■ 第210話 ■偶像崇拝した奴、全員アウト~
▶海をパッカリ割ってエジプト軍の追手から逃れたヤコブの子孫たち。しかし神から与えられた約束の地カナン(現パレスチナ)までの道のりは遠く険しい。モーセは神の啓示を求めて再びシナイ山を目指した。エジプトを出発してから既に3ヵ月が経っていた。人々を麓に残しモーセは山頂に登った。雷鳴轟き、稲妻走り、火柱が立ち、もうもうとした煙に包まれた。神の登場だ。神はモーセに十の戒めを説いた。1)私以外の神を神としちゃダメ。2)偶像を崇拝しちゃダメ。3)私の名をみだりに唱えちゃダメ。4)週の7日目を安息日とせよ。5)父母を敬え。6)殺しちゃダメ。7)姦淫しちゃダメ。8)盗んじゃダメ。9)偽証しちゃダメ。10)隣人の家や妻や家畜などを欲しがっちゃダメ。「十戒」だ。ちなみに偶像崇拝を認めたカトリック教の十戒からは2)の「偶像崇拝しちゃダメ」が消え1個減った分、10)が2つに分かれて9)隣人の妻を欲しちゃダメ、10)隣人の財産を欲しちゃダメの変形十戒になっている。
▶神は十戒を石板に刻んだ。十戒以外にも「神との契約」の授業は続いた。モーセが山頂を目指してから40日が過ぎていた。麓で待っていた人々は「モーセ様、どうしちまったんだろう。雷に打たれちゃったのかな」「いくら何でも遅すぎる」と囁き合った。誰ともなく言い出した。「こんな時は何か、拝むモノがあった方がいいんじゃないか? ほら、エジプト人は動物の像とか石碑作ってみんな拝んでいたじゃん」「お前賢いな。そうしよう」ということになり、ゴールドで雄牛の像を作った。そして皆「これが俺たちの神様だ」と言って一斉に拝み始めた。
▶そこに山頂での集中講義を終えたモーセが十戒の刻まれた石板を抱えて下山して来た。人々が金の雄牛を囲んで祈祷する様子を見たモーセは「何てこった。あれほど偶像を崇拝しちゃダメって言ったのに。しかも儀式は異教徒的。お前たちはまだ我々の神を信用できないのか」とブチギレ。苦労して手に入れた十戒の石板をぶん投げ、金の雄牛を火の中にくべた。モーセの怒りはまだ収まらない。「お前たち、剣を取れ。偶像を拝んだヤツは皆殺しだ。兄は弟を殺せ。弟は兄を殺せ。友は友を、隣人は隣人を殺せ。容赦するな。皆殺せ!」。この日、モーセの命によって3千人が殺された。あの~、十戒の6番目に「殺しちゃダメ」って書いてありますけど、どうなりました? アブラハムの子孫たちは実によく人を殺す。翌日、モーセは「お前たちは大きな罪を犯した。私は今一度山に登り、神の許しを請い、どうしたらこの罪を贖えるか神に聞いて来る」と言い残し、再び山頂を目指した。十戒の再発行ってやってもらえる? やってくれた。神様案外いい人。モーセは再発行された石板を大事に抱えて山を下りた。
▶一行はいよいよカナンの地を目指した。カナンが目の前に迫った時、モーセは偵察隊を送り込んだ。戻った偵察隊は「確かに乳と蜜が流れる豊潤な土地だけど住人は皆、でかくて強そうだった」と報告した。それを聞いた人々は「え~無理。怖い。やめようよ」と怯んだ。すると再び神出現。「情けない。まだ私の言葉が信じられんのか」と大激怒。罰としてイスラエル人はその後、40年間も荒野を彷徨う羽目となった。躊躇の罰が荒野放浪40年。相変わらず罪と罰のバランスが悪過ぎるまま次号に続く。チャンネルはそのままだ。
参考:阿刀田高著「旧約聖書を知っていますか」他
週刊ジャーニー No.1332(2024年3月7日)掲載
他のグダグダ雑記帳を読む