
■ 第202話 ■ 昼は馬車馬、夜は種馬
▶新婚初夜、ヤコブが暗闇の寝室で抱いたのは姉のレアだった。7年間も額に汗して牧場を大発展させた甥のヤコブを伯父のラバンは欺いた。美人の妹ラケルと信じてそうでもない方の姉レアを抱いてしまったヤコブ。「話が違う」と伯父に詰め寄った。ラバンは「ごめ~ん。この辺りの風習で姉より先に妹を嫁がせる訳にはいかんのよ。そうだ、こうしよう。あと1週間だけレアと寝てくれ。そうしたら約束通り妹のラケルもお前のものだ。ただしもう7年、しっかり働いてくれよ」。
▶妙案っぽく言っているけどこれ、ラバンだけに都合がいい「抱き合わせ商法」。さらに追加7年の労役。姉のレアも怒っていいのに怒らない。だって娘は父の所有物で人権なし。この滅茶苦茶な申し出をヤコブは断るかと思いきや「仕方ない」と受け入れちゃった。正気か? 確かに1週間我慢したら美しい妹ラケルを抱けるけど、姉のレアも漏れなく人生に付いて来ちゃう。それにあと7年も牧場手伝わなきゃいけない。いいのかヤコブ? いいらしい。「いつの時代も若者ってのは後先考えずに愛に突っ走るもの」と呆れかけたらこの時ヤコブ77歳。分別あるべき高齢者。約束の1週間が過ぎ、遂にヤコブは妹ラケルと結ばれた。ヤコブはレアとラケルの姉妹を妻とした。それだけではなかった。レアとラケルにはそれぞれ女の召使(奴隷)がいた。姉妹がいずれも身籠らなければ召使たちと子作り。一体どういうルール? 実際、レアとラケルはなかなか懐妊せず、レアはヤコブにレアの召使と寝るよう懇願した。それを知ったラケルは「ずるい。だったら私の召使も抱いて」とヤコブに迫った。突然の酒池肉林。ヤコブ、昼は伯父経営の牧場のため馬車馬のように働き、夜は4人の女性相手に種馬のように働いた。羨ましい通り越してもはやお気の毒。

▶約束の7年後までに4人の妻や召使たちは男児12人、そしてディナという女児を出産した。この男児12人が後にイスラエル12部族の祖となる。女児が少ない理由は簡単だ。実際にはもっと沢山いたはずだがこの時代、女児はほとんどヤギや羊と同レベル。正確な数の把握はさほど重要ではなかったらしい。ハランでの14年に及ぶ労役を終え、ひと財産築いたヤコブ。遂にカナンの地へ帰ることを決意。ヤコブは大家族の他、下僕や奴隷、大量の家畜を引き連れてハランを出発した。84歳になっていた。「14年前に長男の権利を騙し取った僕をエサウ兄さんは許してくれるだろうか」。エサウの噂はヤコブの耳にも届いていた。気性の激しいエサウは大勢の部下を従えて荒野を駆け巡り、強盗まがいのこともやっているという。まともに闘って勝てる相手ではなかった。ヤコブは闘うことよりも多くの貢物を渡して和睦する作戦を立てた。14年前の出来事に対する贖罪と共に莫大な貢物リストを使者に託し、エサウの元へと走らせた。しかし念には念を入れ、ヤコブは隊列を二手に分けて野営した。もしも襲われてもどちらかが生き残れるようにとの配慮だ。
▶その夜、何者かが野営中のヤコブを襲った。辺りは漆黒の闇。突然の襲撃にヤコブは慌てた。「誰だ。エサウ兄さんか?」。服従するつもりでここまで来たものの、突然の攻撃に混乱したヤコブは思わず反撃を開始した。ヤコブに襲い掛かった人物とは一体誰か。それはあまりにも意外な人物だった、ってなあたりで次号に続く。チャンネルはそのままだ。
参考:阿刀田高著「旧約聖書を知っていますか」他
週刊ジャーニー No.1324(2024年1月11日)掲載
他のグダグダ雑記帳を読む