事の席でテーブルマナーについて驚くべき指摘を受けたのです。わたくしがナイフを使ってフォークの背にライスをのせて口に運んでおりますと、サラさんがわたくしを凝視しているのに気が付きました。「どうかなさいました?」と尋ねますと、サラさんは不思議そうな表情で「なぜフォークの背にライスをのせて召し上がるの?」とひとこと。幼少時からしつけられた洋食をいただく際のマナーだと説明いたしましたら、「そうしたマナーは見たことないわ」と驚いていました。これは一体どういうことでしょう。日本で学ぶ洋食のテーブルマナーは英国では通用しないのでしょうか? 調べてみることにいたしました。
 英国でもたくさんの「マナー本」が出版されており、それらに目を通したところ、英国でフォークとナイフを使った食事が定着したのは18世紀のこと。それまでは肉類はナイフで切りながら、主に手づかみで食べていたそうです。また、「正式」とされるテーブルマナーも、時代とともに変化していることがわかりました。とくに最近は料理の国際化が進んでいることもあり、ライスなど英国の食生活になかった食材の食べ方については、「これが正しいテーブルマナー」と一概に言いきれないようでした。
 ただし、ある本の記述によりますと、マッシュポテトのほか、グリーンピースなど小さな野菜類を食べるときに、フォークを裏返してナイフでその背に軽く押しつけるようにして食べ物をのせ、少しずつ口に運ぶのが「中上流階級」。一方、スプーンのようにフォークですくって食べるのは「労働者階級」とか。日本に洋食文化が入ってきたとき、ライスと形状の近い豆類における中上流階級の作法を日本人は応用し、「フォークの背にライスをのせる」というマナーが生まれた模様です。
 ただ、英国で供されるライスは日本のものほど粘り気がありませんので、フォークの背にのせて口元に運ぶのは容易でありません。ですので、中上流階級でもライスをすくって食べる人は珍しくないため、近年は日本でもフォークの背にのせるのは『時代遅れのマナー』になりつつあるそうです! 英国に来て日本を知る、まさに目からうろこが落ちた気がしました。それでは今日はこのへんで。お母様にもよろしくお伝えくださいませませ。

かしこ 
平成27年5月5日 るり子

徳川るり子の細腕感情記Ⅱ

とくがわ・るりこ◆ 横浜生まれのお嬢様。名門聖エリザベス女学院卒。元華族出身の24歳。あまりに甘やかされ過ぎたため、きわめてワガママかつ勝気、しかも好奇心(ヤジ馬根性)旺盛。その性格の矯正を画する父君の命により渡英。在英7ヵ月。ホームステイをしながら英語学校に通学中。『細腕感情記』(平成6年3月~平成13年1月連載)の筆者・徳川きりこ嬢の姪。

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