
■ 第217話 ■妻700人、側室300人
▶ダビデの子ソロモンがイスラエル王国第3代国王となった。ソロモンには武将としての勇猛さに加えて国を治めるのに必要な知性が備わっていた。イスラエルは大いに発展した。旧約聖書によるとソロモンには妻が700人、側室が300人いた。今なら愛人1人でもヤバい。バレたらもっとヤバい。ソロモンには何の恩義もないが一応擁護する。彼が生きた世界では戦闘で死んだ家臣の未亡人の面倒をみるのも上の者の役割。ダビデは家臣の嫁バト・シェバを妊娠させ、困った挙句にその亭主を危険な戦場に送って戦死させた。神の怒りを買い、バト・シェバが産んだ子は生まれてすぐに死んだ。ダビデは未亡人となったバト・シェバを妻の1人として迎え、次に出来た子がソロモンだ。他にも旧約聖書には長男が妻との間に子を残さぬまま死んだ場合、弟が兄嫁を引き受ける制度があった。レビレート婚という。長兄の嫁と弟の間に生まれた子は長男の子として育てられ家督を継ぐ。家父長制とはそれほど絶対的なものだったらしい。
▶ちなみに。ダビデの母方の先祖にオナンという若者がいた。長兄が子を残さずに死んだためしきたり通り兄嫁と子作りに励むよう言われたオナン。「どうせ兄貴の子として扱われるんだろう。そんなの御免だぜ」と考え、直前に兄嫁から離れ大地に向かって射精した。神に逆らった罪でオナンは後日、非業の死を遂げる。賢い読者はお気づきだろう。やり方に違いはあるが子種を無駄にするオナンの行為は後にオナニーの語源となった。「子どもも読んでいるのに不適切だ」と怒られるかもしれないが子どもも読んでいる旧約聖書に出て来るお話。ユダヤ教やキリスト教が自慰行為に厳しいのはオナンの挿話によるところが大きい。以上で本稿はようやく「旧約聖書」から脱する。昨年11月、ユダヤ教やキリスト教を語るにあたり彼らの正典である「旧約聖書」を1ページもめくらないのはどうよ、と思って始めた旧約聖書への旅。気づけば5ヵ月にも及んでしまった。ここからは歴史だ。

▶紀元前10世紀、ソロモン王はエルサレムに7年の歳月をかけて立派な神殿を建設した。神殿奥にはモーセがシナイ山から持ち帰った十戒の石板が納められた。この神殿は紀元前597年、攻め入って来た新バビロニアによって破壊された。その新バビロニアもペルシャに滅ぼされた。バビロンに囚われていたユダヤ人たちも解放され50年ぶりにパレスチナに帰還。破壊された神殿跡に新たな神殿を再建した。これが第2神殿だ。平和は永続しない。紀元前6世紀になるとローマ帝国がやって来てユダヤ人の王国はその属国とされた。
▶それから100年ほど経ったAD66年。ローマによる過酷な支配にブチ切れたユダヤ人たちによる激しい反ローマ闘争はユダヤ戦争に発展した。戦闘は約8年も続いたが最終的にローマ軍の勝利で終わった。この際、第2神殿も破壊された。わずかに残った壁は後に「嘆きの壁」と呼ばれるようになった。それから50年ほど経ったAD131年、再びユダヤ人の反ローマ闘争が激化、第2次ユダヤ戦争が勃発。4年後、ローマ軍がエルサレムを包囲し徹底的に破壊。その後、ユダヤ人はエルサレム市街地への立ち入りを一切禁じられた。祖国を失ったユダヤ人は新天地を求めて散り散りとなる。これがユダヤ人を強靭にする「ディアスポラ(離散)」だ、ってなこって次号に続くぜ。チャンネルはそのままだ。
参考:阿刀田高著「旧約聖書を知っていますか」他
週刊ジャーニー No.1339(2024年4月25日)掲載
他のグダグダ雑記帳を読む