
■ 第206話 ■奴隷から「んなアホな」的大出世
▶若く美しく賢いヨセフに魅了された侍従長の妻。ヨセフの服を掴み「いらっしゃいってば」と強引にベッドに引き込もうとした。「奥様、いけません」。そう言ってヨセフは侍従長の妻を振り切って逃げた。不同意性交。今なら文春が黙っちゃいない。侍従長の妻、立場を利用して過去にもこのようなことをしてきたのかもしれない。予期せぬ奴隷の拒絶にプライドズタズタ。「おのれ奴隷の分際で。誰か、誰かおらぬか。ヨセフが強引にわらわを…」と叫んだ。ちょうどその時、侍従長が帰宅した。妻はヨセフから剥ぎ取った服を夫に見せ「あの奴隷が私を犯そうとしたのよ。すごい力で強引に。怖かった~ん」と嘘泣き舌ペロで訴えた。怖いのはあんた。ところがこれを真に受けた侍従長、「貴様、格別に可愛がってやったのに!」とブチギレ。ヨセフを捕らえると問答無用で監獄送りとした。
▶ところがヨセフ。檻の中でもその優れた資質が認められ監獄の管理人に出世。さらにヨセフ得意の夢占いが実によく当たると評判になった。やがてその噂はファラオ(王)の耳にも届いた。ファラオはヨセフを宮廷に召し出して尋ねた。「実はな、ここのところ気になる夢を見続けている。よく肥えた7頭の雌牛が川から上がって来て草を食べていた。すると今度は瘦せ細った醜い7頭の雌牛が川から上がって来て、肥えた7頭を襲ってこれを食っちまった。草食動物のくせに」。ファラオは続けた。「まだある。よく実った7つの穂が一本の茎から出て来た。ところがあとから実の入っていない7本の穂が生え出し、実の入っている穂を飲み込んだのだ」。そう言うとファラオはヨセフに「これは何かの暗示ではないのか。こう見えて気になると夜も眠れなくなっちゃう性格なのよ」と打ち明けた。

▶ヨセフは答えた。「よく肥えた7頭の雌牛もよく実った7つの穂も、これから7年間の大豊作を意味するものです。あとからやってくる7頭の痩せた雌牛と実のない7本の穂はその後にやってくる7年間の大凶作のことです」。ファラオはヨセフに顔を近づけて言った。「どうすればよい」。ヨセフは咳を一つしてからゆっくりと答えた。「豊作の間に食糧をしっかり貯えるのです。そうすれば飢饉の時にこそ国がより発展する大チャンスとなりましょう。そのためには有能な人材を適所に配置すべきかと」。ファラオはヨハネにすがるようにして言った。「その大役、お前が引き受けてくれるか?」。ヨハネは「いいでしょう」と二つ返事でこれを快諾した。夢占いだけで監獄からエジプトの災害対策委員会トップへと大出世。創世記はもう漫画の世界。
▶ヨハネの夢占いの通り、それから大変な大豊作が7年続いた。その後、大凶作が7年続いたがエジプトには潤沢な貯えがあったため難なくこれを乗り越えた。それどころか余った食料を他国に売り、エジプトの国庫もファラオの懐も大いに潤いウッシッシ。ヨセフは災害対策委員会トップ以外、国家財政向上委員会のトップとしても大活躍。ファラオはすっかりヨセフを信頼し宰相に昇格させ、パネアという名と祭司の娘アセトナを妻として与えた。一方ヨハネの父ヤコブや兄弟たちがいるカナンの地は相変わらず凶作が続き、食べるものにも苦労していた。そしてかつてヨハネを隊商に売り飛ばした兄弟たちが食べ物を求めてエジプトへとやって来る。波乱の予感の中、次号に続く。チャンネルはそのまま。
参考:阿刀田高著「旧約聖書を知っていますか」他