■ 第216話 ■ダビデ、部下に叱られる
▶有能な家臣ウリヤの嫁バト・シェバを、亭主の出陣中に手籠めにして妊娠させた上、ウリヤを危険な戦場に送ってわざと戦死させたダビデ。立派なろくでなしだ。神も自身が選んだ男が「ヤベエ奴」と気づいたのかダビデに2つの罰を与えた。一つ目としてバト・シェバが産んだダビデの子の命をすぐに奪った。続いて神はダビデに血で血を洗う家庭内抗争を仕向けた。ダビデには19人の男児がいたが長男アムノンが異母妹のタマルに手を出した。近親相姦だ。これに怒ったのがタマルと母を同じくする三男アブサロムだ。アブサロムは兄アムノンを殺害した。ダビデは19人の息子の中でとりわけ美しいアブサロムを溺愛した。親に溺愛された子は大体わがままに育つ。兄弟間での殺人。ダビデは頭を抱えた。そんな父親の苦悩も知らずアブサロムは「やべえ、このままだと親父に殺されちまう」と思い込んだ。そしてエルサレムを脱出して南の町ヘブロンに行き、勝手に王位を宣言した。さらに近隣諸国の王を味方に引き入れ父王ダビデを討とうと企てる。まるで本能寺。
▶父と子の激突の瞬間が近づく。どちらかは死なねばならない。ところがダビデは部下たちに「アブサロムは殺しちゃダメ」とお触れを出す。主君に対して謀反を起こした大罪人を成敗するための戦いなのに「他は全員ぶっ殺してもいいけど、アブサロムは殺すな」と言う。追討軍の兵士たちはボー然。そういう状況下で戦闘が始まった。両軍ともに多くの兵が失われた。アホな親子の争いに巻き込まれて大勢のイスラエル人が命を落とした。戦況はやがてダビデ有利に傾いた。敗走したアブサロムは木の枝に長い髪を絡ませて宙吊りになっているところを見つかり、その場で串刺しにされて死んだ。謀反は両軍に多大な犠牲を強いたが、ダビデ軍の勝利に終わった。
▶ところがダビデは勝利の雄叫びをあげるどころか「あれほどアブサロムを殺してはならんと言ったのに。可哀そうに、代われるものなら代わってやりたい」と部下の前でヨヨと泣いた。満身創痍の部下たちは呆れて泣いた。良識ある側近が歩を進めダビデに説教した。「あなた方親子の喧嘩に巻き込まれて命を落とした家臣たちのことをお考えなさい。あなたはあなたを憎む者を愛し、あなたを愛する者を憎むのですか?あなたの兵が皆倒れ、アブサロム一人が生き残っていたらあなたは喜ぶのですか。さあ、立ち上がって家臣たちを労いなさい。でなければ今夜、あなたと共に夜を過ごす家臣は一人もおりませんぞ。それこそあなたが経験して来た災いよりも遥かに大きな災いとなりましょう」。ああ、イスラエルにも立派な人がいる。ネタニヤフ首相のそばにはこんな立派な参謀、いないみたい。
▶側近から説教され、ダビデはようやく「良き為政者とは何か」を悟った。若き日の過ちは誰にでもある。皆こうして立派な大人に…いやいやいや、この時ダビデ70歳過ぎのおジイ。いい年して忠実な家臣の嫁を孕ました上にその家臣をわざと危険な戦場に送り込んで戦死させ、謀反を起こした息子の死を嘆き、息子を仕留めた部下たち叱責。リーダー失格だ。側近の一言で改心したというダビデ。悲しみの中で未亡人バト・シェバを嫁チームに加えて好きなだけ抱いた。バト・シェバ再び妊娠。そして男児を産んだ。後にイスラエル王国最強王となるソロモンの誕生だってなあたりで次号に続く。チャンネルはそのままだ。
参考:阿刀田高著「旧約聖書を知っていますか」他
週刊ジャーニー No.1338(2024年4月18日)掲載
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