■ 第214話 ■ダビデ、ろくでなし説
▶随分前にパレスチナの巨人ゴリアテを倒した少年ダビデに言及した。ダビデはイスラエル王国2代目の王。その子ソロモンの時に王国は栄華を極めた。イスラエル国旗の中央に置かれた六芒星(ろくぼうせい)は別名ダビデの星と呼ばれる。実際にはダビデ王とは無関係と言われるが、ミケランジェロ作のダビデ像とも相まってダビデは何となく立派な人物だったという印象がある。しかしダビデにはもう一つの「ろくでもない」顔がある。
▶イスラエル人の国ができてしばらく国王は存在しなかった。ある日、国民が預言者サムエルに「パレスチナや周辺国には強い王様がいます。うちも王様が欲しいです」と訴えた。サムエルは「うちには誰よりも強い唯一神がついている。それで良いではないか。だいたい王など置いたらお前たちはその王の奴隷にされちまうぞ」と警告した。それでも国民は納得しない。何度も何度も「王様欲しい」と訴えた。サムエルは神に相談した。神は「やってみなはれ」と答えた。そこでサムエルはサウルという若者を選び、この男に油を注いだ。戴冠の儀式だ。サウルがイスラエル王国の初代国王となった。初めの頃は外敵を破り、国土を拡大するなど割と良い国王ぶりを発揮したが、次第に驕り高ぶるようになり、神をないがしろにするようになった。サムエルはサウルを選んだことを後悔した。再び神に「どうしたもんでしょ」と相談すると神は「ベツレヘムに行ってエッサイという男の家を訪ねなさい。息子たちの中に王に相応しい男がいる」と告げた。あの~神様、だったらサウルを選ぶ前に言っても良かったかも。
▶サムエルはエッサイの家を訪れた。エッサイには7人の息子がいた。その中の最年少の小僧で羊の番をしていたのがダビデだ。会ってみると聡明そうで凛々しい顔つきの少年。サムエルはダビデに油を注いだ。サウルの時もそうだったけど、こんなあっさり面接で王様決めちゃっていいの? サウル選択失敗の教訓は活かさないの? 初代国王サウルが存命中だというのにダビデにも油注いじゃっていいの? 少年ダビデが巨人ゴリアテをぶっ倒すのはこの辺りのお話。「旧約聖書」は時系列も物語も矛盾に満ち溢れているが、それを深く追求して突っ込むとバチが当たるシステム。
▶ゴリアテの首を持って帰ったダビデ少年をサウル王は「ようやった」と褒め、そのまま召し抱えた。時が経ちダビデは美しい若者に成長して次々と武勲を上げ、最も頼りになる武将となった。民衆も「ダビデ様~」と熱狂。なかなかのイケメンだったもんだから宮廷の女も町娘もキャーキャー。その様子を苦々しい表情で見詰める男がいた。サウルだ。ダビデ人気を疎ましく思ったサウル王はダビデを殺すことにした。用心深いダビデは周囲や友人の助言もあって暗殺の危機を何度も回避した。やがて「ダビデを殺せ」がサウルの口癖となった。そんな中、自分の行く末が不安になったサウルは遂に嫉妬深いイスラエルの神様が最も嫌がる禁断の浮気、つまり異教の習慣である霊媒にすがった。これに激怒した神はサウルを見捨てて去って行った。そして起こったパレスチナ人との戦争。神の後ろ盾を失いサウルの息子3人も戦死した。最期を悟ったサウルは自らの剣の上に倒れ込んで自死した。初代王が去りダビデ戴冠。イスラエル王国2代目の王となったダビデの大暴走が始まる、ってな辺りで次号に続く。チャンネルはそのままだ。
参考:阿刀田高著「旧約聖書を知っていますか」他
週刊ジャーニー No.1336(2024年4月4日)掲載
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