
■ 第220話 ■サービスチャージ、何だかなー
▶脱線もう1週。7月1日からイギリス全土でホスピタリティ業界のチップ分配に関する新法が施行される。飲食店等では客にサービスチャージ名目で飲食代の12.5%前後を上乗せ請求する店が増えた。新法はこの上乗せ分を100%従業員のものとするよう義務付けるものだ。これによって経営側がサービスチャージを店の収入とすることが出来なくなる。なので今、サービスチャージを別名目に変更するなど新法逃れの動きが活発化している。飲食代に上乗せされる際の名称が変わるだけなので客にとってはさほど変化はない。
▶本誌では1990年代中頃からレストラン取材が始まった。当時は月刊で取材も月に一度。バブルの残り香も手伝って今より高級な店に潜入していた。どこも給仕スタッフの教育が行き届いていた。高級店はテーブルにワインを置かない。ソムリエ等が一括管理し目を配り、絶妙なタイミングでワインを注いでくれる。中座して戻ってくるとナプキンが綺麗に畳まれている。料理に関する知識も豊富。そういう給仕のプロたちがウジャウジャいた。
▶フランスにはギャルソンという職業がある。カフェ等で給仕を専門とする男性のことで女性はセルヴァーズ。それぞれ担当テーブルがあり、各自常連客を抱える。客のワインや食事の好みに精通し、サーブするタイミングから灰皿を置く位置等にも神経を使う給仕のプロだ。固定給はなく担当客の飲食代の15%程度とチップが全てと言うから楽じゃない。かつては生涯の職とする人が多かったが、昨今ギャルソンはフランスでも絶滅危惧職らしい。18世紀、英国のコーヒーハウスではサービスを早く受けたい人用に「To insure Promptness(より迅速なサービスのために)」と書かれた箱が置かれていてその頭文字からTIPになったとする説がある。アメリカでは今もチップが主流だ。チップとの合算なので最低賃金激安。いいサービスを提供すればチップの額が増える。だからみんな張り切って給仕する。

▶ロンドンのレストランではいつからかサービスチャージが上乗せされるようになった。初めてそれに気づいたのは90年代後半だった。メニューに小さく「12.5%のサービス料を提案します」と書かれていた。ただし良質なサービスを提供する高級店限定だった。それなりのサービスを受けていたので受け入れた。ところが近年「こりゃいいや!」ってんでサービスチャージの概念だけが下々の世界に舞い降りて来た。単語は提案から任意に変わったが実態はほぼ強制。EU離脱で人材確保大苦戦。ロックダウンや戦争、異常気象によるインフレで食材爆上がり。飲食店も苦しいだろうが相次ぐ値上げで客側もツライ。サービスチャージも払えと言うから払う。ただ相応のサービスを提供してくれないか。運んで来るだけならアマゾンと変わらない。
▶最近これに加えカード決済時に「心付け(gratuity=チップ)」を求める店も出て来た。チップの二重取り。二度と行かない。なんか最近のロンドン「金、カネ、かね」でおもてなしの本質を見失っていないか。拝金主義の世界では心も荒(すさ)ぶ。レストランの語源は「回復させる」。都会で疲弊した労働者たちの心身を滋養ある食べ物で癒し回復させた。なのに最近、支払い段階で「疲弊」させられることが多いぞ、と愚痴りながら次号に続く。チャンネルはそのままだ。読んだらサービスチャージと心付け、置いて行きなー!ここも荒んできた。
週刊ジャーニー No.1342(2024年5月16日)掲載
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