■ 第196話 ■アラブ人、誕生の瞬間
▶3年に渡ってユダヤ人の姿を追いながら「旧約聖書」すら読んでいないことに気がついた。そこで阿刀田高(あとうだたかし)氏の入門書「旧約聖書を知っていますか?」を読み始めた。暴力あり、エロあり、何でもありの神話と歴史のてんこ盛り。「これが聖書なの?」というのが率直な感想だ。最も驚いたのは整合性まる無視のストーリー展開。突っ込みどころ満載だ。興味深いので数週に渡ってそのほんの一部を紹介する。決してユダヤ教やその他の宗教を揶揄したり茶化そうとするものではない。しかしそう映ることもあるかもしれない。その時はどうか笑って許してちょんまげ。
▶モーセが神から「十戒」を授かるよりずっと前、天地が創造され、アダムとイヴがエデンの園を追放され、ノアが方舟を造り、バベルの塔が崩壊した後の世界。メソポタミアにウルという街があり、アブラハムという遊牧民が住んでいた。神の啓示を受けたアブラハムは異母妹で妻のサラと甥のロト、そして召使や羊を連れて神との「約束の地」カナンを目指す。カナンとは現在のヨルダン川西岸、パレスチナだ。この時アブラハムは75歳、妻のサラは65歳。カナンに辿り着くと再び神が現われて言った。「お前にこの土地を与えよう」。その後、カナンの地が飢饉に見舞われたため、一行はエジプトに向かった。サラが美人過ぎて自分が殺されることを心配したアブラハムは妻を妹ということにした。事実、妻のサラは腹違いの妹でもあった。エジプト王は65歳の美しいサラにひとめ惚れ。早速王妃として迎えた。展開早い。他人の妻を盗むことは大罪。たちまち神の怒りが現われ宮廷内に疫病が広がった。「妹って言うから手ぇ出しちゃったじゃん」と言い訳しつつも王は妻を横取りしたことを素直に「ごめんね」と詫び、アブラハムに金銀財宝を山ほど与えて宮廷から退去願った。
▶カナンに戻った一行は土地が荒れているため仕方なく2グループに分かれ、甥のロトはヨルダン川東側に向かった。彼の物語は次回。アブラハムは再び神の啓示を受けた。「東西南北ぐるり見渡す限りの土地は全てお前とお前の子孫のものである」。アブラハムは気づいた。「子孫と言われても、うちには子がいない」。困り顔の夫にサラは「それじゃ、この娘と子どもを作ったら?」と言ってエジプトから連れて来たハガルという召使の女性を差し出した。翌年、ハガルは男の子を産んだ。イシュマエルと名付けられた。そして十数年の時が流れた。
▶ある日、アブラハムたちは3人の男とすれ違った。中の一人がサラに言った。「1年後、あなたは子を産む」と。アブラハム100歳、サラ、90歳。サラは「むり~」と首を振るが男は「神に出来ぬこと、な~い」と言って去る。ほんとだ。サラは翌年、男児イサクを産んだ。90歳で初産だ。実の子が出来てみるとハガルとイシュマエルが邪魔くさい。アブラハム夫妻はわずかな食料と飲み物を与えて母子を砂漠に追放した。イシュマエルは荒野で育ち、やがて弓矢の名手となった。このアブラハムの血を受け継いだイシュマエルこそがアラブ人の祖先であり、イスラム教開祖ムハンマドはイシュマエルの子孫だ。イスラム教でアブラハムは「イーブラヒーム」となる。トレンディドラマよりも展開早過ぎる上にストーリーが大胆過ぎて戸惑うばかり。しかしこれ旧約聖書冒頭の創世記に登場する歴史のお話。聖書を批判すれば罰当たる。罰が当たっていなければ次号に続く。チャンネルはそのままだ。
参考:阿刀田高著「旧約聖書を知っていますか」他
週刊ジャーニー No.1318(2023年11月23日)掲載
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