■ 第207話 ■なんか、最後はみんないい奴

▶凶作で窮地に陥ったヨセフの兄弟たちがカナンの地からエジプトに食料を求めてやって来た。ヨセフは12人兄弟の11番目。生意気に育ったヨセフは兄たちにボコボコにされた上、エジプトに売り飛ばされた。エジプトにやって来たのは12人兄弟のうちの10人。一人足りない。誰がいない？ ヤコブが溺愛したのはヨセフと12男のベニヤミンのみ。どちらも最愛の妻ラケルが産んだ子だ。ヨセフを失ったヤコブの愛情は一気にベニヤミンに向かった。ヤコブは可愛いベニヤミンをエジプトへの旅に出さず、自分のそばに置いた。

▶ヤコブという男、父イサクや兄エサウを欺いて神の祝福を横取りした小賢しい男。ラケルの産んだヨセフだけを溺愛したことで兄弟間の不和を生み、結局ヨセフを失った。ところが全く反省することもなく今度はベニヤミンを溺愛。人間性に多大な問題を抱えているヤコブだが、そんな男を神は選び、「イスラ・エル」の名を与えたと旧約聖書は教えている。一体ユダヤ教は何を伝えたがっているの？ エジプトに到着した兄弟10人。エジプトのNo２である宰相に出世したヨセフとの謁見が叶った。ヨセフはすぐに男たちが20年前、自分を売り飛ばした兄たちだと気づいたが兄たちは宰相がヨセフであると気づかずにひれ伏した。ヨセフは正体を明かさず兄たちをスパイ容疑で逮捕し、牢屋にぶち込んだ。

▶牢屋の中で兄弟たちは話し合った。「これはかつてヨセフを袋叩きにして売り飛ばしたことへの報いなんじゃないか」「俺たちに降りかかった災いは俺たち自身の罪が原因なんだ」。ついに聖書らしさが顔を出した。これこそがヨセフが兄たちに求めていたものだった。真の和解を得て家族の絆を取り戻すため、兄弟たちの胸の内を試した。罪の自覚を持たない者には赦しも福音も届かない。自分の身に起こっている災いの根源は全て自分自身の内側にある問題なのだと旧約聖書は教える。ユダヤ人は災いが降りかかる度に「自分の信仰が足りなかったからだ」と自分を責め、さらに信仰心を強めていくと言われている。

▶ヨセフは兄たちに「国に置いて来たもう一人の弟をここへ連れて来い」と命じた。長男のシメオンが人質に取られ、残りの9人はヤコブの元へと帰った。父に事の顛末を話し、ベニヤミンを連れてエジプトに行くと告げるとヤコブは「罠だ。可愛いベニヤミンが殺される」と言って猛反対した。シメオン見殺し。すると兄弟たちは「ベニヤミンは私の命に代えても連れて帰ります」「ベニヤミンに何かあったら私の2人の息子の命を差し上げる」と迫り、ヤコブを説得する。なんか兄弟みんな、急にいい人になっていて気色悪い。

▶ベニヤミンと10人の兄弟たちはエジプトに戻った。ヨセフは遂にその正体を明らかにする。驚き、平伏する兄たちにヨセフは「父さんも連れて来てくれ。ここで一緒に暮らそう」と告げる。ヤコブも食料不足が続く約束の地カナンを離れる決意をし、エジプトにやって来た。この時ヤコブ130歳。その後17年間をエジプトで過ごし、家族に見守られながら逝った。享年147。祖父アブラハム（175歳）、父イサク（180歳）と比べてかなり若死にだった。「旧約聖書」の創世記はここで終わる。もう飽きちゃっただろうけど、あと少しだけ次章「出エジプト記」をつまみ食いして「旧約聖書」に別れを告げるから我慢だ。チャンネルは、変えていいんだぜ。

参考：阿刀田高著「旧約聖書を知っていますか」他　

週刊ジャーニー No.1329（2024年2月15日）掲載