■ 第212話 ■犯人は(くじ引きで)お前だ!
▶ヨシュアたちイスラエル人はついに約束の地カナン(現パレスチナ)に入り、これをほぼ制圧したと先号で語った。実は先を急ぐあまりすっ飛ばした話がある。「この部分をすっ飛ばすとユダヤ教の本質を見失うかもよ」と誰かが後ろ髪を引く。後ろ髪引かれるの、昔から弱い。なので少しだけ時計の針を戻す。エリコという町を滅ぼした後、ヨシュアらイスラエル人は次にアイという隣町を包囲した。エリコ同様スパイを送り込んで町の様子を探らせた。戻ったスパイらは「敵の軍勢、恐れるに足らず。全軍出動は無用。2~3,000人もいれば我が軍の勝利、疑いなし」と報告した。ところがアイは周到な準備を整えてイスラエル人たちを待ち構えていた。攻め込んだイスラエル軍はかなりの痛手を負って逃げ帰った。ヨシュアは「神様、話が違うじゃないですか」と訴えた。いや、責められるべきは敵の戦力を侮ったスパイとそれを真に受けたあんた。ほら、神様もお怒りだ。「馬鹿モン。戦地で略奪をしちゃいかんと言ったのに、貴様らの中に略奪を働いた不届き者がおったんじゃ」。
▶驚いたヨシュア。「あれほど略奪を禁じたのに。裏切り者は一体誰だ」。てなこって早速犯人探しが始まった。敗走の原因は敵をなめてかかったことで略奪は無関係なのに。さて、どうやって犯人を捜すのか。「くじ引きだ」。さすが後のユダヤ人。合理的だ。この当時、イスラエル人には12の部族があった。ヤコブ12人の子たちの末裔だ。まず12部族の長(おさ)たちがくじを引いた。ユダ族がアタリくじを引いた。ユダ族もまたいくつかの氏族に分かれている。今度は氏族の長たちがくじを引いた。ゼラ族の長がアタリを引いた。ゼラ族は数家族から成っていた。それぞれの家長がくじを引いた。ザブディ家が当たった。最後にザブディ家の男子たちがくじを引いた。アカンという男がアタリを引いた。これで犯人はアカンに決定した。ヨシュアがアカンに「やったのはお前か」と迫るとアカンは「やりました」と認めてうなだれた。くじ引きだったけど、一発で犯人に辿り着いちゃった。素晴らしいシステムだ。ぜひ日本の警察も捜査にくじびきを採用するが良い。
▶アカンに死刑が宣告された。アカンだけじゃない。アカンの家族もろともだ。アカンたちは下半身を土中に埋められ、身動きが取れない状態とされた。全イスラエル人がアカンや妻子目がけて石を投げつけ、全員を惨殺した。これは「石打ち」という処刑法で今もイランやアフガニスタン、北部アフリカのイスラム教国で行われている処刑法だ。数ある処刑法の中でも最も苦痛が伴うと言われている。
▶アカン一家を見せしめに公開処刑したことでイスラエル人は引き締まり、再度アイの町を総攻撃して壊滅させた。最初の攻撃でアイに苦戦したのはスパイが敵の戦力を過小評価したのが原因だ。その報告を鵜吞みにしたヨシュアの責任も大きい。しかしヨシュアは「話が違う」と神様に責任転嫁。その挙句、神様にキレられ別件の略奪犯捜査に没頭。そして恐らくみんな大なり小なりやっていた略奪の罪をくじ引きでアカン一人に押し付け一罰百戒。皆で石投げ、一家惨殺。これ、どう解釈したらいいの? 売れない三文小説家の作品ではない。あくまでも「旧約聖書」に登場する一節だ。彼らの神様はイスラエル人に一体何を教えようとしているの? 全然分からないまま次号に続く。チャンネルはそのままだ。
参考:阿刀田高著「旧約聖書を知っていますか」他
週刊ジャーニー No.1334(2024年3月21日)掲載
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